プロローグ


ある日目が覚めるとそこは見たこともない世界だった。
私はあれからどれだけ眠っていたのだろう。
昨日のこと、あるいは先ほど起こったことのように思える自身の死はどこか現実味がなく客観的になってしまう。
沢山傷ついて、それこそ死んでしまうほどの致命傷だったのに不思議と体に痛みがない。
それどころか絶好調だ。
そして次の瞬間私の周りは時が止まり、驚くべき現実を突きつけられる。

「あー!ジロウさん!!見てみて砂子が目を覚ましましたよ!かわい〜!」

「わぁ!本当だ!!見えてるのかな?砂子、初めまして。パパとママだよ」

そう言った二人の顔にはとても見覚えがあったからだ。
というか私がずっと、長年求め続けていたもの。あの日失ったもの。
ずっとずっと会いたくてしかたがなかった。
この二人は正真正銘私の大好きな父上と母上だ。

私は死んだのだ。これは私がずっと追い求めあこがれていた夢なのか、はたまたここは天国なのだろう。その時の私はそうでしか考えられなかった。



月日は流れ私は現在小学校に上がろうとしている。
この6年間はとてつもなく色濃いもだった。
まず、ここは夢でも天国でもない。そして私はなぜか赤ん坊になっていた。
そこで気づいた。私は転生というものをしてしまったのだと。
今まで身の回りのことは全て自分でしていた為、ご飯を食べさせてもらったり排泄したり、服を着替えさせてもらったりと至れりつくせりなこの状況は羞恥以外の何ものでもなかった。
何なら大好きな父上、母上の手を煩わせてしまったことで嫌われていないだろうか・・・
そんなことばかりを考えていたからかある程度一人立ちができ舌ったらずだけれども言葉がしゃべれるようになった頃にはごはんも一人で食べるしトイレも着替えも全部ひとりでやった。
本当ならば料理だってできるはずだ。だが一般の幼児はそうではないらしい。
確かに前世のこのくらいの時期の私はまだ歩くのに精一杯だった。
私に前世の記憶があるように、父上母上に前世の記憶があるとは限らない。不審に思われないようにそれ相応の行動をとるのも当時の私にとって“当たり前”となっていた。
そんな私をみて父上母上は私のことを天才だとか、神の贈り子だとかよく騒いでいた。やりすぎたようだ。

もう一つこの世界では“当たり前”となっていることがある。
それは世界総人口約八割が何らかの特異体質である超人社会であるということ。
簡単に言えばほとんどの人が“個性”という超常を持っていてそれを生かした職種に就くというのがこの世界の決まりであった。
もちろんその超常に伴い爆発的に増加した犯罪件数。法の抜本的改正に国がもたつく間勇気ある人々がコミックさながらにヒーローを始めた
超常への警備、悪意からの防衛・・・たちまち市民権を得たヒーローは世論に押される形で公的職務に定められるようになったのだとか。
悪意を持った個性使用犯罪者は敵、それを捕まえるのがヒーローと呼ばれるようになった。
そしてそのヒーローという職業そのものが人々の憧れらしい


そしてそしてこの人たちも。

「砂子はもう小学生ねー!成長は早いわ・・・将来何になりたいとかあるの?やっぱりヒーロー?」

「早いなぁ・・本当に早いなぁ・・・砂子は優しい子だし、何よりもその“個性”!ヒーローになったらすっごい活躍するんだろうなぁ!!」

ランドセルを背負わされながらいろんなポーズや角度で写真を撮りつつそんなことを言う父上母上に少し苦笑してしまうが、前世でできなかったことだ。思う存分二人を喜ばせなくては。

「ヒーロー・・・なったらうれしいですか?」

愚問をぶつけてしまった。
「ん〜…そうだねぇ、砂子が幸せならなんだっていいんだけど。でもその個性は人々を救うために使ってもいいんじゃないかなって思うよ。もちろん、無理はしない程度にね。砂子は生きているだけで十分さ」

そういって私を抱き締めてくれる父上。
ああ、この時がずっと続けばいいのに。
いや、今世では絶対続けさせる。何が何でも父上母上を守り抜いてお互い寿命の限り命を全うするのだ。ならば私には答えは一つしかない。
父上母上を守り、父上母上が望む将来の姿…

「わたし、ヒーローになります!それで、ちちうえとははうえを守ります!!」

「「砂子っ・・・!!」」

きっと二人には小さい子供が発した戯言のように聞こえたかもしれない。
けど私は違う。これは本気だ。
目を閉じれば瞼の裏に焼き付くように思い出される赤い炎と死に際の父上母上。
火事でなくなったと思っていたが実のところは策略的に殺された。

もう、二度とあんな思いはしたくないから。

もう、二度と二人は殺させやしないから。



それからまた月日は流れ私は中学3年生。
あの日守ると決めた約束はこの胸に。
一日たりとも無駄にはできない、そう思いそう誓ったあの日から毎日特訓を積み重ねた。
個性は公的な場所では使えない為学校の特別授業時でしか練習はできなかったが、チャクラを練ったり簡単な忍術は家でもこっそりできた。
そう、これは誰にも言えないのだけれど私は前世での力も使えるみたいなのだ。突発的に出たこの個性よりも忍術のほうが使いやすい。
成長途中の身体が身体なだけに最後私が死ぬときに使えてたほどのチャクラは練れないし、忍術もへぼいものだけれども、修行を積み重ねていくうちに少しずつマシなものへと変わっていった。
ある程度大きくなってからは休みの日は山や海で修行を積み重ねた。
山や海では本格的に忍術を使った修行をする。はたから見ればこれも個性に見られるのだろうけど誰もいないし来ない場所なのでそうそう問題になりはしないだろう。それにこれは個性じゃないし。
でも使えるものは使いたい。実際“個性”も少し練習した。それは内緒だ。
帰ってくるたびに傷を増やしてくる娘に二人は毎度心配そうな顔をする。
そのたびにヒーローになる為に…と一言いえば心配はしつつも少し安堵するような表情に申し訳ない気持ちになりながら自室へ戻るのだった。

\Summer_Dive!/