序
「ん……」
ふわふわと柔らかい寝床に身を委ねていた芽唯がうっすらと目を開ける。
暖かな日差しを感じながら身を起こし、体を伸ばしていると乾いた風が吹いて掛け布団がふわりと攫われてしまう。
咄嗟に手を伸ばすが届くことなく掛け布団は下へと落ちてしまった。
身を乗り出して取りに行こうとしたが、ハッと何かを思い出して「レオナ先輩!」と親を呼ぶ子猫のように必死に声を張り上げる。
レオナ先輩、レオナ先輩。
何度か必死に呼べば隣で寝転んで本を読んでいたレオナが起き上がった。
「ようやく起きたのかプリンセス」
芽唯を一瞥すると、落ちてしまった芽唯の掛け布団を指先で拾ったレオナは芽唯の傍に戻して「寝心地は?」と問いかけた。
レオナの問いを受け、先ほどまで自分の身体を包んでいた寝具をぽふぽふと叩いた芽唯はにこりと笑う。
「レオナ先輩が普段使いしてるクッションなんだから最高に決まってるじゃないですか」
「ハッ、そうかよ。俺はクッションの上でハンカチを掛けて寝たことがないから知らなくてな」
肩を竦めて笑ったレオナに、申し訳なさそうに眉根を寄せた芽唯が小さく「ごめんなさい」と呟けば、とても小さな声だったろうに自慢の耳で拾い上げたレオナが「別に、怒ってるわけじゃねぇよ」と返す。
「目の届く場所に居ればそれでいい。元に戻るまでは精々大人しくしてろよ」
「はい、わかってます」
何度もこくこくと頷けばレオナが芽唯の何倍もの大きさがある手を伸ばし、人差し指の腹で慎重に芽唯の頭を撫でる。
「本当だろうな? 俺の小さな小さなお姫様は好奇心が旺盛だから信用できなくて困る」
「ほ、本当ですよ。踏みつぶされそうになるのはもうごめんです……」
「だろうな。俺もあんな肝が冷える思いはこりごりだ」
傷のある方の目を苦々しそうに眇めたレオナは首を横に何度か振ると寝転がる。
普段ならば芽唯もその隣で彼に寄り添うところだが、仕方がないのでクッションの上にそのまま座りこんでレオナを見つめる。
今の芽唯にはクッションから降りることも、レオナの隣に行くのすらもまるで登山をするかのように大変で、下手に近づけば彼に押しつぶされてしまう可能性すらあるからだ。
──俺の小さな小さなお姫様。
レオナの言葉通り芽唯は小さく縮み、わずか数十センチの人形サイズで過ごすことを強いられていた。
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