両親が死んでしまった、らしい。どこか現実味のないそれに、悲しんだら良いのか怒ったら良いのかさっぱり分からず、私はただその場に佇んでいた。中二の夏だったか冬だったか、それは忘れてしまったのだけど、そのくらいに、私の両親は死んでしまった。近界民、というバケモノが襲ってきて、その混乱に巻き込まれて瓦礫の下敷になってしまった、と誰かから聞いた。勿論悲しくて悲しくて、暫くはふさぎこんでいたけど、まだ中学生。生きていくのに必死で、悲しみなんてすぐにどこかへ行ってしまった。こういう奴のことを冷たい、と言うのだろうなとどこか他人事のように考えていた。引き取ってくれた叔父と叔母は割と優しくしてくれたけどやっぱりどこか肩身が狭くて、私は中学卒業と同時に家を出ることを誓った。二人にもそれを告げると、気にしなくていいと笑いかけられたけど私が無理だ。親戚でも他人は他人。家族にはなれない。しかしまあ、一人暮らしをするとは簡単に言えても生活は困難なものなわけで。手っ取り早く、中学生でもお金を稼げる方法はないだろうかと半分冗談で友人に相談してみれば、友人は笑って「あ、それなら一緒にボーダーに入らない?」と誘ってきた。言われてその手があったかー、と納得して、そうだねと頷く。ボーダーとは、分かりやすく言えば対近界民用の組織である。割と支払いは良いらしい。これは入らない手はない。叔母さんたちには両親のためにとか言っておこう。一人暮らしをするためだけど。

 そうして中学三年、私はボーダーという組織に入ることにしたのである。


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 しかしまあ、ボーダーに入ってからすぐに給料なんて貰えるものではなく、無給の訓練生として残りの中学時代を過ごした。高校は叔父さんと叔母さんの勧めもあり今の暮らしのまま進学校に進学したが、来年には一人暮らしを始めたいと思っている。いつまでも二人に甘えているわけにはいかないのだ。両親はもういない。ならばそれなりにしっかりしなければ。


「ほう、君才能あるんじゃないか」

 地道に命中率を上げつつランクを上げていっていると、そのうちB級に上がることができた。B級に上がって暫くして、ふとそう言われて私は的に向かっていた意識をそちらに向けた。声の方を見上げるとそこには少し髪が長めの男の人が立っていて、私は首を傾げつつどうもと小さく会釈をした。なんか見たことある、と呟けば「東春秋という。よろしく」と名乗られて少し驚く。東春秋って、あのA級一位部隊のあの人だ。うわあすげえ。そんな人に褒められたよ私。内心でテンションを上げていれば東さんはにこりと素敵笑顔を浮かべ「良ければ練習に付きあおうか」と申し出てきた。え、それはちょっとめんどくさい…とは思ったがそれは勿論言えるわけもなくて、「お願いします」と頷いた。余談だが、一緒に入った友人はいつの間にか辞めてしまっていた。
 東さんの指導のもと、私は着々と実力をつけていき、動かない的ならばほぼ真ん中に命中させることができるようになった。東さんにはスジがいいなと褒められた。いっぱい褒めてくれる東さんは素敵な師である。勝手に師匠呼ばわりしてるけどきっと大丈夫だ。だって東さん沢山弟子をとっているもの。一人くらい混じっていたってきっと誰も気付きやしない。

「お前、東さんに気ぃ掛けてもらってるとか明日には刺されてんじゃね?」
「うげ、怖いこと言わないで」

 同じ狙撃手として最近仲良くなった(?)当真勇の言葉に顔を歪める。東さんは実力良し性格良しのできた人間なのでとてもファンが多い。ので、この当真の言葉は非常にシャレにならない。言葉にすると本当になる気がするので言わないでもらいたい。
 これも余談だが、当真はこう見えて凄いやつなのだと先ほど知った。なんというか、天才というのはこういう奴のことを言うのだなと妙に納得してしまった。今でこそまだ入ったばかりでC級にいるものの、恐らくこのままいけばすぐにB級…いや、A級まであがれること必至だろう。確信できてしまうほどこいつの狙撃は的確だ。本当、変態じみていると思うくらいには。
 失礼なことを考えているのがバレてしまったのだろう。ゴツンと額を小突かれて(小突かれたとかそんな音じゃなかったけど)睨まれた。畜生、このリーゼント野郎。いつの時代だその髪型は。古くせーんだよしね。ばーか。

「じゃ、俺行くわ」
「あ? おー」
「東さんのファンに刺されないよう気をつけとけよー」
「やめろしね」

 こいつホント無理。顔を歪め、思わず舌打ちをすると、去りながらヒラヒラと手を振ってきた。あの余裕感腹立つ。脳天ぶち抜かれてしんでしまえ。

ボーダーへ入隊

SANDGLASS