「佑ちゃん! チョコちょうだい!」
「何言ってんの死ねば」
「今日も毒舌絶好調だね!?」
バレンタイン、その日は男女共々そわそわと落ち着かない様子で過ごしていた。それは私の通う、青葉城西高校でも例外ではない。いつもと変わらない者が居るとすれば――毎年大量のチョコを貰えるという確信を持つものだけだろうか。例えば、そう、バレンタインにも関わらずニコニコと余裕の笑みを浮かべる、目の前の及川徹とか。毎年大量に貰っているにも関わらず私にチョコをせがむ及川にいつも通り冷たく切り返せば、私の机でせせり泣く声。鬱陶しい事この上ない。私は及川を見下して、大きな溜息を吐き出した。なんて面倒臭い男だろう、及川徹。大体として、私にはその、か、か、彼氏…がいるわけで。言葉にすると恥ずかしいがまぁ、既に渡すべき人は一人しかいないのだ。だから毎年バレー部に配るチョコも今年はそのか、彼氏である、国見君に渡す分しか用意してないし、例え義理でも誰か他の人に渡すつもりはない。あ、いや友チョコは別として。流石に女の子にまで制限したりはしない。…でも国見君、モテるみたいだし他の女の子からもいっぱい貰うよね………うーん………いっぱい貰ってたら更に私からって迷惑かな………い、いやでも曲がりなりにも彼女だし! うん! 大丈夫大丈夫! ネガティブ止めよう! ネガティブな発想は吹き飛ばして、私はもう一度大きな溜息を吐き出した。それを見て及川が「気合入ってるねぇ」とニヤニヤ笑いながら言った。何となく気恥ずかしくなって、「ニヤニヤ笑うな気持ち悪い」と呟くと「ほんっとに俺に厳しいよね佑ちゃんは!?」と半泣きで怒られた。うるさいなもう。面倒くさそうに及川を見上げると、少し膨れていたので頬を人差し指で突いてやった。ぷぅ、と頬から空気が抜けていく。「もう!」と怒る及川の女子力に少しばかり目を見張った。何その反応。
「カレカノか!!」
「え?」
「え、じゃねぇよ。何だよその最後の方のやりとりカレカノじゃねぇかよ!!」
岩泉が痺れを切らしたように突っ込んできた。そんな、やめてよ及川とカレカノとか冗談じゃない。何度も言うけど及川はそんな対象じゃないし、及川もそんな対象で私を見ていない。国見君を含め周りは皆及川と付き合っているように見えると言うが心外すぎる。止めてくれ。そして国見君にそんな風に思われるとか問題だ。本当に気をつけなければ一歩間違えたら浮気ではないか。誤解で別れることになったら何それワラエナイ。そのもしも≠フ事を考えて項垂れていれば、昼休みの終了を知らせる予鈴がなった。
▽
「あーあ、今年は空木からのチョコないのかァ」
部活、丁度休憩時間にドリンクを渡していれば花巻がそんな事を言った。…んん? 何だ急に。というか花巻って結構貰ってる方じゃないのか。今日だって何度かチョコ貰ってるの見たぞ。可愛い子たちだった。何あれ羨ましい。まぁ私の友達の方が可愛いけどな! って何の自慢だようん。「何急に」怪訝そうな顔を作ってそう言えば、花巻は肩を竦めて笑いながら、「いやァ貰えるチョコは多い方が良いじゃん?」と何だかあげたくなくなる台詞を吐き出した。……いや、別にあげる気なかったよ? 無かったけどさぁ…! 何か、こうね? 去年まであげてた人からこういう事言われるとね? …うん。いやなんでもないです。「貰えない奴とか、空木のチョコでも一個は貰えてたのに今年はゼロだもんなァ」ってちょっと花巻君殴っていいですか。私のチョコでもってなんだ私のチョコでもって。この野郎。
「俺は空木のチョコ好きだったケド。甘さ控えめで」
「松川…! ホントもう松川大好き国見君と岩泉の次くらいに」
「あ、ウン………アリガト」
「空木そりゃねーわ……」
…え、いやちょっと、半分くらいは冗談だよ!? あんまり松川にそういう事言わないから好奇心というか……岩泉は叩いてくるからさ! そんな落ち込まないでよ! だって国見君いるのにただ大好きとは言えないでしょ冗談でも! いや大好きとか言ってる時点でアウトか……? あぁぁ付き合ってから結構経つけど初めてだし分からん…!! 考えている内に休憩が終わった。私はハッとして慌てて仕事に戻った。
▽
「先輩、帰りましょう」
「! は、はい!」
何で敬語なんですか、と笑う国見君にこっちはドキドキだ。これから用意していたチョコを渡す。毎年の如く私が作るのはトリュフと生チョコだ。簡単だし失敗がない。あとちょっとキャラメルを溶かして入れてみたりもした。塩キャラメルが好きだと言っていたので国見君の好きなメーカーのキャラメルを入れた。大丈夫、味見はしたし、ちゃんと美味しかった。いらないって言われたら―――いや! 国見君はそんな事言わない大丈夫! ネガティブはいらない。大丈夫。そう頭の中で唱えていると、「大丈夫ですか?」と国見君の声。「だっ、大丈夫大丈夫!」と手を振れば、怪訝そうな顔をしながらもそうですか、と私の手を取り歩き出した。暫く他愛のない話をしながら歩いていると、早くも私の家の前。あぁ早く渡さないと、明日じゃ手遅れだ。…手遅れっていうか、えぇと、あぁもうそうじゃなくて!! 「それじゃあ、これで」手を振って帰ろうとする国見君。私は慌てて腕を掴んで引き止めた。
「…?」
「あっ、あのですね!」
「…今日ずっと敬語ですね。何ですか?」
「ちっ、チョコを!」
ずい、と国見君の目の前に差し出した。珍しく驚いたような国見君。そんな顔も格好いいな――なんて、やはり少し私は重症だ。国見君は暫く黙った後、ふ、と小さく笑みを零した。
「………貰えないのかと思ってました」
「…え?」
「及川さんは貰ったと言ってたのに」
「、は!? いっ、いやあげてないよ!? 何で及川に……国見君いるのに、」
「良かった」
嬉しそうにチョコを見る国見君に、内心でホッと安堵する。「あ、俺もチョコは貰ってないですからね」と報告してくる国見君が可愛くて、私も笑った。取り敢えず及川とはちょっと明日お話しようか。何国見君にデマ教えてるんだアイツ。何がしたいのかサッパリだ。
「佑先輩」
「、」
「ありがとうございます」
甘味注意報
(ホントに及川さんにはあげてないですよね?)
(あげてないよ!!)
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