約束を有言実行



「空木さん、あの人どうやったら殺れますかね」
「うん? 何を? 何が? 答えによっちゃ私は答えない」
「いえ、烏頭さんがまた悪戯を仕掛けたいと言うので」
「ノータッチで」
「そんな事仰らずに一緒に殺りましょう」
「あんたさっきから漢字がおかしいんだってば!」

 それから随分と時が経ち、私達もどんどん成長していった。最近の烏頭はとてもトガッていて、ついつい笑ってしまう。スカルだとか髪のセットだとかよく分からないけどおかしくて仕方ない。かっこいいと思っているのがまたおかしい。写真というものがないのがとても残念だ。あれは記念に納めておくべきだと思う。後で黒歴史になる奴だ。
 今の見た目年齢は十五歳くらいだろうか。鬼灯は親が居らず、周りからよくみなしご≠ニ馬鹿にされているのだが、先日そう言っていた奴をボコボコにしているのを見て、末恐ろしい奴、と背筋が凍ったのを覚えている。本当に恐ろしいやつだ。そういえばそれを見た日、鬼灯と烏頭と蓬は教え処をサボりどこかの競り場に行ったらしい。試験だったのに大丈夫なのだろうかとは思ったが鬼灯は多分大丈夫なのだろう。確信はないけどそんな気はする。とまあそんなことがありまして、鬼灯はその日曰く付きの金棒を持って帰ってきた。その金棒の似合うこと似合うこと。その金棒は多分鬼灯のために作られたのだろうなと思った。いや、なんかあまりに似合いすぎていて。
 そんな鬼灯は未だ先生への悪戯をやめない。いや悪戯はいいけどなんだ殺るって。やめてあげて。あの先生顔怖いけど良い人だよ。

「どうしても嫌ですか…」
「嫌だね」
「そうですか、まあそれは良いのですが」
「いいんかい」
「ええ、私も本気で殺そうと思っているわけではないですし」
「ついに殺すって言葉で言ったよこの子」

 もう何この子怖い。マジ怖い。お姉さんちょっと手に負えないわ。そう考えると烏頭って馬鹿だけど凄いんだな。馬鹿だけど。

「それはそうと空木さん」
「なんですか」
「何かほしい物はありますか」
「特にない」
「理由すら聞かずに即答」
「なんか碌でも無いことでも考えてんだろうなと」
「心外ですね」

 何だ本当怖いな。急に欲しい物、とか分からんしというかほんとにない。というか、今この時代に欲しい物が存在しない。好きな文豪さんはまだ産まれてすらいないから欲しい本もないし、現役女子校生だった私にとってなくてはならなかった携帯も、漫画も、ゲームもない。生前欲しかったものは今、この時代には存在しないのだ。

「で、何企んでんの?」
「結局聞くんですね」
「聞く流れでしょこれ」

 聞かないでいいなら聞かないけど、と軽く首を捻ると、鬼灯はいえ、と小さく首を横に振って、口を開いた。

「友人の好みでも知っておこうと思いまして」
「………ほう。友人」
「あれ。違いましたか」
「いや、友人のつもりだけど。寧ろ幼馴染のつもりだけど。大親友だね」
「それは良かった。…で、まあそう言う訳でして」
「はあ」

 予想外に可愛らしい理由に、思わず言葉を失ってしまった。そうか、友人の好みをね。普通に聞けばいいのに。

「というかなんで急に?」
「それは…、」

 鬼灯はしばし黙って、また口を開く。

「烏頭さんや蓬さんの…あとお香さんの好みは大体知ってるんですが、空木さんの好みは全く知らないなと気付きまして」
「…ああ、なるほど?」

 まあ確かに烏頭たちの好みは割とはっきりしてるかもしれない。烏頭は機械いじりとか、まあとにかく物造りだったりが好きで、蓬は何かと色々ハマりやすく、収集するのが好きだ。お香ちゃんは無類の蛇好きで、よく見せてくるが虫が嫌いな私としてはちょっと分からない好みである。いやほんと、蝶々もダメだから救いようがない。

「んー、私の好みねー」
「はい、何が好きなんですか」
「んー………あーえーと、絵や文章を書いたり読んだりするのが好きかな」
「絵や文章……ですか」
「そうそう。何かを紙面に創りだすのが好き」

 格好良く言ってみたりしたが要はイラストを描いたり小説を書いたりするのが好きなのだ。読むのも見るのも好きだが創りだすほうが多分私は好きなのだと思う。鬼灯はそうですか、と頷いて、どうやら納得したらしかった。

「空木さんとは長い付き合いですが、こうして話すのは初めてですね」
「あー、そうだね」
「いつも烏頭さんの提案には蓬さんのようについて来ないので」
「まーあの馬鹿の提案にいちいち付き合うのも面倒だしね」
「そうですか? 楽しいですよ」
「私は優等生なもので」

 現代っ子は怒られるのに弱いのだ。豆腐メンタルだよ本当脆いんだよ。だから烏頭にいちいち着いててってたら私のメンタルボロボロになっちゃうわ。

「鬼灯ってさ」
「はい」
「なんか変わってるなーって思ってる」
「はあ」
「アイデアが奇抜でさ、凄いなーとも思ってる」
「ありがとうございます」
「鬼灯って出世しそうだよね」
「そうですか」
「偉くなっても忘れたりしないでね」
「話がぶっ飛んでませんか」

 うんそれ話しながら思ってた。私は一体なんの話をしてるんだろう。

「私がどれだけ偉くなろうと、貴方達は私の大切な友人ですよ」
「………」
「それでは、失礼します」

 鬼灯の去っていく背中を見届けて、ふ、と小さく笑みを零した。

 さて、有言実行してくれるだろうか。