04


 昼食を共にし、メイの勉強を覗き見、疑問が浮かべば都度答える。昼下がりの植物園での何気ない日常が帰ってきた。
 彼女の疑問は実に多種多様だった。魔法の成り立ちはもちろん、この世界の歴史に触れるたびにぽろぽろと「何故」が零れ落ちる。
 時には元の世界の知識を織り交ぜた疑問をぶつけられ、本当に違う世界から来たのだと納得させられる場面もあった。
 魔法が存在せず化学力を中心に発達した世界と魔法が当然のように存在し、場合によってはそれあり気で解決した事例も少なくない世界。もちろん向こうには妖精なんてものも存在しないので学園のように年中快適な温度が保たれるということもない。

「おしゃれを取るか、温かさを取るか毎年悩みどころなんです。まあ、こっちでもオンボロ寮はそこまで快適ってほどじゃないけど」

 その時感じた肌寒さを思い出したのか、足を擦っては苦笑すると懐かしさを噛みしめるような笑みを浮かべるメイの様子にレオナは話題を少し間違えたなと内心舌打ちをする。
 マジフト大会以前と変わらない関係に戻った。つまり、それは彼女が未だに自分に対して少し壁があるということを意味している。
 別に甘えて欲しいというわけではない。けれど、多少なり彼女の方から関係の修復を望んだのだから以前よりも距離が縮まってもいいのではと思わなくもない。 
 本当にただ勉学の相談相手が欲しかっただけなのだろうか。レオナにだけ聞いてほしいこともあるとはなんだったのか。そんなこちら側の疑問を口にする機会が訪れるはずもなく。ただ隣でメイが笑顔を浮かべるのを複雑な気持ちで見つめる日々が続いていた。

「そうだ、この絵本凄くわかりやすかったです。私、妖精ってもっとこう……可愛いというか、人に対して優しい生き物かと思ってました」
「優しい? そりゃお前の世界でのイメージか? 妖精なんて大半が碌なもんじゃねぇよ。出来うる限り関わらないに限る」
「でも学園の管理には妖精も関わってますよね……?」
「対価を用意してるからな。一定量の魔力を常に供給し続ける、火を絶やさない。魔法士ならそういう契約を結んで日常に役立てることもある」
「契約、ですか。私とレオナ先輩のお昼ご飯みたいな……?」
「お前の身の周りだと近いのはそれだな。ま、あいつらはその結んだ契約を故意にしろ事故しろ反故にした途端に敵意を全力で向けてくるのが厄介なんだが……。空調を任せた妖精の機嫌を損ねてみろ。砂漠が雪景色になったかと思えばサバンナに干ばつが起こるくらい暑くなるかもしれないぜ」
「わぁ……」

 レオナの極端な例えに目を瞬いたものの、わかりやすい例えに間抜けな声と共にメイが身を震わせる。

「こんなに可愛いのに……」

 ぽつりと呟き、ぱらぱらと手元の絵本を捲ったメイはレオナの脅しのような話を聞いても結局妖精への可愛いというイメージは抜けきらなかったらしい。

「でもレオナ先輩がいれば、仮に妖精さんを怒らせることがあってもきっと大丈夫ですよね」
「怒らせる予定があるのかよ……」
「そ、そんな予定はないです! 仮にというか、もしそういうトラブルがあったとしても……みたいな……」

 口をもごもとごさせたままメイがぱたりと絵本を閉じる。
 よほどのことがない限りそんなトラブルに普通は巻き込まれない。と否定したいところだったが、彼女は既に入学してからいくつもの事件に関わっている。
 本人が原因ではないとはいえ、オーバーブロットが二件。……内一件がレオナなのは置いておくとして、他にも些末なことから大きなものまでメイの周りは確かにトラブルが絶えない。
 メイ自身も巻き込まれやすい自覚があるのだろう。妖精かぁ……、と呟いて未だに絵本から目を逸らさない。

「……わかったよ、助けりゃいいんだろ」
「良いんですか……?」
「どうせ駄目だと言っても聞かないだろ。クビにしたはずの昼食係を無理やり続け始めたやつが今さらなに殊勝なフリしてんだよ」
「だっ! だって、あれはいきなりだったから……。大会とかいろんなことがあったし……納得出来なくて……」

 ニヤリと笑って指摘すれば慌てて首を振ったメイが頬を赤く染める。
 なんだかんだで人を面倒ごとに巻き込む上に解決役としてこき使おうとしてくる肝の据わったこの少女と関わるのは退屈しない。
 初めは問題が起きないようにと面倒を避ける為に庇護下に置いたのに、これではただ気に入ったから囲ったようにしか見えないだろう。
 実際、マジフト大会の件でレオナに異様に注目が集まったこともあり、またメイが傍をうろついていることに対して様々な憶測が生徒達の間で飛び交っている。
 勝手な噂を立てられるのは好きではない。イメージで物事を言う連中の大半は本質を見誤るからだ。想像で人を判断し、忌み嫌い、距離を置く。しかし、今回に限っては耳にした噂のどれにも腹が立たなかったのは自分がはたから見てもそう思うだろうと、納得せざるを得ないし、事実でもあると思ったからだ。
 揶揄えば揶揄うだけ素直に返ってくる反応が好ましい。今も「だって……」「もう」と何か言葉を続けようとして出した言葉を何度も何度も飲み込んではただ自分を睨みつけてくることしか出来ない様子が実に愉快だ。

「いじわる……」

 負け惜しみのようにぽつりと零された一言にまた自然と笑いが込み上げた。

◇◆◇

「レオナさんが悪いんスからね」
「ったく……クルーウェルなんかに丸め込まれやがって……」

 閑散とし始めた食堂にラギーと共に足を運んだレオナは料理の香りが完全に薄まっている空間に眉を顰める。
 まだ昼休みは終わる時間には程遠いが人気のあるメニューは食べ盛りの男子高校生に食らいつくされてしまっているだろう。

「なに食います?」
「肉」
「アンタいつもそればっか!」

 聞いた自分がバカだった!と駆けるラギーの背を見送ったレオナはぐるりと辺りを見渡す。
 すでに大半の生徒は自由を謳歌しているのだろう。どこの席も空いていて、混雑時の姿が嘘のようだ。余裕で二人座れるのだから適当な場所で良いだろうと眼前の椅子に手をかける。

「……からさ……。仲……いい……さ」
「…………もん。……だし、それに……」
「……あ?」

 ほとんど人の声がしないとはいえ、食堂は広い。出入口から遠く離れた座席の声がぶつぎりに聞こえたレオナは無意識に顔を上げる。
 声に反応するようにぴくりと揺れる己の耳が間違いなく聞き慣れたあの声を拾ったからだ。

「メイの料理って結構美味いよな」
「今日の弁当も全体的に茶色いけどどれも美味いよ」
「茶色いのは放っておいてよ……。そういうものなんだよ和食って……」
「レオナ先輩勿体ねー、この角煮ってやつ時間かかるんだろ?」
「味がしみ込むまで煮込む時間があるから、他のよりは」

 意識を集中させれば声がほとんどしなくなった空間の音は広さがあろうと拾うのはたやすい。
 声の方をよく見ればメイとよく行動を共にしているトランプ兵が彼女の弁当に手を伸ばしている。

「あー! エース、それで三個目なんだゾ! 残りは全部オレ様のだ!」
「グリムは寮でもいっぱい食ったんだろ!」
「そういう問題じゃねえ!」

 その二人の向かいの席でぼうと青い火を吐く魔獣の隣でメイが困ったような笑みを浮かべる。
 三人と一匹の間にはメイがレオナの分の昼食を詰め込んでくる弁当箱が置かれている。
 今日は補習を受けろと迫るクルーウェルにラギーの裏切りのせいで捕まってしまい、彼女との昼食を断った。余った弁当がメイの友人たちの腹に収まるのは自然の理だろう。

「…………」

 けれど、それが妙に面白くない。
 彼女たちに気づかれていないのを良いことに少し離れた席に座って耳を澄ませる。

「でもさ、レオナ先輩とよく関係持ち直したよな。正直あんな悪だくみしてた相手のとこにノコノコ行くのってどうなのって思うけど」
「そりゃあ悪いことしてたんだよなぁ……って思わなくもないけど、すごく良くしてくれてたのにあんな終わり方が嫌だったというか」
「弁当作りなんてめんどくせぇことやめちまえばいいのに。オレ様にもっと構うべきなんだゾ」
「もう、おこぼれでツナ料理食べてるくせに何言ってるの」

 弁当の話から、本来食べるはずだったレオナの話に自然と話題が逸れ始める。
 あぁ、ツナ缶を使った料理は相棒の毛玉の為だったのか、と聞き飽きた悪事に纏わる自分への悪評を流しながらいつも出されていた弁当の中身を思い浮かべる。
 クライアントであるレオナの言いつけ通りに肉が多めの弁当に何故か必ず使われているツナ。肉が中心ならばと文句もなく、彼女の好みなのかと流していたがなるほど魔獣の為だったのか。どこまでも周囲に甘い少女だ。

「保健室でも『来年も俺なりに全力を尽くす』って悪びれてる様子がなかったし、あまり関わらない方がいいんじゃないか?」

 スペードのトランプ兵が少し声を低くしたのはレオナの真似か。どうやらトランプ兵の友人二人はレオナに対しての印象は未だ悪いままらしい。
 むしろ、悪事を暴く側に立ち。実際に首謀者であると追い詰めたにも関わらず平然と自分に近寄ってくるメイがおかしいのだと思わなくもないが、彼女の言い分は随分前に直接聞いている。今更疑う方が野暮というものだ。

「うーん……。何回も言ってるけど、レオナ先輩っていい人なんだよ。そりゃ、悪いこともするけど……この学校の人で悪いこと絶対しないなんて人いないじゃない……?」
「悪いって言っても限度があるっしょ」
「けど、エースとグリムだってグレートセブンの像を喧嘩して燃やしたし、シャンデリア壊したり、相手が人じゃないだけで、自分の意見を通そうとして魔法を悪いことに使ってるじゃない?」
「待て、シャンデリアはデュースのせいだろ!」
「はぁ⁉ 元はと言えば罰則からエースが逃げてたのが問題だろ!」

 ガタッとスペードの──デュースと呼ばれた方が立ち上がってもう片方へとくってかかる。
 そういえば入学式直後にそんな事件があった気もしたが、そのトラブルの中心にも居たのかと呆れを通り越して同情が過る。

「二人とも! 話聞かないで揉めるなら私もう言わないからね!」
「わ、わるい!」
「ごめんって! んで? 俺らも確かに魔法で色々問題起こすけど、あんだけ故意に怪我人出しても同列だって?」

 大人しく座りなおすとエースと呼ばれている方が話の続きを促した。

「同列っていうか、『勝ちたい』って思って全力を尽くすってこと自体は何も悪くないじゃない。私だって、元の世界に帰るのに多少悪いことしなきゃいけないって言われたら迷いながらもやっちゃうと思うの」
「例えば?」
「たと、例えは浮かばないけど……。あの大会って選手を目指してる人にとっては将来もかかってたんでしょ? それがマレウスさんって人が強すぎて全然プロチームにアピール出来なくてみんな困ってたって」
「まああの強さはなぁ……」

 実際にマレウスのプレイを目撃したであろうメイ以外の者はマレウスのプレイを思い出しているのか動きが止まる。
 とびぬけた力、いわゆるチート級の選手に頭を悩ませていた生徒は数知れない。

「学園長に後から聞いたんだけど、その人を殿堂入りさせて試合に参加させないって話も出てたんだって」
「え、なにそれっ⁉ だったらそれでいーじゃん」
「でも、強すぎるからって理由で排除して、その人抜きで僕は強いですよ〜ってアピールして楽しい……?」
「あー……、んー、それはダセぇかも……」
「トップを取るなら本当の意味で、ってことか」

 こくりとメイは頷く。

「寮長会議でそういう話を持ち掛けたらほとんどの寮長に反対されたんだって。それで、一番最初に反対したのがレオナ先輩だったって学園長言ってたの」

 忌々しくて思い出したくもない寮長会議のやり取りが脳裏を過る。
 そういえばメイを突き放したのもあの会議の不快さが原因の一つだった。

「やり方はどうなんだろうってやっぱり思うけど、相手に勝ちたい、負けたくないって頑張るの悪いことじゃないでしょ? この間授業で一緒に魔法薬作ったサバナクローの子も『寮長は俺らに希望を見せてくれたんだ』って言ってたよ」
「闇落ちバーサーカー状態になる前にあんなボロクソ言われて見捨てられたってのに変わったやつらなんだゾ」

 一緒に話を聞いたのであろうグリムがため息をつく。まだ食い足りないのか弁当に伸ばす手は止まらない。

「あんなことがあってもみんなレオナ先輩のこと慕ってるんだって。そりゃ共犯なのもあるけど、普通見限る人が出てきてもおかしくないと思わない?」
「確かに。どんなに腕っぷしが強い頭でもついて行けねぇって思ったらそれまでだしな」
「かしら……って出たよ、デュースの悪語録」
「私もね、レオナ先輩のこと憎めないからサバナクローの人たちの言うことちょっとわかるんだ。あ、でも大会前に一方的に縁を切られたのはすっごく怒ってる! 第二王子ってなに⁉ 私そんなの一回も気にしたことないのに!」

 ガッとフォークを弁当箱に突き立てる音がする。あぁ、この間の……。と光景が脳裏に過ったレオナの尻尾が少し項垂れる。
 あの時は笑顔を浮かべた後しおらしくしていたが、やはり内にはこの熱量の怒りを秘めていたのであろう。
 ちらりと横目で見れば、怯えた様に尻尾や耳を垂れさせた魔獣の姿が目に入る。

「こいつ、たまにこえーんだゾ……」
「王子様とかいきなり言われても全然イメージ湧かないし、この間絡んできた人にも王子様だから媚び売ってたんだろとか言われたんだけど、そういう人ってちょっと良くされたからって簡単に相手を信用しないんじゃないかなって思うの」
「人を見る目は一般人よりも確かかもしれないな」
「そういや、部活の先輩も暗殺がどうのとか言ってたから、家柄が良いとそれなりに苦労もあるっぽい?」
「あっ暗殺⁉」

 驚いたデュースの声が食堂内に響き渡る。
 日常的に聞くはずがない言葉であるのは確かだ。そんな単語が平然と飛び出てくるのは大富豪のカリムかその近親者くらいだろう。

「あ、あん……。と、とにかくだからレオナ先輩も私にそういう下心があったならもっと早い段階で見限ってたと思うの」

 デュースと同じようにエースの話題に少し驚いたメイは瞳をぱちくりと瞬かせたものの、何度かその動作を繰り返しては気を取り直したように話を続ける。

「みんなだって私が女の子だから、異世界人だからって今も仲良くしてくれてるわけじゃないでしょ?」
「そりゃ当然」
「あぁ、僕達はメイがメイだからマブになったんだ」
「ま、最初は興味本位だったけど? 入学式に無理やり混ざり込んできたやつがどんな奴かみてやろーみたいな」
「そうなのか⁉」
「蓋を開けてみれば異世界がどーので、しかも女の子だし。拍子抜けしたわ」

 肩を竦めたエースの話は本心なのだろう。
 ナイトレイブンカレッジは一応名門校だ。それを羨む者はもちろん、経歴欲しさに忍び込んで無理やり入学しようとする者も珍しくはない。そんな悪だくみも学園を覆っている結界に阻まれ侵入すら許されたことはないのだが、メイが魔法も使えないのに学園内にどこからともなくやってきたことはある意味、異世界からの来訪者だという証明にもなっていると言えるだろう。

「……きっかけはそれぞれ色々あると思うけど、ずっとそれだけで関係を続けていけるわけないし、レオナ先輩には一度突き放されてるし……。それでも今また一緒の時間を過ごせるようになったのは、二人が私をちゃんと友人だと認めてくれたように、私と先輩……お互いが相手の中身をちゃんと見てた証拠なんじゃないかな」
「なるほどねぇ」

 ふーん、と納得したように相槌を打ったエースに頷いたメイは持っていた食器を皿に置くと横に置いていた自分の鞄から一冊の絵本を取り出した。
 最初にレオナが借りた本からもう何冊目かは覚えていない。彼女の疑問が変わるたびにその都度適した本をラギーに借りさせ、メイを経由して図書館に返すのを繰り返している。

「この絵本もレオナ先輩と多分ラギー先輩が用意してくれたの。魔法の基礎知識が何もないなら子供向けの絵本がわかりやすいだろうって」
「あ、その本なら僕も小さい時に読んだことがある。すごくわかりやすいんだよな」
「へー……。まあ、確かにメイには優しい良い先輩なのかもな」

 メイから受け取った絵本をめくって軽く見るとエースはすぐに彼女に絵本を返す。

「それにレオナ先輩と一緒に居る時間ってすごく落ち着くの。いろんな事に詳しいし、私じゃ考え付かない角度から物事を見てることもある。それって先輩が王子様だからとか関係ないでしょ?」

 本を鞄に戻しながら語るメイは笑みを浮かべ、レオナを本当に信頼していることが伝わってくる。
 何故、と自分に向けられている柔らかな感情への疑問を呑み込んだまま耳を傾けていると目の前にゆっくりとラギーが座る。
 状況を察しているのか、物音を立てずに座ったラギーは少し口元を緩ませニヤリとした笑みを浮かべてレオナの前に見飽きたランチセットを差し出した。
 シェフゴーストが作ったそれは遅く来たにも関わらずまだ温かそうだが、冷めてしまう前にと食べ始める気分にはならなかった。まだ彼女からとんでもない爆弾が飛び出してきそうで気が気でない。

「レオナ先輩が本当に私を拒絶しない限りレオナ先輩が学んできたことや感じたことを聞かせて貰えたらいいなぁって……」
「お前めっちゃレオナ先輩のこと好きじゃん」

 ぷふ、と軽く噴き出す音と共に指摘したエースの声は揶揄い交じりに少し弾む。

「……レオナ先輩には内緒ね」

 照れくさそうに笑いながら、くすりと笑みを零して答えたメイの頬が赤く色付いたのはきっと見間違いじゃないだろう。
 見てはいけないものを見た気がした。頭のてっぺんから尻尾の先まで体中がざわめいていく。

「メイー、ちょっといいかー!」
「あ、はーい! ごめん、ちょっと行ってくるね」
「弁当は僕たちが片付けておくよ。お裾分けのお礼をさせてくれ」
「ありがとう!」

 クラスメイトか、出入り口付近から生徒が手を振りメイを呼ぶ。すぐに駆け出した彼女の背中に声をかけたデュースは宣言通り既に空になった入れ物を丁寧に布巾で包みなおす。

「おい、エースも手伝えよ。お前も食ったんだから」
「あー、はいはい、ちょっとたんま。……だ、そーですよ。レオナおじたん!」
「えっ⁉ キングスカラー先輩⁉ い、いつからそこに⁉」

 おい、とエースを小突いていたデュースはニヤリと笑みを浮かべて少し離れた先を見るエースの視線を追ってはガタリと音を立てて驚いた。

「その呼び方はやめろって言っただろ……」

 思った以上に低い声が出る。呼ばれ方が気に喰わなかったのもあるが、この後輩が実に喰えない男だということがよくわかったからだ。

「テメェ、わざと俺の話題を振りやがったな?」
「さぁ、なんのことだか。レオナ先輩が傍に座ったのを指摘しなかっただけ感謝して欲しいんだけどなぁ。気づいてたらあんな言葉引き出せなかった思うんスけど」

 わざとらしく肩を窄めたエースは目を眇めてレオナを見る。
 きっと彼はレオナが来た時点で気づいていたのだろう。隣の未だ驚いて目を丸くしている方はさておき、こちらの後輩は勘がよさそうだ。レオナがわざと声をかけずに耳を澄ませて聞き耳を立てていたことにも気付ているはず。
 へたり、と耳や尻尾が力なく倒れる。後輩達の……メイとのやり取りを盗み聞きしていた理由を聞いてこないのはこの後輩なりの最後の優しさというやつなのだろう。
 もしくは、彼らの大事な友人である少女を多少なり傷つけた自分への罰なのかもしれない。

「……ったく、ラギーも含めて好きなもん奢ってやるから。このことはアイツには黙っとけよ」

 頭を軽く抱えたレオナは深いため息と共にラギーを睨む。
 急に話題を振ったにも関わらず、待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべたハイエナは大層機嫌がよさそうだ。

「毎度ありっす! んじゃあ財布はオレが持ってるから二人……とグリムくんもか。何食いたい?」

 既に平らげた昼飯と財布を片手に立ち上がったラギーは嬉しそうに駆けていく。
 その背を見送るレオナの頭の中ではいまだにエースの指摘に照れくさそうに笑うメイの笑顔が輝いていた。

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