
昨日の話は忘れてくれ、と彼は言った。
淡々と、お願いではなく決定事項のようにそう告げた彼に私も淡々とあ、うん分かったと頷いて、その話は幕を閉じた。そのまま二人で隣り合ったまま、ソファに座って無言の時間を過ごす。見たくもないテレビが、ひとり快活に沈黙へ音を刻んでいた。誰だ、こんなのつけたのは。…ああ私だ。テレビでも見る?って、私がつけたんだった。ばか。
初めて、彼といるのが気まずいと思った。
「………二宮さ」
「………なんだ」
「今日防衛任務あるとか言ってなかったっけ」
「ああ、そうだな」
「何時から?」
「もう出る」
「そっか」
「ああ」
会話が途切れた。なぜだか身体も神経も妙に緊張していて、ピンと張り詰めた糸のように引き攣っていた。彼といてこんな心地になるのは初めてのことだった。バクバクバクバク、心臓が、太鼓でも叩いているかのように波打っていた。少しだけ、痛くて苦しかった。
彼がふ、と立ち上がった。それをゆっくりと見上げると、彼は小さく「邪魔したな」といつもの言葉を告げて、玄関へと歩いて行く。私はいつもの「頑張れ」が、なぜだか言うことができなかった。
バタン、閉まった扉を見つめて、はあ、と目を閉じた。ソファの上で、丸くなる。
彼、二宮匡貴と私は幼馴染だった。
私は昨日二宮に、告白をされた。
▽
「好きだ」
「……、」
どちらかが誕生日だったわけでも、クリスマスだったわけでも、二人が出会った記念日だったわけでも(どの道そんなのは覚えていないのだけど)なかった。普通の日。普通の休日の、強いてなにか変わっていたと言うのなら、ぽかぽか日和の、昼寝には最高の天気の日だった。そんなとある日のこと、私の部屋で二人でテレビを見ていたら、突然、二宮はそんなことを言ってきた。私は一瞬呆けて、「は?」と何とも間抜けな返事を返した。二宮はいつものポーカーフェイスでもう一度「好きだ」と繰り返して、私の返事を待った。何を返せば、どう返せばいいのか分からず何も言えずにいると、彼はふ、と目を伏せて、「すまない困らせた」と彼にしては弱々しく小さな声でそう言って、私の部屋から出て行った。私は最後まで、何も言えなかった。
それから次の日、つまり今日、二宮が何事もなかったかのようにうちにやって来た。そうしてヅカヅカと人の部屋に入ってきて、二人共無言のまま、暫く立ち尽くしていた。いつもは平気な無言にも今回ばかりは耐え切れなくなってしまって、私はソファを指差しリモコンを掲げてテレビでも見る?と声をかけた。頷いた二宮と共にソファに座ってテレビを見ること数分。冒頭の台詞を、二宮が口にした。昨日の話は忘れてくれ、と。
あとはそのまま。最初のくだりからずらーっと。馬鹿みたいに直球に言葉をぶつけてきた二宮と、馬鹿みたいに頭が真っ白になって何も答えられなかった私。
こんなの、どっちが悪いかなんて、火を見るよりも明らかだった。