私の姉を紹介します
私、永原朔には双子の姉がいる。ビビリで、面倒見が良く世話焼きで、そしてなんか、少しだけ変な姉だ。姉は容姿とか性格とかが大人っぽいというわけではなかったが、しかしとても大人びていた、とは思う。なんだろう、子供らしくない、というのだろうか。某体は子供、頭脳は大人な名探偵のような、そんな感じ。姉はそう言われるとどこかギクリとしたような反応を示すが、まあそもそも同じ日に生まれたのだからそんなわけはあるわけないのだ。まあこれが、姉の変なところ≠ミとつ目。
姉の名前は永原郁という。郁と私は双子とはいっても二卵性の双子で、容姿とか性格は全く似ていない。私達二人とも目はぱっちりした二重だが、郁は少し三白眼気味で、私は半目であまり良くわからないが黒目がちの大きな目をしている。他にも郁の鼻は普通の大きさだが私は少し小さめの鼻をしていたり、郁の髪は少し猫っ毛で私は猫っ毛よりも少し硬めの髪質をしていたり。性格も面倒見の良い郁とは違い私は面倒くさがりだったりと、二卵性の双子は、一卵性の双子のように容姿や性格がそっくりだったり、意思疎通ができたりなんてことは(勿論一卵性だからといって出来るわけでもないが)できない、ただ年の同じなだけの普通の姉妹だ。だからまあ、私は郁の考えていることなんてこれっぽっちも分からないのだけど、まあしかし、郁の行動は奇妙で面白い。
「誰とも同じクラスじゃありませんように……」
まず、小学校入学式前日の、この台詞。誰とも同じクラスじゃありませんように、なんて、変なことを言うなあと思いつつ、私なりにその言葉の意味を考えてみたりもした。例えば、普段遊んでいる子の中で苦手な子たちがいて、その子たちの誰とも同じクラスになりたくない、とか。しかし思い返してみれば郁はあまり外で遊んでいなかったように思うし、外で遊んでいたような記憶もなく、恐らくまだ友達もいない。あっさりと却下されてしまったその案とは別に違う案も考えてみようとしたが全く思い浮かばず、私は郁に答えを聞いてみることにした。
「誰ともって、誰と?」
「わっ、朔ちゃん、き、聞いてたの?」
「うん、駄目だった?」
「あーいや、あはは。駄目じゃないけど」
郁は曖昧に笑って、結局答えてはくれなかった。
結論から言うと、郁の言っていた誰か≠ヘ郁のクラスにはいなかったようだけど、私のクラスにはいたらしかった。郁はその誰か≠見つけると頭を抱えて何やらブツブツ呟きだした。「そうか身内が関わる可能性もあるのか」うんたらとよく分からないことを言っていたが多分聞いても答えてくれないので無視しておいた。
やはり郁は変だなと思った。
▽
私は郁の言う誰か≠ニは特に関わることもなく(多分だが)小学校時代を過ごしていた。小学校六年間の間にその誰か≠ニ郁が同じクラスになることもあったようで、頑張ればその誰か≠特定することも出来たかもしれないが、面倒くさいのでやめておいた。
中学に上がってから、私は妙なことに気付いた。どうやら私は他の人より目が良いらしい。かなり遠くのものを指差してあれ、と言うと皆見えないようで首を傾げる。それを郁に言うとまたもや頭を抱えて「サイドエフェクト持ちかよ…」と唸られた。ムカついたので蹴ってやった。「酷いよ朔ちゃん!!」と泣かれたが知らない。
「お、永原? だっけ? 隣よろしくな」
「…どーも」
中学に上がってしばらくしてあった席替えで、私は小学校が一緒だった、…ええと、荒船?と隣の席になった。あまり印象はないが、中々男前な風貌をしているな、と思う。荒船は結構フレンドリーな性格らしく、割と話しかけてくれる。郁のことも知っているようで、「あいつ変なやつだよなあ」と笑っていた。どうやら他人から見ても郁は変らしい。
帰ってから郁に荒船のことを告げるとまたもや頭を抱えてしまった。「オーマイガー」なんてつぶやいていてちょっとムカついたのでまた蹴ってやった。良い子は真似しちゃダメだよ。
「永原って紛らわしいし、朔で良いか?」
しばらくして荒船と大分仲良くなった頃、荒船のその提案に、私は特に渋るでもなく了承した。男の子に名前で呼ばれることはあまりなかったので照れたが、まあ荒船をそんなふうには見たことがなかったのですぐに慣れた。荒船は私のことを名前で呼んだが、私は苗字のままで呼ぶことにした。荒船という苗字がかっこよかったのと、特に名前で呼ぶ必要性を感じなかったからだ。荒船は私とよく話題に出てくる郁を呼び分けるのが紛らわしいから言ったのだし、荒船には別に双子とか兄弟とか、とりあえず私の知っている中ではいないので名前でなくても問題はない。
しかしそんな名前で呼ばれるほど仲良くなった荒船だが、少しして、席が離れてしまい、あまり話さなくなった。まあそんなものかと勝手に納得して、少し寂しさを覚えつつ、新しく隣になった子に笑顔を向けた。
郁の奇行はその間も止まらなかった。「あと何年で来るのかな…」とかブツブツ呟いていたり本屋さんで「ワートリ…」と本の題名?のようなものを呟きながら一心不乱に何かを探していたり。見ていて飽きないが、うちの姉は大丈夫だろうかと少し心配になったりもした。同じ所で生まれて同じ時間過ごしてきたはずなのだが、どこで違えたのだろうか。なんか郁はそもそも根本から違う気がしてならないが。
それから時が経ち、私達が中学三年生に上がった年に、近界民という化物が侵攻してきて、それにより両親が死んでしまった。侵攻が終わり、すべてを理解した時私は珍しくも泣き喚いたが、郁は泣いておらず、ただ苦しそうに顔を歪めるだけだった。私はその時本気で、郁の気持ちが分からなくなった。