「そういやもうすぐ当真帰ってくんね」
狙撃手の訓練直前、ふと隣のブースにいた奈良坂くんにそう溢してみると、ものすっごい顔で見られた。うわあイケメンが台無しだよ奈良坂くん。そんなに当真が嫌いかい。
因みに帰ってくるというのは例の近界への遠征のことについてのことなのだが、ああもう本当に羨ましい。行きたくはないけど目標としては掲げているので早く行きたい。あこれ矛盾してる。
A級に上がり、それから狙撃手としての順位も上がってきたことで最近ちょくちょく話すようになった狙撃手個人ランク二位の奈良坂透くんは、どうやらあの適当大魔王で狙撃手個人ランク一位の当真が嫌いらしい。奈良坂くんは見る限り超真面目みたいだし、まあ確かに当真とは馬が合わないかもなあ、とは思うがまさか名前が出てきただけでこんなに嫌そうな顔をされるとは誰が思うだろうか。当真もしかして馬が合わないだけじゃなくて他になんかしたんじゃないの。この嫌がり方尋常じゃないよ。こわ。
「なに、当真そんなに嫌い?」
「嫌いというか、腹が立ちます」
「それ嫌いと何が違うの」
「微妙な違いですけど……普通分かりませんか」
「その手の理解を私に求めないでくれよ」
ドライモンスターでないと否定はしているものの、本当に人の気持ちというのは汲み取るのが難しいと思う。特にユズルとか、犬飼とか。凩さんとかに言わせたら犬飼ほど分かりやすいやつも珍しいらしいがあいつが一番何考えてんのが分かんないからちょっと理解ができなかった。うーん、難しい。
「奈良坂先輩! こんにちは!」
「…日浦」
「あれ、日浦ちゃんだ。久しぶり」
「あ! ハイ! こんにちは、橘先輩!」
人の気持ちについてらしくないことを考えていると、元気な声が耳に届く。声をかけてきたのは奈良坂くんの弟子だという日浦茜ちゃんで、元気で可愛い確か三つくらい年下だったと思うので中学三年生辺りだろうか。二つ結びにした髪型がよく似合っている。
「奈良坂先輩、隣いいですか?」
「ああ」
「日浦ちゃん、相変わらず奈良坂くんのこと大好きだねー」
「ハイ! 超尊敬してます!」
わあ超純粋。かわいいなあなんか私の周りにはあんまいなかったタイプだ……太一と似てる気がするけど太一は男だしなあ……太一が女の子だったら可愛かったろうな……
「穂村せんぱーい! こんにちは!!」
「太一お前性転換しろよ」
「え!?」
超タイミングよく太一が近寄ってきたので思わずそう溢してしまう。太一が戸惑っているが面倒なのでフォローはサボろうと思う。
で、まあ一時的に太一を弟子から破門していた私だが、A級に上って無事太一をまた弟子に迎えた。まあ宣言通りちょくちょくあってはいたのでそんなに変わったことはなかったが、私に破門されている間も訓練を積んだらしく、狙撃の腕が若干上がっていたのには驚いた。褒めたら顔を真っ赤にして喜んでいた。うるさくて暑苦しいけど可愛い奴だ。
そんな感じにどうでもいいやり取りをしているうちに、訓練が始まる。動かない的がどんどんと遠退いていく。まあ左右に動いたりしないし全然楽勝だけどなんか隣に怖いくらい正確な奴がいるから自分の的が糞に思えるよね……命中率はいいほうなのに……悲しいわー。私もう奈良坂くんの隣には絶対座んない。
訓練が終わり、そこそこ真ん中に弾が集中している私の的を見て、太一が滅茶苦茶褒め称えてくる。やめて隣に奈良坂くんの的があるから素直に喜べない。分かってる太一にイヤミなんて言えないのは分かってんだけど! でもね! なんかね!
「やっぱり穂村先輩は凄いですね!」
「やめろよ馬鹿!!」
「いてっ」
▽
「っていうね」
「あーね……というか穂村でも劣等感?みたいなのあったりするんだ」
「あるよそりゃ……私より上なんかいっぱいいるし、それを目に見える形で突きつけられれば、そりゃヘコむし奮起するわ」
「ふーん?」
翌日、学校でいつものように犬飼に昨日あったことを話すと、またなんとも失礼なことを返された。こいつは毎度思うけど私のことなんだと思ってるんだろうか。そりゃあ劣等感くらいあるよ。鳩原にも劣等感感じっぱなしだったよ。だってあいつ結構凄かったし。狙撃は絶対鳩原には勝てないなって思ったし。
「っていうかそっか遠征組帰ってくるんだっけ」
「うん確か二、三日くらい先だったと思うけど」
そっかーと犬飼は間の抜けた返事をして、それから黙り込んでしまった。そういえば二宮隊も一度遠征が決まって、それでしばらくして遠征を取り消されたんだったっけ。原因は……正直意味分かんないしおかしいことだらけだけど、一応鳩原、っていうことになっている。それについて何か思うことでもあるのかな、と私も放っておくことにする。
「あのさあ」
「あ?」
「当真帰ってきたらちょっと顔面パイとかやってみたいんだけどとうかな?」
「私の気遣い返せ」
「えッ!?」
こんにゃろ人が珍しく気を遣ったのになんだよ顔面パイとか。楽しそうじゃねーかよ混ぜろよ。やりたいわボケ。
それにしても本当に考察が当たんない。悲しいくらい当たんない。何でだ。他人の気持ちって難しい。だからドライモンスターとか言われるんだろうな…
「人の心が読める力が欲しい…」
「断固反対」
なんでだよ。
他人の気持ちを知りたい