アイツみたいになれっこない

 いつだって俺は比べられていた。兄弟とかの身内じゃなくて、幼なじみと。ただ隣に住んでて、必然的に仲良くなっただけの他人と。嵐山准=Aなんて名前まで格好いいそいつは、卑屈で、嫌味っぽくて、顔も何をやっても平凡な俺なんかとは比べ物にならないくらい、本当に完璧≠ネ奴だった。人当たりは良くて、顔も良くて勉強や運動も出来て、本当にこんな奴いたんだと呆れてしまう程完璧なそいつと、なぜだかただの幼なじみ≠フ俺は比べられていた。ただ隣に住んでいただけなのにただ仲良くしていただけなのにそれなのに。何で。元々卑屈だった俺は更に卑屈になって、どんどんどんどん捻くれていった。それでもそいつは馬鹿みたいに俺の事を友達だと言ってついてきた。周りは文句を言ってきたがそいつは離れなかった。気付けば俺の友達はそいつ一人になっていた。

「日向ー、早く起きろよ! 遅刻するぞ!」
「………チッ うっせぇな……」

 高校に入り、そいつは毎日俺の家に来ては俺をたたき起こしてくる。親はすっかり准のことを気に入り、今や息子の俺よりも可愛がっている。あいつは俺の親までも奪っていくのだ。別に准のことが嫌いなわけではないがこうして毎日家まで来られるのはウザい。ここまでする意味が正直分からない。
 バン、と無遠慮に部屋に入ってきたそいつはまだベッドに寝転がったままの俺を見て少し呆れた顔を見せた。外ではそんな顔しないくせに、俺には本当に遠慮がないやつだ。俺の前でだけ本性を見せられても嬉しくない。男の本性なんて何が嬉しいんだか。

「ほら、遅刻するぞ」
「いいよ別に」
「良くない。ほら、早く起きろ。一緒に行くぞ」
「ヤだよ野郎と一緒とか」
「佐補も一緒だぞ?」
「ガキじゃん」

 つーか今時兄妹で登校とかないわー。しかも佐補も副もまだ小学生だろ? 高校生の兄貴と一緒に登校は辛いだろ。いつかマジでウザがられんぞ。もう手遅れかもしれないが。しかしこれを准に言うと後々面倒くさいので言わない。何事も完璧なこいつだが、唯一、超絶なブラコン、シスコンという欠点があるのだ。しかしこいつほど完璧だとその欠点も長所にしかなりえないのだが。
 グイーと両手を引かれ、ベッドから体を起こされる。あぁ体が起きたくないと猛烈な拒絶反応を示している…がしかし、そんなの准が聞いてくれるはずもなく、俺はベッドから引きずり出された。あぁ愛しきベッドよ…

「准ウザい」
「分かった分かった」
「ばーかばーか」
「ほら制服」
「ボケバカアホ」

 暴言を吐きながらも、手渡された制服はちゃんと着てやる。その間に俺のカラッポの鞄を確認した准はまた置き勉したのかと文句を言ってきたが無視した。どうせ家に持って帰ったって勉強なんかしないのだから学校において帰ったって問題はない。イイコちゃんの准とは違うのだ、俺は。
 准の小言を聞き流し、鞄を持って下に降りると弁当と朝食が用意してあった。准も俺を追いかけてリビングへ降りてくる。母さんは准に「いつもありがとうね」なんて愛想よく笑って朝食を食べるように勧めている。もう食べてきただろう准は断りきれずに苦笑して席についたが少し顔色が悪い。お腹いっぱいなのだろうな、なんて頭の端で考えて、俺は自分の分の食パンを口に放り込んでから准のパンを横取りしてやった。驚いたような准と怒る母、俺は素知らぬ顔で2つ目のパンに齧りついた。

「日向! あんたね!」
「あ、いえ良いんです! 食べてきたのでお腹いっぱいでしたし、」
「…そう? やっぱり准君はいい子ね」
「いえ本当に…」
「………行ってきまーす」
「あっ、こら日向!!」

 俺が席を立つと、准も慌ててついてくる。「弁当忘れてるぞ」なんて言って俺に弁当を渡すそいつを横目で見て溜息を一つ。一緒に佐補と副も出てきて、「日向兄ちゃんおはよ!」なんて抱き着かれた。鈍い痛みに眉を寄せて、また吐かれた溜息の理由なんてこいつらには見当も付かないのだろう。
 分かれ道でガキ二人とも別れると准と二人。周りからは「なんで嵐山君と萩野が」なんて声が聞こえてくるが、准は気にも止めていない。まぁどうでもいいが、俺としては酷く面倒くさいのであまり准と一緒に居たくないのが本音だ。

「………あいっかわらず准君は人気者だねぇ」
「ん? 何か言ったか?」
「べっつに」

こいつみたいにはなれないし、なりたくもない。