こんがらがるがる

 私、蓮井陸には友達がいない。ここ、三門市立第一高校に入学してから早一ヶ月、私には、一人も友達がいなかった。

「ははは、相変わらずだなあ、陸は」
「迅さんうるさいんですけど」
「はいはい。…いやあそれにしても高校でも友達がいないのか。中学の時もいないって言ってなかったっけ?」
「ほんとにうるさいんですけど!!」

 目の前で私を馬鹿にしたように笑うその人…迅悠一は近所に住むお兄さんだ。小さい頃から幼い私の相手をしてくれていた優しいお兄さん的な存在だが、最近その言動にイラッと来ることが多々ある。迅さんに「反抗期かなあ」と言われたときもイラッとした。もう私は高校生なのだから、子供扱いしないで欲しい。

「昔は悠一くん悠一くんって俺の後を着いて回ってたのになあ」
「だから昔のこと掘り返すのやめてくれませんかね。…あーもういいですよ。迅さんに相談なんかするんじゃなかった…」
「寂しいこと言うなよ」

 迅さんはそう苦笑して、少し考える素振りを見せた。どこか、宙を見つめてボーッとしているようにも見える。よく迅さんはこういう仕草を見せることがあった。何をしてるのか聞くと、いつも迅さんは「可能性を見てるんだよ」と言う。よく分からない。昔から迅さんは不思議な人だった。

「うーん、そうだな。陸」
「はい?」
「おれが陸の友達作りに協力してやるよ」
「…は?」

 何言ってんだこの人。


 ▽


「い、いやあの、迅さん? ここ玉狛支部じゃないですか? 私ここ来ていいんですか? ちょっと、聞いてます!?」
「うんうん聞いてる聞いてる。陸は一応隊員だから大丈夫だよ」
「い、一応って失礼な」

 そりゃあまだC級だけど! もうちょっとで4000点いきそうなんですよ? ちょっと聞いてますか迅さん。そう文句を言うが、迅さんは聞いていない様子だ。くっそ腹の立つ。畜生、迅さんてば自分がS級隊員だからって馬鹿にしやがって。じとりとした目で迅さんを見ていると、ガチャ、と奥の部屋の扉から誰か人が出てきた。

「あれ? 迅さん帰ってたんだ。…ってあれ? 後ろの子は?」

 中から出てきたのは眼鏡にロングヘアの女の人だった。途端に私は口を噤んで、迅さんの後ろに隠れた。迅さんが私を見て「さっきまでの威勢はどうした?」と笑っている。このやろう。後で覚えてろよ。

「この子は蓮井陸って言って、おれの近所に住んでる…幼馴染みたいなものかな」
「へえ、迅さんの幼馴染! アタシは宇佐美栞です。宜しくね〜」
「ど、どうも」

 気さくなその人……宇佐美さんにおずおずと礼をした。隣で迅さんがケラケラと笑っている。くそ、腹立つなもう。

「京介は? まだ帰ってないの?」
「ん? とりまるくん? いやまだ帰ってないよ〜。こなみもレイジさんもまだだね。陽太郎ならいるよ。今は寝てるけど」
「そっか。まあもうすぐ帰ってくるだろ」

 迅さんはそう言って、一人で扉の中へ入っていってしまう。え、ちょっと。待って知らない場所で一人にしないで!

「迅さん!?」
「おおっと、あーごめんごめん、一人にして悪かったから引っ張るなよ」
「知らない場所に連れて来といて放っとくとか酷くないですか、ちょっと」
「あはは、陸ちゃんは迅さんのこと大好きなんだねえ」
「あはは。だろ?」
「イエ違いますけど」
「陸そんな真顔で否定されると流石に悲しい」
「知りませんそんなこと」

 冷たくそう言いつつも、掴んだ迅さんの腕は離さない。知らない場所で、知らない人と一緒にいる苦痛は迅さんには分からないだろう。なんか迅さんは誰とでも仲良くできそうなイメージがある。なんとなくだけど。

「まあでも陸、今宇佐美しか居ないみたいだしよかったじゃんか」
「何がよかったんですか……私の人見知り知ってるくせにひどい……迅さんなんか嫌いだこのやろう」
「勢いで嫌いとか言わないでよ。ホントに傷付くから」

 頭をポンポンと撫でられたので、その手をベシ、と払いのけてやる。迅さんは苦笑して手をヒラヒラと翳してみせた。「反抗期いつ終わるのかな〜」なんて言っているが反抗期じゃないので終わりはきません。というか一応年頃の女の子なんですからちょっとくらい触るの躊躇してもいいと思うんですよね。まったくいつまで経っても子供扱いだ。腹がたつ。
 迅さんとそんなやり取りをしていると、宇佐美さんがお盆を持って部屋に入ってきた。また人見知りが発動して、口を噤んだ。

「陸ちゃん、はいお茶とお菓子どうぞ〜。これいいとこのどら焼きだよ〜」
「ど、どうも……あの、お構いなく…」
「いいのいいの、気にしないで!」
「え、えっと……ありがとうございます…」
「…陸ほんと別人みたいになるよね」
「迅さんうるさいんですけど」

 宇佐美さんに頭を下げて、出されたどら焼きをひとくち食べた。甘くて美味しい。お茶もいい感じに渋くてこのどら焼きにぴったりだ。思わず顔を綻ばせる。

「美味しいです」
「そう? 良かった〜。あ、さっきから勝手に陸ちゃんって呼んでるけどいいかな?」
「えっ、あ、はい、どうぞお好きに呼んでやってください…!」
「陸それ日本語おかしくない?」
「迅さんは私の名前呼ばないでください」
「なんで!」

 なんで迅さんは横から余計なこと言うんだ! 今頑張って宇佐美さんと話してるんだよ邪魔するな! と、三人でそんな会話をしていると、ふと扉が開いて誰かが入ってきた。私はまた、口を噤んだ。

「こんにちは」
「おっ、京介、お帰り〜」

 迅さんが手を上げる。私は口を噤んたまま、扉の方を見る。そこには私と同じ高校の制服を着た男の子が立っていた。ちょっともさもさしているが、イケメンだ。少しその子に見惚れていると、その子がふと私に視線を向けて、そして、少し、本当に少し、驚いた顔を見せた。

「…蓮井?」
「…えっ?」
「なんでここに…」

 え、すみません、誰ですか。

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SANDGLASS