終


 初めはチェカのようだと思っていた。
 キラキラとした眼差しを自分に向ける異世界からやってきた少女。
 屈託のない曇りを知らない笑みは眩しすぎるとも、手放したくないとも思った。だから、ギリギリまで縁を切れなかったのだろう。
 そもそも、寮生とのトラブルを避ける手段なら芽唯を手元に置く以外にも山ほどあった。それなのに、定期的に会う時間を作り、会話を重ね、互いを知ろうとしたのだから言い訳のしようがない。

「レオナ先輩、ご飯おいしくないですか……?」
「別にそうじゃねぇよ。……少し考え事してただけだ」

 不安そうに眉をハの字に下げた芽唯に見せつけるようにメインディッシュのカツに食らいつく。
 そのままぺろりとカツを食べて、不服ながらもサラダにも手を付ければ芽唯の表情が和らいだ。サラダと言っても量が一口サイズなのが彼女なりの譲歩なのだろう。

「……悪くない」
「よかった……!」

 頷きながら、呑み込んで、いつも通りの感想を述べるだけで笑みを浮かべる。

「そうだ、この後またお勉強見てもらってもいいですか……? 魔法史の授業で繋がりがわからなくなってしまった部分があって……」

 ここなんですけど……と鞄から取り出した教科書を開いて芽唯が指さした部分は確かに躓きやすい部分だ。国同士の現在の関係もわかっていない彼女には理解し辛いのも仕方がない。
 渡されていた飲み物で喉を潤してから「わかった」と答えればまた曇りかけた顔に笑顔が戻る。
 そんな笑顔に絆されているという自覚が随分前から芽生えてしまっていたレオナの耳が一瞬だけヘタリと垂れてはすぐに戻る。
 素直に何故、どうしてをぶつけてくる彼女のように自分に笑顔を向ける理由を素直に問えればよかったのにと思うも、まだ時期ではないのだと喉まで出かけては引っ込んでいく。
 きっとこの少女はどれだけ追い払ってもずっとなんだかんだと自分の背を追ってくるのだろう。
 時には怒りをぶつけ、時には悲しみながら、納得がいかない限りどこまでも。
 追い払う理由に第二王子だからと立場を使えば「そんなものは知らない」と一国の王子に対して無礼極まりないが、正しくレオナだけを見ているのだと感情をぶつけてくる。
 あちこちでトラブルを起こすたびに親しいものを増やしているこの少女は、そうやって相手を偏見なく見るから好かれるのだろうと今なら思う。
 ハーツラビュルから始まって、サバナクローにオクタヴィネル。少し目を離したホリデー期間が終わるころには自分を軟禁していたというスカラビアすら味方に付けていたのだから恐れいる。
 少しずつ、少しずつ、芽唯を取り巻く世界が広がっていく。
 最初はレオナや他の少数にだけ向けられていた信頼が別の者に寄せられるのが面白くない。
 自分ではなくハーツラビュルを頼れと突き放したあの日の自分が見たら驚くだろうか。いや、あの頃から既に自分はきっと芽唯に気持ちを傾け始めていたのだろう。あれだけ手放すのが惜しかったのだ。獲物として見ていない訳がない。
 恐らくは愛や恋と名付けられるはずの感情はどこか飢えに似ている。
 しかし、どれだけ渇きを覚えても満たされることのないこれまで抱えていた焦燥に比べれば、この気持ちはなんて優しいのだろうか。
 彼女を、芽唯を、己の隣に置いておくことが出来れば乾いた心が満たされていく。
 第二王子に生まれたが故に兄より優秀だと認められることはなく。
 マジフト大会もマレウスという化け物が存在する限り一番になれない。
 ないない尽くしの人生で、砂に変えることも出来なかったこんな世界で初めてその喉笛に噛みつくことが出来るのだと思えた獲物。
 ならば迷うことなく、ただ真っすぐに、今は食いちぎることだけを考えていればいい。
 砂上に立った導はきっと彼女の形をしているのだから。

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