黄泉で第二の人生を



 死んで、目が覚めると鬼になっていた、なんて、漫画のような出来事がまさか自分の身に起ころうとは思ってもいなかった。どうやらここは黄泉、つまり死後の世界らしく、死んだあとに来るところとしては間違ってはいないが、本来亡者としてくるものを私は鬼として来てしまったらしかった。
 まあなってしまったものは仕方ないが、しかし黄泉というところはなんというか、不死身の人間が好き勝手している、私の想像していたところとは随分と違う所だった。天国と地獄、という概念もなく、そして見ていく限りではどうにも考え方やセンスが古い。周りの男どもはほぼみずら≠ニいう、ヤマトタケルのような髪型だし、黄泉≠ニいう言い方もよく考えると昔の死後の世界の呼び方だ。私はよくわからないが時間まで遡ってしまったらしい。これまでのこの考察を全て終えるまで、大凡五年の月日を要した。面倒なことは本当に勘弁してほしい。一体私の身に何が起こっているのやら。
 鬼になって暫くして、私は烏頭と蓬、という友人を手に入れた。両方男だがまあ二人共良いやつで、とても付き合い安い人…じゃない、鬼だった。そしてやはり髪型はみずらだった。元々女子高生だった私のセンスから言わせてもらえばとてもダサい。勿論本人の前では言わない。
 しかしまあ、基本的に二人共良いやつであるとは思うのだが、蓬は兎も角、烏頭は重度のバカヤロウだった。というのも、烏頭は最初私を男だと思っていたと抜かすのだ。蓬は「馬鹿どう見たって女の子だろ! 分からなくもないかもしれないけど…!」とど突いていたがなんなんだろう、私そんなに男っぽいかな。そんなつもりは毛頭ないのだけど。
 とまあ、そんな感じに暫くはそのメンバーで楽しくやっていた。そんな中、メンバーに一人の少年が加わったのは先日の事だった。
 少年の名前は丁と言った。彼は今流行り(らしい)みずらでなく、普通に長い髪を後ろでくくった割と可愛い顔の男の子だった。丁は暫くして名前を鬼灯に改名した。この前大きな男の人に「鬼火の丁で鬼灯はどう?」と薦められていたので多分それだと思う。その時は思わずそのセンスに唸ってしまった。本当に凄い。
 丁、改め鬼灯は変わった鬼だった。知るはずのない手品を積極的に発案しやりたがったり、烏頭の馬鹿な提案にノリノリで乗っかったり。この間なんかはサクヤ姫≠ニいう大層美人な神様を見に行こうという馬鹿な烏頭の提案に乗っかって本当にそれを実行していた。私は怒られたくなかったのでついていかなかったがそこでひと悶着あったらしく、帰ってきた烏頭と蓬に興奮気味に語られた。まあ結局帰る術を考えていなかったらしく、こっぴどく怒られたらしいが。
 そんな感じに、鬼灯はとても変わった奴だ。だけどまあ、とてもおもしろい。未来人の私から見ても彼の発想は斬新だと思うし、こういう人が世界を新しくしていくんだろうなあと思う。

「空木! 見ろこれ拾った!」
「は? …ぅわお前マジなんなのふざけんな死ね」

 棒にう●こを刺して持ってきた烏頭は本当の本当に馬鹿だと思う。何なんだろうこいつ。今時の小学生でもそんな馬鹿なことしないと思うんだけど。教え処という寺子屋のような所に通うようになって、烏頭の馬鹿さ加減は度を増していった。先生が相手にしてくれるのが楽しいのか、本当によく悪戯を仕掛けに行く。この前は鬼灯も加担して先生を殺しにかかっていたが何がしたかったのかはよく分からない。多分烏頭はもうちょっと違う感じの可愛い悪戯をしたかったんだと思う。鬼灯の感覚はやはり少しずれているな、と思った。

「ウフフ、元気ねェ」
「あ、お香ちゃん」

 烏頭の去ったあと、くすくすと可笑しそうに笑うこの女の子はお香ちゃんと言って、教え処に通うようになってから出来た私の女の子友達第一号だ。お香ちゃんは同い年、というか多分私よりずっと年下だろうに、私よりもずっと落ち着いていて大人っぽい素敵な女の子だ。烏頭なんかは私がお香ちゃんと一緒にいるようになってから「女なんかと遊ぶとか女かよ!」と意味の分からない罵倒をしてくるようになった。なんかよく分からないけど烏頭の意図するところとは違うところにダメージがあるのでやめてもらいたい。女かよって女だよ。なんか文句あんのかこら。しかしまあ、私の見るところでは烏頭はお香ちゃんが好きなのだと思う。好きな子ほど構いたくなる小学生男子のような行動は見ていてとても分かりやすい。でも烏頭とお香ちゃんじゃ釣り合わないと思うからやめたほうが良いんじゃないかな…うん。お香ちゃんは高嶺の花だよ。ガキには無理だよ。

「空木ちゃんは凄く好かれているわね」
「あーうん、だよね私のこと超好きだよねあいつ」

 烏頭の行動を思い返しつつ笑う。私は女扱いされていないがとても好かれているとは思う。小学生男子は本当に嫌いな奴とは関わらないだろうから。だから烏頭は分かりやすい。蓬も蓬で分かりやすい。烏頭とはまた違う小学生感。読めないのは鬼灯だがまあ鬼灯の考えを理解しようとは思わない。出来ないことは初めからしない主義である。

「…まあでも、一番意味わかんないのは私だけど」
「え? 何か仰った?」
「ううんー、何でもないよー」

 そんなこんなで、私は鬼として生きています。