「ふー…」
私はたった今倒したばかりの近界民を見下ろし、大きな溜息を吐き出した。
ここは立ち入り禁止区域ではない。だというのに、最近何故か市街地にイレギュラー門が開くことが多くあり、今なんだかんだと問題になっているらしい。…なんかA級に上がった途端こういうのとか勘弁してほしい。なんなんだよ。運悪くそのイレギュラー門の近くに居合わせてしまった私は非番だというのに駆りだされてしまった。もちろん非番なので凩さんはいないし他の隊員もいない。狙撃手だけでやれって結構鬼畜。倒したけど。
「あー、こちら橘。任務完了しました」
名風ちゃんも非番なので他のオペレーターの人にそう伝えて、通信を切る。さて、このままもう帰ろう。どうせ非番だし。
そう思い、丁度換装を解いたところで、耳馴染みのある声が耳に届いた。
「あっれ、橘さんじゃないすか」
「…、うわ、米屋だ」
「うわとかひっでえ」
「えーと三輪くんもどうも」
相変わらず目付きの悪い三輪くんにひらりと手を振ると、軽く会釈が返ってくる。うーん悪い子じゃないんだけどどうにもこの子は苦手だ。あんまり話したことないのと目付きと色々要因はあるけど。一番は周りにいないタイプだからってのが大きい。どうしたらいいのか分からん。
「狙撃手一人で応戦してるから応援行けって言われたんすけど……なんか終わってるっぽいすね?」
「まーね。終わらしちゃったよなんかごめん」
「いやいや、凄いっすねー流石凩隊狙撃手」
「隊は関係ないだろー。まあ私帰るから。じゃーね」
「あれ、報告は?」
「……オペレーターの人に言ったけど」
「イレギュラー門のことについてちょっとでも情報欲しいらしいんで原則本部に戻って報告っすよー、もしや聞いてない?」
「あー……きいた……? ような……?」
なんかそんなこと凩さんが言ってたような気がする。多分言ってたんだろうな、うん。あの時興味なさすぎて全然聞いてなかったからな……あー…
「報告行ってくるわ…」
「うぃーす」
くっそ非番なのに。
▽
「ってことがあってさ? 最悪だよもう」
「はあ、それはお疲れ様です」
次の日、防衛任務の入っていた私は作戦室にて、昨日あったことをすでに来ていた名風ちゃんに愚痴っていた。相変わらずクールな反応を返してくる名風ちゃんはどうやら今日の任務の準備をしているらしい。真面目だ。
「へえ、噂のイレギュラー門か。あれ何なんだろうな」
「あ、凩さん。いたんですか」
「いたよ!? というか俺来た時「こんにちは」って返してきたよな!?」
「さー記憶にございませんが」
「泣くぞ!?」
「どうぞご勝手に」
いつものように粗雑に返していたらホントに泣いてしまいそうになったので面倒臭いが背中を叩いて慰めてやる。もうこのくらいいつもの事なんだから反応せずにスルーすればいいのに……まあでも私も悪いしお茶でも淹れてやるか。そう考えて給湯室に行く。
私達凩隊がA級に上がってから、勿論だが作戦室はA級専用の広い所に移動になった。私の羨ましがっていた給湯室も付いているし、訓練用の設備も数段良いモノに変わった。後はA級隊員の特典として自由に武器をカスタマイズ出来るらしいが、今の所私も凩さんも活用はしていない。そのうち機会があれば、って感じだ。
淹れたお茶を持って凩さんの元に行く。
「はい、どーぞ」
「あ、ありがとう」
「名風ちゃんも。はい」
「、ありがとうございます」
無心でパソコンをいじっていた名風ちゃんは私からカップを受け取ると、一息つくためか私と凩さんの座るテーブルの方へ移動してきた。そこからまた雑談が始まる。A級に上がっても変わらない仲の良さである。
暫く話した後、ふと凩さんが時計を見上げた。
「防衛任務って何時からだっけ?」
「三時ですね。まだ一時間ほど時間があります」
「一時間か……ごめんけどちょっと二宮のところ行ってくるな。すぐ戻るから」
「最悪十分前に戻ってくればいいですけど」
「了解。じゃあ行ってきます」
そう言って急いで作戦室を出て行く凩さん。見送って、名風ちゃんと顔を見合わせて笑った。
▽
それから少しして、イレギュラー門の原因が分かったらしく、隊員総出でその対処に追われていた。なんでもラッドという小型トリオン兵にイレギュラー門を作り出す機能がついていたらしく、そいつを全滅させれば解決らしい。
凩隊も勿論参戦した。思ったよりも小さいそいつを撃ち殺して、じっと見つめる。くっそ、こいつのせいで私の非番が……マジ許さない。
「穂村、顔怖い顔怖い」
「は? いつものことですけど? なんか文句あります?」
「なんでそんな機嫌悪いんだよ…」
凩さんが窘めるようにそういうが私は腹が立って仕方がない。なんかこう、予定外のことが起こると無性に腹がたつの分かるかな? これの後家でゆっくりしようとか本屋寄ってお宝発掘しようとかそういう感じのこと考えてんのにそれを崩す出来事が起きた時のあの絶望感な。私はあれが大嫌いです。
「今日だってこいつのせいで余計な仕事を…」
「まあまあ……与えられた仕事をきっちりこなそう? な?」
「チッ 優等生かよ…」
「なんで舌打ちするんだよ!?」
喚く凩さんを無視してまた湧いてきたラッドを撃ち殺していれば、「あ! 穂村じゃん」と聞きなれた声。振り返ると思ったとおり犬飼がいて、ようと手を振り返す。近くに二宮さんと辻くんもいた。
「どう? 順調?」
「疲れた」
「質問の答えになってないですね」
二宮さんは凩さんの方に行き、犬飼と辻くんはこっちにきた。まあメンバー的にそうなるよなと適当に話をしつつ、湧いて出てくるラッドを駆除していく。
夕方頃にラッド退治は全て終わり、何故か迅さんの一言でそれは終了となった。私あんまり迅さんと絡んだことないけど今なんかやってんのかな。俺のサイドエフェクトがそう言ってるとかうんたら言ってなんかしてたりするんだろうか。いや関係ないけどなんか暗躍してる感腹立つよな…
「穂村ー! このまま帰り二宮たちと焼き肉行かないか?」
思案していれば、少し離れたところから凩さんがそんな提案をしてきた。私はそれに答えて、それまでの思考を放棄した。
ラッドマジ許さない