きゃー、及川君、なんて、私はぼんやり友人である及川が騒がれているのを聞いていた。うるさいな、部活の時間だし、皆一生懸命練習してるのに、邪魔だって、分かんないのかな。私はマネージャーの仕事をこなしながら、苛々と溜息を吐き出した。まったく、今日から一年生が入ってくるというのに、この調子ではゆるい部活だと思われても仕方がないじゃないか。まったく関係ない、ミーハーな女子のせいでそう思われるのは、正直酷く不快だった。私はまぁ、及川に惚れてない数少ない貴重な女子だからと同じクラスの岩泉と、ついでに及川に頼まれてマネージャーをやっているが、三年もこうしてやっていれば情というものが湧いてくる。だからまぁ、ヘラヘラと女子たちに手を振っている及川は別として、他の人達には迷惑だから静かにしろ、そう言いたいが、どうにも勇気が出ない。つまるところ、チキンなのである。小声でなら、独り事の容量で色々言えるのだが。まぁそんなの何の意味も成さないわけで。今日も静かにヘラヘラする及川にケリを一発叩き込んでから、部員にドリンクを配る。
「痛いよー、佑ちゃーん」
「うるさい黙れ死ねクソ川」
「死ね!?」
「あ、岩泉、はいドリンク」
「おう、ありがとな空木」
「無視しないで!?」
及川の言葉は無視して、私は岩泉と会話を続ける。彼は及川をしばいてくれる貴重な人材である。後はまぁ、花巻とかいるけど。
岩泉と及川は、幼馴染みらしい。まぁ、どうりで、だが、岩泉もよくこんな奴と長く付き合ってこれたものだ。尊敬する。私なんて三年で、もう既に辛いのに。正直卒業したら会いたくない。関わりも持ちたくない。疲れそうだ。なんて、心の中で言ったつもりが、つい、声に出てしまっていたのか、隣で及川が「酷いっ!!」だなんて叫んだ。うるさいな、もうちょっと静かに抗議して。いや寧ろ抗議してくんな。喋るな、酸素の無駄。すると、また心の中で言ったつもりが、声に出てしまっていたらしい。及川は泣いてしまった。ぅわ、鬱陶しいな。
「空木ってば相変わらず辛辣ー」
「嘘が吐けないだけだよ花巻」
「空木といると及川が可愛そうに見えてくるか不思議だよな」
そんなことを言った花巻に、同情される価値なんかないよ、こいつに、と返すと、及川が起き上がって、「いい加減怒るよ!?」と反抗してきた。泣きながら言われても、正直ちっとも怖くない。私はしれっと及川を見上げて、何か言うわけでもなく岩泉の方を向き、そちらに話しかけた。すると「放置!? 放置なの!?」と騒がれたが、それも無視した。うるさいなぁ、まったく。
「ちょっと一年がいつ来るのか聞いてるんだから静かにしててよクソ川」
「ハイスミマセン…」
「……」
「? 岩泉?」
「……、あぁいや。一年ならもうすぐ来るんじゃねぇの?」
聞けば岩泉と及川の中学の時の後輩も来るらしい。そうか、二人の。及川の後輩なんて、災難だなぁ。可哀想に。なんて、考えつつ、私はマネージャーの仕事に戻る事にする。そろそろ休憩も終わりだろう。そう考えた時、丁度休憩終わりのホイッスルが鳴った。及川の部員を仕切る姿を見て、あぁ、そういえばあいつキャプテンだっけなんて、今更なことを考えた。正直私は岩泉がキャプテンになるのかと思ってたんだけど、違ったらしい。まぁ、実力としては及川のが上なのは分かるのだが。
ふと、入り口に溜まっている女の子たちを見て一年生が来ることを思い出した。あそこに女の子達溜まってたら、邪魔じゃないかな。私はそう考えて、少し怖いが女の子達に近づいた。すると、ギロリと睨まれる。怖いな、ちょっと。まだ何もしてないし言ってないですよ。まぁ、彼女たちからすれば、こうして憧れの人に近付いてマネージャーまでやってる私は敵以外の何者でもないのだろうけど。怖いが、言わなければ。先輩として、これから引っ張っていくのにこのままでは申し訳がたたないじゃないか。そう思って、口を開く。
「あの、そこにいられると邪魔です」
「は?」
「何いってんのあんた」
「新入部員の子達が入ってこれないし、」
「私ら応援してるだけじゃない」
「そうよ、マネージャーになれたからって良い気になってんじゃないの?」
………駄目だ、お話が通じない。私は及川に対するものとはまた違う苛立ちを感じて、眉を顰めた。だから、マネージャーになったのは別に及川目当てとかじゃなくって。そう、何回同じことを言っただろうか。本当に困ってるみたいだったから、仕方なく、助けるつもりで。勿論今はやり甲斐を感じつつやっているが、本当に部員目当てで入ったわけではない。
私は決めつけられた事と、言っても分からないのに相手の頭の悪さへの苛立ちに、相手を睨みつけた。すると相手は少したじろいで、何よ、と弱々しく睨み返してくる。
「邪魔なんです。分からないなら、出て行って下さい」
そう、言ったときだった。逆上した相手が、腕を振り上げた。少し離れたところで、岩泉と及川と、花巻と……まぁ色んな人達の私の名前を呼ぶ声が聞こえたが、助けにはこれなさそうだな、なんてどこか冷静に考えていた。避けるつもりも毛頭なく、むしろ殴ってしまえば問題になってもうここに来られなくなるんじゃないのか、なんて悪いことまで考えていた。ゆっくりと時が進んでいるような感覚に陥った。あぁ、軽い走馬灯かな。なんて、縁起でもない事を考えた。頭は冷静でも、やはり怖かったのか、私は思わず目を瞑った。
しかし、暫くしても衝撃は来ない。え、と目を開けると、腕を振り上げたまま止まっている相手。それを見て、時間が止まったのか、なんて、馬鹿なことを考えたがそんなわけもなく、相手の腕を誰かが掴んでいるのが分かった。
「暴力とか、ダサいですね先輩」
「っ、は、」
「つかホントに、そこの先輩の言う通り邪魔ですマジで」
そう、相手の子に言ってから、腕を掴んでいるその子は、私に視線を向けた。
「大丈夫ですか?」
「っ、」
はろーはろー
(こんにちは恋心)
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