私にも選ぶ権利はある
「ねえねえ、空木ちゃんはあの二人のどっちかと付き合ってるの?」
お昼休み、今日は別部署の女の子たちに誘われて、いつもの食堂にて昼食を摂っていた。いつも蓬や烏頭と一緒にいるのでなんだか忘れられがちだが(そもそも忘れちゃいけない)私は女子だ。前世はピチピチの高校生だった。いやピチピチって言葉がすでに古いかもしれないけど多分今の現世よりもう少し未来の方で女子高生として生きていた。だから本来、私はこうして他の女の子たちと騒いでいるのが性に合っている。…のだが。
「…はい?」
思わず聞き返した。他の子たちも「あ、それ気になる〜」などと言っているがいやいや。ちょっと待って。
「どっちと…、ってなに?」
「だから、烏頭くんと蓬くん!」
「ゲホッ……ゴホッ、」
「え、空木ちゃん大丈夫!?」
思わぬ問いに、思わずむせてしまった。懸命に息を整えながら、質問を投げかけてきた女の子の方を見た。
「ゴホッ……いや、あのね、どっちも何も付き合ってないから」
「えっ、嘘!」
「嘘じゃないよ。なんでそんな話になってるの」
「だって空木ちゃんよくあの二人と一緒にいるから…」
「そりゃ幼なじみだから…」
その呟きに、更に女の子たちが色めきだった。幼なじみだって、素敵、なんてそんな声が聞こえて、思わず額を抑えた。いや、気持ちは分かる。うん。分かるよ。私も女子高生だった頃に幼なじみの男女に色々と恋愛的な質問をしていた。幼なじみって夢があるよね。分かるよ。でも。でもね。
「(あんな重度のバカヤロウとオタクは嫌だなあ…)」
私にだって選ぶ権利はあるわけだ。いや、まあ蓬のオタク、という部分ではある意味同族ではあるのだが、私にはあんな収集癖はない。物を買うなら実用性のあるものを、がモットーなので正直あの趣味はよく理解できなかった。いやまあ、お香ちゃんのあの蛇もなかなかのものだけど。そういえばお香ちゃん最近会ってないや。会いたいなあ。
…と、話が逸れた。まあとにかく、私にも選ぶ権利というものはある。あいつらを選ばなくたって他にいろいろ男はいるわけだし。幼なじみだから、という理由で決めつけてほしくない。前世でネタにしちゃった二人、ごめんね。でもまあ相手の男の子イケメンだったし二人とも満更でもなさそうだったし、そんなに悪いことをしたとは思っていない。
「ねえねえ空木ちゃん、どっちが好きなの?」
「うーん、だからさあ」
「空木さん、ちょっといいですか」
「あ、はい。今行きます」
テンションが上がっている様子のその子たちにどう説明しようか困っていると、ふと鬼灯に呼ばれて立ち上がる。流石に女の子たちも鬼灯の登場に黙り込んだ。
「なんでしょうか鬼灯様」
「…なんだかむず痒いのでいつも通りでいいですよ」
「あ、そう? なんか鬼灯ってそういうの厳しいイメージだった」
「そんなことありませんよ。まあ烏頭さんほど崩せとは言いませんが、様付けと敬語はいらないです」
「はいはい了解」
話の用件は仕事についてで、鬼灯は簡単に内容を述べていった。それを聞きながら、ふと私は先ほどの会話を思い出した。幼なじみ、っていうと、そうか、鬼灯も幼なじみに入るのか。うん。
「…ですね。…空木さん? 聞いてましたか?」
「え? 嗚呼うん聞いてたよ心配しないで。烏頭じゃないし」
「ボーッとしてたように見えたんですが」
「大丈夫だってば。…いやね、さっきまであの子達に、私が烏頭と蓬どっちと付き合ってるのかみたいなこと聞かれてたんだけど」
「はあ、空木さんどちらかとお付き合いされてたんですか。それはおめでとうございます」
「あほ違うわ」
冗談です、と鬼灯は首を傾げてみせた。うーん、鬼灯の冗談は分かりにくい。無表情でやるからなこいつ。
「ただの幼なじみって言ったらあの子たち更に盛り上がっちゃってさあ。でも今ふと思ったんだけどさ、幼なじみって鬼灯も入るんだよね」
「ああ、そうですね。付き合いますか?」
「だから真顔で冗談言うなよ分かりづらいから……というか私鬼灯もちょっと嫌だ…」
どうしてです?と鬼灯は首を傾げた。いや、どうしても何も。
「鬼灯は重度の変人だから」
「失礼ですね。私は普通ですよ」
「いやいや、あんたはどこからどう見ても変人だよ。そう考えると私の幼なじみ三人もいるくせに重度のバカとオタクと変人ってロクなのがいないな。もっとなんかいないのか」
「空木さんってたまにすごく失礼ですよね」
おっと。気に触ってしまっただろうかと鬼灯を見るが、特に気にした様子はない。うんまあ気にしてないならいいんだけど。でも鬼灯が変人だっていうのは取り消す気はない。だって本当のことだもんなうん。
「顔はねー鬼灯かっこいいんだけどねー」
「それはどうも」
「同じ顔なら白澤さんが……あ、ごめん怒らないで。いやでも白澤さんも大概馬鹿だしなあ」
「そもそもあんな奴とは似ていませんしあれがいいと言うなら私は空木さんの趣味を疑います」
鬼灯は本当に白澤さんが嫌いだな。苦笑していると、ずっと待っていた女の子たちが痺れを切らして私の名前を呼んできた。ああついつい話し込んでしまった。烏頭や蓬と違って鬼灯とはあんまり話せないからな。
「じゃあごめん戻るね」
「はい。お昼休み中にすみません」
「いやいや、鬼灯も仕事のし過ぎで倒れないでよ」
「気を付けます」
ひらひらと手を振って座っていたテーブルに戻った。おかえり、と言われてただいま、と答えた。
「仕事の話してるって感じじゃなかったよね? 何話してたの?」
「え、いやーただの世間話だよ」
「えーホントに?」
「嘘吐いてどうすんの」
「そうだけど……あの鬼灯様だよ?」
あの、ってどんな風に思われてんの鬼灯。まあなんとなく分かるけど。実際ドSで厳しいしな。あんまり誰かと親しげに話しそうにはないかもしれない。まあそんなことはないんだけども。
「鬼灯様だって世間話くらいするよ」
「えー、そうかなあ」
「そうそう。そんなお堅い人じゃないよ」
お堅いっていうか変人だしね。心の中でそう呟いて、うんと頷いた。