「……あれ佑ちゃんどうしたの?」
「……え?」
国見君とあの女の子から逃げて普通に部活に来た私は、「あれ国見ちゃんは?」と問うてきた及川にもうすぐ来るって、とだけ伝えて仕事に就いた。何も考えたくなくて、マネージャーの仕事に没頭した。暫くして国見君が来て、思わずビクリとなったけど国見君の方は向かずに、ただただ仕事に没頭した。国見君は私に話しかけようとしていたみたいだけど、溝口さんに何やってたんだと問い詰められてて結局は声をかけることはできていなかった。正直助かった。今話したところで、まともな事は言えないだろうから。たかが好きな人の告白現場を見ただけで、私は何をやってるんだろう。馬鹿みたいに動揺して、好きな人を困らせて。溝口さんに怒られている間もちらちらと感じる視線に、居心地が悪くなって身を竦めた。そんな感じで仕事をしていれば、冒頭の、及川の台詞である。そんなに分かりやすかったかな、いやまぁ、人をよく見ている及川だし、私の変化くらい気付けるか。…そうだよね。私は別に、と返して、誤魔化した。こんな所で話せるわけがないし、及川には何か最近迷惑かけっ放しな気がする。普段なら及川に気なんか使わないけど、相当参ってるんだ、こういう時って。及川は「ここじゃ無理か」なんてボヤいて、頭を掻いた。そんな及川が、岩泉にはサボっているように見えたのか、いつものようにボールが豪速球で飛んできた。綺麗に及川の頭にクリーンヒットしたボールは大きく中に上がって、やがて下に落ちて、跳ねる。私はそれをぼんやり眺めて、痛がる及川に「練習しなよ」と声を掛けてから、仕事に戻った。慌てたような私の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、無視した。
「……何かあったとすれば国見ちゃんか…」
「おいクソ川サボんなっつってんだろっ!!」
「痛いよ岩ちゃん!!」
▽
「何かあったならこの及川さんに言ってみなさい! 大抵の事なら解決してあげるよ!」
「………」
部活終わり、私はドーン、と効果音の付きそうな程に胸を張る及川を見上げ、あからさまに顔を歪めてみせた。別に頼んでないし、とそっぽを向けば、及川は「頼まれてなくても親友だから何でも聞くよ」と笑った。……誰が親友だよ誰が。親友なら他校にいっぱい居ますけども。いつもみたいにそう返してやればいいのだが、どうにもそんな気になれず、私は実は、と、先ほどあった事を及川に話してしまっていた。ほんとにコイツは、こういう所がムカつくんだ。普段うざいくせに、こういう時は、頼りになるんだ。心の中で悪態を吐きつつ話し終えれば、「国見ちゃん告白されてたの?」と少し驚いていた。どこに驚いてるんだよクソ川。国見君格好いいんだから告白されててもおかしくないだろ。
「……うん、じゃあさ、何に傷付いてるの?
佑ちゃんは」
「……、」
……何に。……いや、傷付いてるんじゃない。ただ単純に、動揺しているのだ。もしかしたら心のどこかで安心していたのかもしれない。国見君に一番近い女は私だ、国見君の一番の魅力に気付いてるのは私だけだ。……そんな勝手な勘違いで、国見君がモテてもおかしくない、なんて言っときながら、実際それを目の当たりにして、動揺したんだ。…あぁほんとに、国見君はモテるんだ。私より可愛い女の子に好かれてて、私なんか霞んでしまうくらいに眩しい子達に好かれてて、そう改めて認識したら、悔しくて、泣きたくなった。私は馬鹿だ。ホントに。
そう全て吐き出せば、及川は私の頭に手を置いて、「うん、そうだね、佑ちゃんは馬鹿だ」と笑った。その声が嫌に優しくて、私の涙腺を刺激した。クソ及川のくせに、くそ。
「よしよし、じゃあ全て吐き出したところで国見ちゃんのところへ行こうか!」
「、は!?」
「ちゃんと話して、仲直りしな? 佑ちゃんが元気ないと俺が寂しいよ」
及川に腕を引かれて、私は国見君の所へと連行される。ちょっと待て、何を話せと。今のを話せって言うなら、告白になるんだけど。そう言えば、「告白すればいいじゃん」と至極簡単に言われて、私は本気でこの馬鹿を蹴り飛ばそうかと思った。やめろ馬鹿、アホか。そんな、告白とか勇気ないし。しかし及川は私の手を引きながら、「逃げた時点で告白してるようなもんじゃない?」なんて正論を言ってきたので何も言い返せない。黙って及川についていくと、国見君を見つけたのか、及川が大きく国見君の名前を呼んだ。体が強張る。俯いていれば、こちらに来る国見君のだろう足音。「何ですか」と不機嫌そうな声色。……お、怒ってる?
「佑ちゃんが話あるって言うから」
「……空木先輩が」
「そ、ねぇ佑ちゃん」
「、う、ん」
及川は私に「頑張って」と耳打ちして、私の手を放し帰っていった。その場には、私と国見君の二人だけとなった。…あぁ、二人きりとか落ち着かない。駄目だ、声が出て来ない。頑張れ私、いつもの調子で。そう心の中で繰り返していれば、少し上の方から「先輩」と促すように呼ばれた。…あぁやっぱり、何か怒ってる。何で、私何かしましたか。内心焦っていれば、国見君の溜息。「じゃあ俺から話しますよ」と言われ、頷く。
「…何で逃げたんですか」
「っ、」
「あからさまに傷付いた顔して、逃げたのは、そういう事ですよね」
「………」
……あぁ、やっぱり気付かれてる。ちらりと少し上の位置にある国見君を見上げれば、やっぱり少し怒ったような顔。…というかホントに何で怒ってるんですか。私が何も言わないでいると、国見君は「先輩」と少し強めに私の名前を呼んだ。「ほんと、何なんですかあんた」、って、え、
「傷付いたような顔して逃げていくから俺の事好きなのかなとか思ったのに部活では避けられるし、及川さんと仲良さ気だし、っていうか今も普通に手繋いできたし。何なんですか、遊んでるんですか、俺で」
「っ、そ、そんな、滅相もない、」
「じゃああんたはどうしたいんですか」
…どうしたい。自分の気持ち。私は間近にある国見君の顔にドキドキしながら、肌綺麗だなぁなんてどうでもいい事を考える。自分の気持ちなんて、とっくに分かってる。でも、及川以外にこの気持ちを言ったことがないから、どうにもドキドキしてしまう。私は絞りだすように、「国見君が好きです」と呟いた。国見君は少し目を見開いて、口元に手を当てて、あー、と声を漏らした。少し顔が赤いのは、期待しても良いってことですか。
「……先輩、好きです。付き合ってください」
「………は、はい!」
相思相愛夢物語
(あぁ、夢じゃない)
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SANDGLASS