一人不在の飲み会
「黄泉をいくつかの地域に分けて亡者の行いで住む所を決めては?」
いつだったか、鬼灯がそんなことを言っていた。その言葉通りに今黄泉は変わりつつある。私の知っている、天国と地獄、というはっきりとした区切りが出来たのだ。
あの世の制度を主に変えたのは鬼灯で、今では閻魔大王の元で第一補佐官を勤めるまでに出世した。私や烏頭たちなんかは教え処を卒業して、地獄の鬼として獄卒という職に就いた。…まあとはいえ、まだ地獄の制度もしっかりとは決められておらず、発展途上なところも多い。いつか私の言ったとおりに鬼灯は手の届かないほどに偉くなってしまって、最近はめっきり会う回数も減った。なんだかなあ、と寂しくは思うが、やはり上には上がいるもので。
「なんだよ鬼灯の奴! また飲みの誘い断りやがってよォ!! 何様だ!!」
「いや、第一補佐官様だろ。つーか飲み過ぎだぞ〜オマエ」
「そーだよ。鬼灯の場合今は忙しいんだからしょうがないじゃん」
酔いに酔っている隣に座る烏頭に面倒臭げな目を向けて、私は烏頭の向かいに座っている蓬の隣に移動した。蓬が苦笑して私を見てきたがまあ、分かって欲しい。酔っぱらいの隣は面倒臭い。でろっでろに酔った烏頭の帰りも蓬に任せることにする。社員寮、烏頭と蓬の部屋隣同士だし。
今日は慰労会含めの久々の飲み会なのだが、どうやら烏頭が鬼灯を誘ったところ忙しいのでと断られてしまったらしく、荒れに荒れていた。今鬼灯は忙しいから多分来ないよ、と前置きしておいたのに。まあ誘わない、という選択肢はないので私も誘うには誘うが。前提として覚悟はしておけ、ということだ。
勿論バカヤロウでも現状を理解する脳はあるので烏頭もちゃんと分かってはいるようだが、愚痴を言わずにはいられないらしい。まあ分からないでもないが、毎度毎度飲みに来るたびに潰れるまで飲むのは勘弁してほしい。
「マジで申し訳なさそうな顔して断んじゃねーよ…文句言いにくいだろー…」
「いや、今の今まで散々言ってただろ。…って、寝ちゃったよコイツ。…空木、烏頭は俺が運ぶからもう帰ろうか」
「そーだね」
私と蓬で自分の分のお金を出して、烏頭の財布もぶんどって割り勘にする。蓬は烏頭を手慣れた様子で背負って立ち上がった。
「んじゃ先出て帰ってて。支払い済ませたら追いかけるから」
「分かった」
先ほど計算して出しあったお金をレジに出して、会計をさっさと済ませて、烏頭を背負ってちんたら歩いているだろう蓬を追い掛けた。少し走るとすぐに蓬の…というか蓬に背負われた烏頭の後ろ姿を見つけ、隣に並ぶ。
「いやー毎度のことながらコイツ明日仕事って分ってんのかな」
「はは、もう今日≠セけどな。まーでも多分、鬼灯に会えなくて寂しいんだろ」
「だろーね。文句言うけど愛情の裏返しみたいなもんだろうし」
談笑しながら蓬と夜道を歩く。恐らく鬼灯はまだ仕事をしているのだろう。なんというか、現代日本の社会人を見ているようで恐ろしい。何かを変えるというのは相応の苦労が伴うものだと分かってはいるがしかし、鬼灯が倒れないか心配だ。
「でも実際問題、イザナミ様派がまだ多数残ってたりするし、鬼灯も必要以上に頑張らないといけないんだろうね」
「あー、イザナミ様自身もまだ根に持ってちょっかい掛けてくるらしいし」
それ聞いてお偉いさんとは暇なのかとちょっと考えたりもした。いや、退職したのだから暇なのだろうけど、いやしかし他にすることないんだろうか。伊耶那美命って私でも知ってる有名な神様だよ。割とちょっとがっかりしたんだけど。凄い人なのは分かるんだけど。
「あと若くして補佐官なんかになったから、やっかみも多いよね。この前あいつ生意気だよなーみたいは典型的やっかみを見た。こむら返りになれって密かに祈っといたけど」
「空木って鬼灯みたいなとこあるよな…」
「え嘘だろやめて」
私はあんな変人じゃない。すごいとは思うけどなりたくないって分かるかなこの気持ち。ね。いや凄いよ、ほんと凄いんだけど。でもなりたくない。
「烏頭が聞いたらキレて殴りに行くだろうからそういうこと言うのやめて欲しいんだけどね」
「あー……問題になって余計に鬼灯の仕事増えるだろうしな」
「それもあるんだけどさ」
「ん? 何?」
「殴ると手、痛くなるじゃん」
「…………。………ああ、なるほど」
遠まわしな私の言葉の意味を理解したらしい蓬は納得顔で相槌を打ったあと、人の良さそうな顔にまた苦笑を浮かべた。
「空木って優しいよなー」
「はっは、でしょー」
「そこで謙遜しないっていう。やっぱちょっと似てるよ、鬼灯と」
「やめろってば」
蓬の軽口に返しながら、昔の約束を思い出す。鬼灯はずっと私達を友達だと言っていたが、それが心の中でだけ、とかそんなんだったらどうしようなんてしょうもないことを考えて、嘆息。
「鬼灯は有言実行してくれると信じてる」
「は?」
「うん」
「いやうんじゃなくて」
約束を守れたらなんか呪いの道具でもあげようかな。