「うーん、けっこー良い値段するねぇ」
「おうそうか。もう一個頼んでいい?」
「あははー、ダメに決まってんでしょ」
私は今、犬飼と共に駅前のケーキ屋さんに来ていた。少し前に貸した、英語の予習ノートのお礼で犬飼にバウムクーヘンを奢らせている。バウムクーヘンの値段の記された伝票を片手にブツブツと文句を言う犬飼は懐から財布を取り出し苦い顔をしていた。予習なんて数日前にしとくのが当たり前だ。後々やると面倒だし今回の犬飼のようにいつ防衛任務が入るかもわからないわけだし。というか私は家でやらずに学校でさっと終わらせるタイプだし。家でやると集中力が続かない。とまあ、防衛任務が入っていたとしても予習をやる機会なんていくらでもあるのだから、今回のバウムクーヘンは妥当なところだろう。ここのバウムクーヘンは美味しいけど高いし、一人暮らしのためお金を貯めている身としてはバウムクーヘンを定期的に買うのは厳しい。なので今回のこれは結構ありがたいことだったりする。
「つーかこの後どうする?」
「は? 帰るけど?」
「え、マジでケーキ食べて帰るだけ!?」
「いや他に何すんの」
「いやいや、友達同士で駅前来てんだから色々することあるだろー」
呆れ顔の犬飼にイラッとしながら、あまりピンとこずに首を傾げる。そういえば中学ではいろいろあってあんまり友達と遊んだりしてなかったからな。ううむ。
「じゃあ駅前の本屋付き合って」
「ん? 何か買うの?」
「うん。好きな作家の新刊出るから」
とりあえず犬飼と別れてから行こうと思っていた場所を切り出す。目的を告げると犬飼は驚いたような顔をしてこちらを凝視してきた。なんだよ。目潰しすんぞ。
「なんか意外。穂村小説とか読むんだ」
「まー、家であんますることないし」
叔母さんや叔父さんといるのがなんとなく気まずくて部屋にこもることの多い私はよく漫画や小説で暇を紛らわせていた。最近では作家で本を選ぶようになったりシリーズ物を進んで買うようになったりと楽しみ方を自分で見つけている。
「ふーん、じゃあ後で本屋行こっか。俺も漫画の新刊気になるし」
「うん」
なんかデートみたい、と呟いた犬飼の台詞は聞こえないことにした。
▽
「で、結局夕方まで遊んだのか」
「うん。なんか暇だったらしいよ」
「暇ねえ…」
その次の日、当真に会ったので何となく昨日のことを話したら、少し微妙な返事が帰ってきて首を傾げる。なんだよ、犬飼が暇だったらなんかおかしいのか。見るからに暇人そうじゃないか犬飼。
「いや、別に何でも」
「? まあいいけど。なんかことあるごとに帰ろうとしたら半泣きで止められて」
「流石にかわいそ過ぎるからやめてやれよ」
「え真顔?」
レアな当真の真顔に驚きつつ、でも本読みたかったしなあと一人ごちる。先に本屋に行ってしまったからいけないのだ、あれは。
「まあでもあれが嫌だったならもう誘ったりはしてこないでしょ」
「………(不憫)」
最後まで当真は呆れ顔を崩さなかった。
犬飼とバウムクーヘン