てのひらに熱

「あ〜とりまるくんお帰り〜」

 目の前に佇む、ちょっともさもさしたイケメン。そのイケメンが先程、私の名前を呼んだ。なんだ、どういうことだ。どうしてこのイケメンが私の名前を知ってるんだ。

「えっと…?」
「…なんだ?」
「ご、ごめんなさいどこかで会ったことありましたっけ…?」
「…は?」

 私の言葉に、イケメンくんはひどく不思議そうな顔をした。なんだ、私なんか変なこと言いましたか。私からすると変なこと言ってるのはあの子の方なんだけど。首を傾げていると、イケメンくんが少し考えた末に軽く溜息を吐き出した。なんだか馬鹿にされているような気がする。

「まあ、認識はされてないだろうなと思ってたけど」
「え?」
「どこかで会いましたかも何も、今日、ついさっき会ったばかりだろ」
「え!?」
「俺、クラスメイトなんだけど」

 固まった。ゆっくり、静かに目を逸らす。隣で迅さんが「え、マジで?」みたいな顔をしているのが鬱陶しい。やめろ。いやでも、うん。気持ちは分かる。これは流石に自分でも思う。ない。これはない。

「クラスメイトの顔も覚えてないのに友達欲しいとか言ってたの?」
「いっ、いやあ……でもまだ一ヶ月ですし? そりゃ覚えてない子だっていますよ〜うん」
「俺隣の席だけど」
「……」

 あ〜駄目だ言い逃れできない。マジか私。こんなイケメンが隣の席にいたのに認識してないってなにそれ。いやでもこれはあれだ、ぼっち感悟られたくなくて一人で本に熱中してたらクラスメイトの顔を覚える機会を逃したといいますか。流石に体育で顔を合わせる女子の顔だけなら覚えている。ただちょっと男子の顔はまだ覚えていないだけで。

「えーと…」
「……」
「スミマセン分かりません…」

 正直に言うと、イケメンくんは再度軽くため息を吐き出して、私の目の前に座った。

「烏丸京介だ。よろしく」
「蓮井陸です……どうも」

 えーと、烏丸くん?は知っているんだろうが一応名乗ると「俺は知ってたけどな」と軽く嫌味を言われた。グッと押し黙り、膝の上で拳を握った。悪いの私だから何にも言えない…!

「それで、なんで蓮井がここに?」

 自己紹介を終えて、烏丸が再度先程の問を投げかけてきた。私はああ、と顔を上げて、隣の迅さんの方を見た。

「私は……その、この迅さんに連れてこられたんですけど」
「迅さんに?」

 頷くと、烏丸くんも迅さんの方を見た。当の迅さんは、いやあ〜、とへらへら笑っていた。

「京介が陸のクラスメイトだ、って言ってる未来が見えたからさ、もしかしたら友達になれるんじゃないかなーと思ったんだけど」

 まさか陸がそのクラスメイトの顔を覚えていないとは、と迅さんに呆れを含んだ目で見られて、スッと目を逸らした。どうやら迅さんは、この目の前にいる烏丸くんに会わせるために私をここに連れてきたらしかった。

「…迅さんと蓮井はどういう関係なんすか」
「ん? んーと、小さい頃から面倒見てる幼なじみみたいなもんかな」
「幼なじみ…」
「あのさっきから迅さんそう言ってますけどそんな大層なもんじゃないですよ。ただの近所に住んでるお兄さんです」
「陸〜そんな寂しいこと言うなよ〜。そこそこ年も近いだろ?」
「いやあ学生に三つは結構デカイと思うんですよね〜」

 迅さんとそんな会話をしていると、烏丸くんがこちらをじっと見ているのに気付いた。少しドキリとして、また口を噤んだ。

「…蓮井がそんなに喋ってるの、初めて見た。というか喋るんだな」
「えっ、いや喋るよ」

 そりゃあ口があるんだから喋るに決まってる。学校にいるときはあれだ、うん。喋ることがないっていうか喋る相手がいないっていうか…そんなことをもごもごと言っていると、横から迅さんが私の肩を叩いて「うんつまり友達いないから喋れないんでしょ?」と言ってきた。うるさいんですけど。うるさいんですけど!!

「…迅さんなんかきらいだ畜生…」
「だから勢いで嫌いとか言わないでってば」
「よーし陸ちゃん私の胸に飛び込んでおいで〜」
「うわーん宇佐美さーん」
「あれ人見知りは!?」

 宇佐美さんが両手を広げてきたのでノッてみると、迅さんがツッコミ役に回った。迅さんのツッコミ役珍しいな。宇佐美さん凄い。

「あーえっと。だから、友達のいない陸と友達になってやってくんない? 京介」

 迅さんが流れを修正するように烏丸くんにそう言った。烏丸くんは微かに首を傾げて、「俺は構いませんけど」と私を見た。グッと喉が詰まる。

「陸は? どう? 京介」
「ど、どう……と言われても」
「とりまるくんいい人だよ〜」

 なんか恋人のいない奴に彼氏紹介してるみたいじゃないかそれ。友達だよね? いやそりゃあ私だって友達ができるならありがたいことだけど。
 おずおずと、手を差し出した。

「えっと……よ、よろしく…おねがいします」
「…ああよろしく」

 烏丸くんは変わらず無表情で、私の手を取った。こうして、私の高校最初の友達ができたのだ。

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