俺と彼女――空木佑ちゃんは、親友である。
……なんて、そんなこと急に言われてもは?となるだろうし、彼女はそれについて恐らくというか絶対いつものように冷たい言葉で否定するだろう。しかし俺と彼女は、皆がよく勘違いするような、甘い関係ではない。勿論彼女の事は好きだが、そういう目で見た事など一度もないし、彼女自身もあり得ないだろう。…いや、あまりにも俺にだけ態度が違うからもしかしたらこの子俺の事好きなんじゃないかとか馬鹿なことを考えた事はあるがそれはさておきだ。まぁ俺と彼女は親友だ。誰がなんと言おうと親友なのだ。勿論岩ちゃんとも親友であるが、彼女はまた違う。俺のことを好きじゃないからとかで岩ちゃんがマネージャーに誘ってきた女の子。それが彼女で、正直俺は最初、彼女があまり好きではなかった。俺のことを好きじゃないかどうかなんて分かるわけないし、もし仮に本当に好きじゃないにしても、無理やりやらされているなら仕事に手を抜くんじゃないのか。俺は少し岩ちゃんに抗議してみたが、「あいつは大丈夫だよ」の一点張り。聞いてはくれなかった。半信半疑で彼女の事を数日、見ていたが岩ちゃんと以外の部員と話す気配もなく、黙々と仕事をやっていた。俺は少し驚きながら、岩ちゃん目当てなのか…?なんて馬鹿なことすら考えていた。
まぁそれから暫くして、彼女は監督から部員のキャッチボールの相手を頼まれて、渋々ボールを手に持った。レシーブ出来るのかな、なんて考えながら見ていれば、相手の部員……まぁ先輩だが、の、打ちやすい場所に打たれたボールを、まさに素人な動きでとんでもない方向に飛ばしていた。俺と同じく彼女にレシーブが出来るのか、気になって見ていたらしい青城部員は、シン、と静まり返った。彼女の近くにいたマッキーが「し、素人はそんなもんだろ」なんて気を使って声をかけたが彼女は相当に恥ずかしかったのか、「ボトル洗ってきます」と顔を真っ赤にして体育館から出て行った。普段無表情で表情が分からない分、新鮮ではあったがその時の彼女はかなり、不憫だった。それから暫く経って、俺は鍵当番で最後まで残っていた。体育館の鍵を閉めようと体育館を覗けば、誰かいる。見れば彼女が、ボールを投げてはレシーブをして、色んな方向に飛ばしている。俺が当時呼んでいた彼女の苗字を呼ぶと、彼女はビクリと肩を震わせ、俺を振り返った。「お、おい、かわ」なんて今では考えられないほど俺に怯えていた彼女は、どうやらレシーブの練習をしていたらしかった。真っ赤になっているその手に、俺は漸く「俺や部員目当てで入ったわけではない」ということを悟る。あぁ、岩ちゃんの言ってた事は正しかったのか、と、俺の目の前で真っ青になっている彼女を見ながら思った。
それからはまぁ、彼女のレシーブの練習に付き合ってあげて、簡単なボールなら打ち返せるようになるまでには成長した。その合間、俺と沢山話したからか、彼女は俺に対しての遠慮は欠片もなくなっていた。いつの間にやら俺の彼女に対する呼び名も苗字から名前になり。この三年で、大分距離は縮まった。それから暫く二人で練習していれば、いつの間にやらいつもの現三年メンバーも加わって、一緒にやるようになっていた。あの頃は楽しかったなぁ。いやまぁ、今も充分楽しいんだけども。マッキーにもまっつんにも遠慮のなくなった彼女は、その時初め俺達の仲間になった。
「んだよね、佑ちゃん!」
「は? ウザい離れろクソ及川」
「相変わらず辛辣だね佑ちゃん!?」
相変わらずな彼女に苦笑しつつ、そのまま引っ付いていれば後ろからグイ、と首根っこを引かれた。ぐぇ、と及川さんらしくない声をあげて俺は彼女から離れる。後ろを見れば、淡泊な顔をした国見ちゃんがいて。「人の彼女にあんまり引っ付かないでくださいよ。そんなんだから勘違いされるんです」なんて言われて、ごめんごめん、といつもの調子で謝る。最近俺の親友は俺の中学の頃からの後輩に一目惚れして、その恋を実らせた。その相手がこの子、国見ちゃんである。どう見たって両思いな二人をくっつけるために頑張った及川さんに対して、二人共冷たすぎやしませんか。俺は心の中でそう思いつつ、国見ちゃんから発せられた彼女、の単語に顔を真っ赤にする彼女を見てまぁいいか、と溜息を吐く。
先程、俺は彼女をそういう対象で見たことがないと言ったが、一時期、本当に少しの間、俺は彼女のことが好きなのかもしれない、思っていた時期もあった。しかしまぁ、これは本当に、いつか彼女に言ったように娘を思う父親の気持ちだ。親友だ、とか言っときながらあれだが、うん、まさにそんな感じ。国見ちゃんが現れなかったら、もしかしたら俺が彼女を口説いていたかもしれない。他のどこぞの馬の骨ともわからない輩に渡すくらいなら、俺が、ってね。「手伝いましょうか」と彼女の手に持つ大量のドリンクが入ったカゴを一つ取る国見ちゃんを眺めて、彼女が幸せなら良いや、と座ったまま頬杖をついた。岩ちゃんのボールが飛んできた。痛い。
「何やってんの及川」
「佑ちゃーん、岩ちゃんが酷いよー」
「そんなとこ座ってるからでしょ。早く立て。んで練習しろ」
「休憩中だもん」
「しろよ」
「ハイっ!!」
何で俺返事してんだろ、休憩中だってば。そう思いつつ、ボールを手に取れば、「休めバカ及川っ!!」とまた岩ちゃんにボールをぶつけられた。そんな理不尽な。俺、どうすればいいのさ。…いや、休憩中なのだから、休めばいいのだけど。ふと俺の手の中のボールを見て、久しぶり昔を思い出したせいか、彼女とラリーがしたくなった。烏野と対決した時、少しやったが彼女はまた上手くなっていた。ちゃんとボールを落とさずに返せていたし、全部良いところに返ってきた。最後に顔面に当てられたボールは痛かったけど。俺はそう思いつつ、ボトルを運び終えて国見ちゃんと戻ってきた彼女に声をかける。一緒にラリーしようよ、と。国見ちゃんは少し不機嫌そうな顔をしたが、彼女は仕方ない、と言った風に頷いてくれた。また岩ちゃんがボールを構えるのが見えたけど、マッキーとまっつんが宥めてくれた。ありがとう二人共。「後で俺ともしてください」、と、珍しい国見ちゃんの言葉。自ら自主練とか、低燃費が売りの国見ちゃんには珍しい。真っ赤になって頷く彼女に、国見ちゃんには勝てないなぁ、と苦笑した。
君と俺の関係についての考察
(うん、やっぱ親友だ)
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