「はぁ……」

 全く今日は朝からツイていない。何故か目覚ましがならなくて、寝坊して遅刻しかけるし、その途中、及川のファンらしき人(他校の子)に待ち伏せされてて「遅いのよ!!」という言葉と共にペットボトルに入った水を掛けられた。これが水で良かったと切実に思う。ジュースとかだったらベトベトするしシミになるし。その辺考えてくれてて良かったマジで。そう言ったら及川にも岩泉にも何言ってんだ的なこと言われたけど。…うんよく考えたらなんで私水掛けてきた相手の味方してんだろ。…で、まぁ遅刻はしなかったにしてもギリギリで、チャイムがなると同時に扉を開けたらびしょ濡れの私を見て教師にかなり吃驚されて、及川のファンに水掛けられましたって言ったら許してもらえた。はは、ラッキー。いやまぁ、水掛けられたのは許せないのだけど。それから席に着いたら、周りの女子のヒソヒソ声が聞こえてきて、まぁ内容は「及川君と仲いいアピールむかつくよねー」的な感じだった。何なんだよこの及川人気は!そんなにかっこいいか!? いやかっこいいんでしょうね顔は!! そりゃいいやつではありますけども!? あれだよ!? あのウザ川だよ!? …なんて、及川の普段を、及川にかなり濃いフィルターを掛けて見ていらっしゃる女子が分かるわけもない。…周りの女子に言いたい。及川はただ単に顔が良いだけの普通のウザい男子高校生だと…!! というか皆見る目ないよね? 国見君のが及川の百倍格好いいし?いや、国見君がモテたらモテたで私的に悲しいのだけど。そこは複雑な乙女心という事で。乙女とか似合わないけどね!
 …で、まぁ災難の続きを申しますと、昼休み、寝坊したせいで弁当を忘れ、購買も売り切れでお昼がないという危機。花巻には笑われたが、岩泉と及川と松川は少しお昼を分けてくれた。おぉ、初めて及川を見なおした…! そして相変わらず岩泉と松川天使だね…! 花巻も後に少し気不味そうにパンを一個くれた。ただ三人から色々もらってお腹いっぱいだったので気持ちだけありがたく貰っといた。…と、まぁ、こんな感じにバレー部のマネージャーをやってて良かったなーと思いつつ、友達が出来ないのもこいつらとつるんでるからなのでどうにも複雑だ。…いいんだ、何回も言うけど他校にはいっぱい友達いるからね…!! …うん。…で、まぁ、そんな感じに部活。国見君が来てません。

「ぅあぁ………国見君がいないとか…!」
「元気出して佑ちゃん、佑ちゃんには及川さんが居るじゃないか!」
「国見君…」
「あれ無視!? ガン無視!?」

 及川うるさい。今日は色々と嫌な事あったけどこれが一番堪えた。国見君国見君。会いたいよ国見君。…うん相変わらず私気持ち悪い。金田一君によれば、学校にも来ているし、今日昼休みに「練習ダルい」とか言ってたので用事があるとかではないらしい。…じゃあ何だ? サボり? いやいや、あの子中学の時は知らないけど高校では一回もサボってないからね!? サボりじゃない、とすれば、なんだろう。まさか寝ちゃってるのかな。寝過ごして…とか、急に用事が出来たとか? …いやそれなら金田一君に言うか。やっぱ寝てるのかな。この前「授業中起きとくの辛いです」って言ってたしな。授業中は起きとかなきゃダメだよ国見君。中学とは違うから単位落としちゃうよ。
 なんて色々と考えて悶々としていたら、及川に「手止まってるよー」と注意された。…及川に注意されるとか屈辱過ぎて泣けてくるわ。しかし、どうにも国見君の事が気になって仕方が無い。及川はそんな私を見兼ねて、「国見ちゃん教室いるかもね、見に行ってきてくれる?」と言った。何だ今日の及川良い奴過ぎるぞ。


 ▽


「国見君は一年六組か…」

 金田一君に教えてもらった国見君の新しい情報に、思わず頬が緩む。そういえば私が一年の頃も六組だったなぁ……同級生だったら同じクラスだったんだな。確か、及川と岩泉と同じクラスで、最初は及川のモテ具合に引いてたな。私はさして興味も無かったのでその集団の中に加わらなかったが、そういえば私あの頃から浮いてたな。…及川を追いかけなかったから行けないのか。そんな理不尽な。だってタイプじゃなかったんですもん。人にもタイプってものがあるでしょう。イケメンだからいいってもんじゃ無いし。…いや、愛想振りまいてるな疲れないのかなーとか思ってたのだけど、入学して一ヶ月は全く口も聞くことはなかったっけ。岩泉とはちょいちょい話してたけど。…と、まぁ、私と二人の出会い的なのはどうでも良くて、今は国見君である。一年生の階って五階だから辛いな畜生。私も一年の最初ははぁはぁ言いながら上ってたな。私は最後の一段を上り終えて、その場にしゃがみ込む。…あ、足ががくがくするちょっと辛い……私よくこんなん上ってたな。マネージャーやって体力はついたと思ってたんだけどそうでもなかったらしい。私はがくがくする足を叱咤して、立ち上がった。
 えーと、六組は……ぅわ一番奥かよ、向こうの階段使えば良かった。私は溜息を吐き出して、懐かしい廊下を歩く。…まぁそんなに三年生のと変わらないけど、進路についての手紙とか色々貼ってないのは、新鮮である。なんて、懐かしみながら廊下を歩いていれば、国見君のクラスの前。いるかなー、と、開いている教室を覗いて、…私は固まった。

「く、国見君が好きなのっ…!」

 …こくはく。平仮名で、その四文字が頭の中で浮遊した。…こくはく。こくはく、か。…国見君が、こくはく、されて、あれ、こくはく、ってなんだっけ。…あぁ、告白、か。……国見君が、………え。私は混乱して、声も出せずに放心していた。……そっか、国見君、格好いいもんな。そりゃ、告白くらいされるか。…うん、まぁ当然だよね。…うん。及川の告白現場に何度か鉢合わせて、告白現場なんて見慣れている筈なのに、何で私、こんなに同様してるんだろうか。…そうか、私が国見君を好きだからか。そんな今更なことを考えて、ぼんやりと二人が向かい合っている光景を眺める。好きな人の告白現場ってだけで、こんなに胸が痛くなるものなんだなぁ………「あー、」と、国見君が返事を返そうとした所で、物音を立ててしまい、二人がこちらを向いた。ツイてない、あぁ、そういえば私今日、ツイてないんだっけ。「空木先輩、」なんて、国見君の声。

「あ、えっと、部活来ないから、呼びに来ただけ………で、別に、邪魔するつもりは、その、ごめんね、」
「…先輩、」

 私は誰にしているのか、弁解しながらちらりと相手の女の子を見る。……あぁ、可愛いなぁ。フワフワしてて、正に女の子って感じの。烏野のマネージャーの、清水さんとはまた違った感じの、可愛さ。…あ、清水さんは美人なのか。まぁ私はどっちにも、入らないけど。

「……っ、ごめんっ!」
「っ先輩!」


到底敵わぬ


(私は逃げた)


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