放課後
着替え終わり、放課後。
「よかったらさ、今日の反省会しねー?!」
「いいねー!!やろやろー!!」
切島と芦戸が先頭きって言い出した。私は…こんな気分で混ざる気はない。
バレないように教室を抜ける。
すると扉の前で緑谷と会った。
「あっ!砂像さん…こんな…情けないよね。僕、自分の個性をちゃんと制御できないんだ…かっちゃんにこんなにボロボロにされちゃうし、もっと…強くならなくちゃ…!」
「…緑谷は絶対強くなる。でも私は誰にも負けないから。強く、なるから」
「砂像さん?」
悔しさに下を向いたまま緑谷を通りすぎる。
少ししたら今度は緑谷が私の横を走って通り過ぎていった。
靴を履き替えて外に出ると少し先で緑谷と爆豪の声が聞こえてくる。
「だからなんだ!?今日俺はてめェに負けた!!そんだけだろが!そんだけ…氷の奴みてっ!敵わねえんじゃって思っちまった…!!クソ!!!砂像にだって!ポニーテールの奴の言うことに納得しちまった…クソが!!クッソ!!!なぁ!!てめぇもだ…デク!!!こっからだ!!俺は…!!こっから…!!いいか!?俺はここで一番になってやる!!!」
彼の声は泣いていた。私がさっきまで考えていたことをすべて言われてしまったようだった。心に全ての言葉が突き刺さる。悔し涙が頬を伝う。
誰にも見られぬように涙をぬぐうと、爆豪に追い付かないようゆっくり歩く。
すごいスピードで私の横を通り抜けていったがそれはすぐに帰ってきた。
オールマイトか。何か言いたそうにしていたが気づかなかった装いで門を出る。
「おい、砂女。盗み聞きかァ?!」
絶対気づいてないと思っていたのに気づいていたのか。
「別に」
「いいか、俺はてめェにも負けねーかんな!今回は当たらなかったが、次は全力で叩き潰す!!!」
「…私だって、あんたに負ける気はない。絶対勝つ。全員に勝つ!じゃないと…誰もっ守れない…守りたもの、守れない!強くならなきゃっ…っ…私は一番強いヒーローになって、守るんだ!!!こんなのっ…こんなのこんなのこんなの…!!!!」
口に出した途端止まらない言葉。さっき無理やり我慢して止めたのに涙さえも全てがあふれ出してくる。
目をこすってもこすってもとめどなく出てくる涙に目の前にいる爆豪も引き気味だ。
「っ、おいアホ!!んな目ェこすんなって!!!」
腕をつかまれて目をこするのを止められるが、今は止めてほしくない。
「うっ…見るな、見るなよぉ」
睨むが爆豪は怯みはしない。
「…こっちこい」
私の腕を掴んだまま引っ張っていく爆豪になす術もなく泣きながらついていく。
路地にひっぱりこまれた。
「…さっさと泣き止めアホ」
それから私が泣き止むまでずっと背を向けて待っていてくれた。
だいぶ日も暮れてしまった。
天敵にこんな失態を見せるなんて…でも…
「ばくごぉ…」
私が泣き止んだのを確認してから何も言わずに立ち去ろうとする爆豪の服を掴んだ。
「あァ!?」
「っ‥‥あり、がと」
父上と母上以外に感謝を言う日が来るとは思いもしなかった。
他人に向け放つ初めての言葉に自身で恥ずかしくなっていき少しずつ声も小さくなりうつむきがちになる。顔も熱い。きっと涙でぐちゃぐちゃだ。でも、これは目を見て言わなければいけないことをわかっていた。
「‥‥っ!!ったく、いいか、俺意外にぜってぇー負けんじゃねぇぞ。そんで俺はてめェに勝つ。わかったか!!」
「あんたにもっ!勝つもん!!」
そして私たちは帰路についた。
「相澤君…今日のVはもう見たかい?」
「オールマイトさん‥‥これ…」
「ああ、そうなんだ。彼女はいったい…」
クラス全員の今日の戦闘訓練のVTRを一通りみた。
第二戦のある部分で目を見開く。勘違いだと、気のせいだと思いたくて何度も何度も巻き戻し繰り返し見ては逆に確信を得て現実を突きつけられる。
彼女は‥‥砂像砂子は…人を傷つけることになにも感じていない。
初の戦闘訓練。ヒーローを目指すものとしては避けられない道だがやはり普通は多少なりとも人を傷つけることに抵抗を表す。爆豪は普段から緑谷に対し暴力をふるっていたのだろう。でもそんな彼でもサポートアイテムを使うとき少し躊躇する素振りがあった。本人も気づいていないだろうし、プロがじっくり見ないとわからない程度だったが。
しかし彼女はクナイという武器を無表情で微動だにせず振り下ろしたのだった。未遂で終わったが。それはまるで人間が呼吸をするように、当たり前だと言えるような面持ちで。
そのあとに放った手をつぶせばよかったという言葉にもその節が出ている。
何気なく言ったようにも見えるが、これは本気であり、さもなぜあの時そうしなかったのかと後悔したように言ったのだ。
「オールマイトさん、俺もしっかり見ておきます。あなたもしっかり見ておいてください」
「ああ、もちろんだよ」
「‥‥このままじゃ死人が出る」
はぁ、と深いため息をつきもう一度VTRを見る。
めんどくさいことになったな…
そういえば入試の時も同じことをし、同じことを思ったなと思い出しまた深いため息をついた。
砂像…お前は何を抱えている。
なぜそんなにも戦闘に慣れていて人を傷つけることを厭わない?
なぜそんなにも大人を…他人を嫌う?
頭を撫でた時に見せる嬉しそうな顔とは裏腹に、時折見せる彼女の暗い部分に胸を締め付けられ舌打ちをする。
(頭が痛い…)