ボーダーでの再会



 両親がいなくなって、二人だけになってしまった私達は、引き取ってくれる親戚もおらず、とりあえずボーダーという、対近界民組織から援助を受けて二人だけで生活していくことになった。両親が死んでしまっても泣かなかった郁の気持ちは分からなかったけど、すぐに立ち直ってしまった私も大概だと思った。私は私達が生きていくために必要なことを考えなければいけなくて、分からないながらに考えた結果、ボーダーに入ることを決めた。ボーダーに入って正隊員になれば給料が出ると、どこからか聞いた。いつまでもボーダーからの援助に甘えていられないのも確かで、私達は生きていく術を見つけなければいけなかった。郁はボーダーに入ることを嫌がった。怖いとか面倒とかそんな感じとはまた別に、何か他に感情があるように見えた。しばらく説得して、あまり手応えを感じられなかったのでとりあえず私だけでも入ることにした。そうしたら私だけに任せておけない、と渋々郁もボーダーに入った。また頭を抱えていたけど、放っておくことにした。
 高校はボーダーと提携している公立校に通うことにした。進学校でしっかり学びたいという気持ちはあったけど、しかし進学校はお金がかかるのでやめておいた。公立校でも勉強はできる。
 ボーダーに入る試験のとき、私にはサイドエフェクトという特別な能力があるらしいと診断された。強化視覚、という、単に目が物凄くいい、というだけのちょっとしたものだが、ポジションを選ぶのにはいい材料になるかもしれない。しかしそれよりも、サイドエフェクト、とは、前に郁が言っていたのを聞いたことがあるが、どうして郁がその単語を知っていたのだろう。郁のいつもの奇行と関係があったりするのだろうか。

「ねえ朔ちゃん、ポジション決めた?」
「うん、狙撃手」
「狙撃手かあ、私もそれにしようかなあ」
「駄目。姉妹で一緒とか嫌だから違うのにして」
「えええ、狙撃手の選択肢なし!?」

 結局郁は攻撃手になったらしかった。銃は怖いから、とか言っていたが攻撃手は直に人を斬るのに大丈夫なのだろうか。あとちょっと憧れていた、と言われて何かあったのだろうかと首を傾げたが多分これも誤魔化される気がしたので気にしないでおいた。
 最初の一年、私達は訓練生として残りの中学生活と高校生活一年目の半分ほどを過ごした。私はサイドエフェクトのお陰で、基本を覚えてからは命中率も上がり順位もどんどん上がっていった。郁は防御を中心とした戦術で上に上に上がっていっているらしい。割と注目されたいたのでそれを告げるとまた頭を抱えだした。何だろう、目立つのが嫌なのだろうかこいつは。
 まあそういう私もサイドエフェクトのせいか、注目されているのを感じつつ、別に目立つことに抵抗はないしどうでも良かったのでヒソヒソと話されているぶんは気にしないでおいた。郁がぼそりと「朔ちゃん強い…」と呟いていたが郁が気にしすぎなだけだと思う。私は普通だ。

「……ん? 朔…か?」
「…、荒船?」

 ボーダーに入ってから一年程経ったある日のこと、私は懐かしい声に呼び止められた。中学を卒業して、それからは高校も離れてしまいあまり会っていなかった荒船は私だと認識するなりパッと笑顔になって、「久しぶりだなー」とこちらに歩いてきた。
 一緒にいた郁は何故か急に焦ったように「わ、私用事あるから行くね!!」とどこかへ走って行ってしまった。なんだあいつ。さっきまで「今日のご飯何にしよっかー、後で一緒に買い物行こうよ!」とはしゃいでいたくせに。用事ってなんだよ、おいこら。
 荒船はそんな郁の後ろ姿を見やり、「相変わらず変なやつだなー」と笑っていた。

「つーかお前、ボーダーに入ってたんだな」
「まあ、色々あって。一年くらい前から」
「ふーん。俺は最近入ったばっかなんだ。つーか朔、B級かよ。すげーな」
「まあね。サイドエフェクトに助けられてる感じだけど」
「サイドエフェクト? あ、もしかしてあの超視力良かったの、あれか?」
「そ。よく覚えてるね」

 まあな、と荒船は笑って、「ここじゃなんだし、ラウンジ行かねーか?」と首を傾げた。私も久々に荒船と話したかったので頷いて、ラウンジへと一緒に向かった。


 ▽


「へー、狙撃手か。朔っぽいな」
「何それ」

 くだらないことを暫く話していれば、ついつい時間が過ぎてしまっていた。時計を見ればもう帰らなければ行けない時間で、私は立ち上がる。

「ごめん、私帰るね」
「あ? もうそんな時間か。…おう、気をつけて帰れよ」
「うん、ありがと」
「あ、でも永原、探さなくていいのか?」
「え? …ああ、郁? それなら連絡とるから大丈夫。じゃあ、またね」
「おう、またな」

 荒船と別れて、携帯で郁に電話をかける。プルルル、とワンコール鳴り終わる前に郁が『朔ちゃん!?』と勢いよく電話に出てきて、少し驚く。

「…郁?」
『朔ちゃん助け……じゃない、えっと、もう帰る!? 帰るよね!? ね!? 帰ろう!?』
「いや帰るけど……あんた今どこ?」
『今から出口向かうから! 待ってて! 後で!』

 ブツ、とそれだけ言って切られてしまった電話を暫く見つめ、ふう、と息を吐く。

「後で覚悟しとけよ」