碧落ラストコネクション


ふわっとしたウェーブヘアのその後ろ姿に、ソレイユや戦士たちは目を見開く。

「えっ…オバサン!?」

「オバサン言うな。私まだ18なのよ?」

「そ、それより!何でわざわざ自分からピンチに入るんだよ!!オバサンまで囲まれたら意味ないじゃん!!!」

「うっさいわね。私が何の考えも無しに入るわけないでしょ」

「だからって……うわっ!?」

突然、何かに後ろを引かれるように足が浮いた。凄まじい勢いで、身体が勝手に後ろへと引っ張られていく。まさかレモン・イエローの術にハマったのかと驚いたが、それは違った。

気が付けば、ソレイユはシアンの隣にいた。


「え………?」


今、何があった…?
自分の意志では動いていない。一瞬で体が勝手に引きずられていた。
けれど確かに、ソレイユは地上にいたはずだ。なのに今は、先程までマゼンタもいたはずのビルの屋上だった。

「ソレイユくんにはもう一仕事あるので、ここでシアンと待機しといてください」

もしかして、シアンの能力か何かなのか。以前にも似たような事があった。ソレイユが“碧”から逃げようとしたあの時だ。

自分の背中に施された、黒い“S”の“シルシ”と呼ばれるものと、関係があるかもしれない。

「ていうか、オバサンは…」

「マゼンタなら大丈夫なのです!ほら、よく見ていてください」

シアンの言葉にソレイユは本部の方へ目を向ける。しかしさっきまで戦士たちに囲まれいたはずのマゼンタは、もう既に彼らの後ろにいた。

「も、もう背後に回ってる…!?」

「驚くのはまだ早いのです!“魅惑の歌姫”の異名は伊達じゃないですよ〜!!」

そのままマゼンタは大きく息を吸い込んだ。


──♪…♬…


「えっ……う、歌…?」


予想外の出来事に、ソレイユは目を丸くする。
透き通るような美しい歌声、寒色を彩る曲調に、頭がくらくらする。すると戦士たちがざわつき始めた。

「なっ…!?」

「何だこれは…!?」

「足が……動かない!?」


──♫…

次々と動きを止める戦士達。金縛りにでもあったように体の不自由が効かなくなっていく。その効果は、あのレモン・イエローにも生きていた。
マイナーコードの連なるメロディラインと、
その歌声は正に“魅惑の歌姫”。ソレイユは普段と全く違うマゼンタに驚きを隠せないでいた。

「びっくりしました?」

「う、うん…」

「マゼンタの能力は“音”なのです。彼女が意思を持って鳴らす“音”は、全てを操る…これが、マゼンタ本来のS級犯罪者としての実力なのです」

歌い終えてもその力は健在で、戦士たちは動かないままだった。するとマゼンタはシアンたちがいる屋上の方を見上げ、その場で大声で叫んだ。

「これで私の仕事は終わりよ!!!あとは何とかしなさい!!」

マゼンタが声を向けた方へ、戦士たちも視線だけを移動させる。夜の暗い闇の中、月の光がシアンとソレイユのシルエットを映した。

その影に、レモンは目を見開く。


「あれは……!!」

「レ、レモン様?あの者をご存知なんですか…!?」

「………」

戦士の1人がレモンに問うが、返事は無い。レモンは動かない身体に抗うように必死に首を動かし、後ろにいるマゼンタに目を向けた。

「……お前、マゼンタ・ラヴローフだな」

「あら、知ってたの?光栄ね」

ニヤリと笑うマゼンタに、レモンは眉間に皺を寄せる。

「それにさっきの爆発…あれは間違いなくソレイユ・オレンジのものだ。あの屋上にいる小さい影は彼だろう」

「正解。もしかして、この国は…“アイツ”の情報を他の国よりも多く持っているのかしら?」

赤の国は、“紅の修羅”については本名しか情報を手に入れてなかった。しかしレモンのシルエットを見ただけでのあの反応は、つまりそういう事だろう。

「……この国に何の用だ?」

レモンの問いに、マゼンタは腕を組んで面倒そうに答えた。

「別に黄の国に用は無いわよ。あるのは………そうね、アンタが大事に大事に隠しているお姫様…って言えば分かるかしら?」

マゼンタの言葉に戦士たちは首を傾げるが、レモンは大きく目を見開いた。

「(ハニーの情報を探っていたのはこいつら…という事か……)」

ハニーをどうするつもりだ、と聞きたくて仕方が無い。だが後ろには大量の戦士…自分の部下もいる。下手に名を出す事は出来ない。
それに、月光に照らされたもうひとつのシルエット……


「貴様らは何なんだ……S級犯罪者が寄ってたかって何を企んでいる…!?」


S級ほどの実力にもなれば、他者とつるんで何かをする事は少なくなるが……今回のテロから、組織か何かで動いていると考えるのが妥当だ。
……何かひとつの目的のために。

「さあ?知らないわ。だってうちのリーダー、私たちには何も言ってこないし」

「じゃあお前たちは何故動いている…?何の目的のために…」

「ま、うちの組織かなり自由だから」

そんな組織は聞いたことがない。何かしらの目的のために必要な人数を揃えて動くのが組織というものだ。更に個々の能力が高い組織となると、その目的も大きなものになるはず。

何よりその組織のトップが問題だ。
異名と、殺しの時の特徴以外の情報は不明。だが黄の国は、あの事件の目撃者が多数いたお陰で、その身なりの情報を得ている。

赤い髪…というのは偽りである事。青い服を着ていて、性別は女である事。特に特徴的な、鎖状の長い水色の髪である事も、情報局や本部の上の人間は知っている。
暗くて色は確認出来なくとも、そのシルエットは情報と完全に一致していた。


「お前達の頭…あいつは……!」


ある木製の建物の最上階に、ダイナマイトと共に空のシルエットが飛んだ。


「“紅の修羅”なのです」


ドンッ!!!!!
月夜に照らされた、オレンジ色の煙が上層部を包む。あの建物の最上階には、何年もかけて、必死に隠してきた大切な人がいる。
レモンは血の気が引くのを感じた。

「ハニー!!!」

周りに部下がいることも忘れて、愛しい者の名を叫ぶ。
崩された。何年も積み上げてきたものを。
国から、世界から、理不尽な悪から守り続けていた人を。

気付けば足は勝手に動いていた。
間に合え、間に合えと必死に心臓を叫ばせながら。

「(レモン・イエロー……顔は良いんだけど…アンタの愛は、歪すぎたわね)」

未だマゼンタの能力の効果で動けない部下の戦士を放って走る姿を見て、マゼンタは呟いた。


「私の力を自力で解いてしまう程に、真っ直ぐ愛を向けられるのが……少し羨ましいわ」


オレンジ色の煙が薄れる頃には、黒雲が月を隠していた。




#04 黄の誘導
──空色の日向まであと少し。



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