「邪魔なんです、分からないなら、出て行って下さい」

 その瞬間、俺は確かにこの人に恋、というものに落ちたのだ。


 ▽


「おーい、国見ー?」

 入学式から、二日。確か今日から仮入部が許される筈だと、昼休み、金田一が言っていた。放課後になって金田一が俺を呼びに来た。それを少し煩わしく思って、寝ていたためにボンヤリする頭を机から起こした。「おい?」と顔を覗きこんできた金田一を見上げ、大きな欠伸を漏らした。眠い、頭がボーッとする。そんな俺を金田一が呆れたような目で見てきて、少し苛っときたので脚をけっておいた。しょうが無いだろ、授業起きてるの辛いんだから。なんて、そんな言い訳も、単位制の高校では通じないのは分かっているのだが。漸く、鞄を持って、席を立った。「やっとかよ」なんて金田一の言葉は無視した。
 バレー部の体育館、どこだっけ。金田一と共に体育館へ行けば、入り口はダレカサンのファンの女子で塞がれていた。邪魔だな、と眉を寄せる。金田一もそう思ったのか、俺と同じような顔をしている。及川さんも、ちゃんと自分のファンの管理くらいしておけばいいのに。入り口に立たれたら、本当に邪魔だ。俺は少し面倒に思いながら、ファンの人達に声をかけようとした。が、

「邪魔なんです。分からないなら、出て行って下さい」
「、」

 ファンの人ではない、マネージャーだろうか、の、強く、芯の通った声。ショートの髪に、少し目付きの悪い黒目。決して美人ではないけど俺は、その人に一瞬、魅せられた。しかし逆上したファンの一人が拳を振り上げたのを見て、ハッとした。その人は避ける気は無いようで、ジッとその人を睨みつけている。あの人、馬鹿じゃないのか。俺はらしくもなく、その人を助けていた。ファンの人の、振り上げられた腕を掴み、制止する。その人の、驚いたような顔に少し、分からない程度に笑みを零した。

「暴力とか、ダサいですね先輩」
「っ、は、」
「つかホントに、そこの先輩の言う通り邪魔ですマジで」

 そう言ってから、俺は名前も知らぬその人へ、視線を向けた。らしくもなく、ただ話しかけるだけなのに、妙に緊張していた。

「大丈夫ですか?」
「っ、」


ある彼のモノローグ


(それは同じ瞬間に、)

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