番外


 無防備な姿で己のベッドの上で寝転がる女にレオナは目元を緩ませた。
 警戒心など持ち合わせていないその様子は、まるで仰向けになり、飼い主に腹を見せ甘える動物のようなもの。
 男として見られていないと肩を落とすべきかもしれないが、ここまでの信頼を勝ち得たという意味では喜びの方が大きかった。
 普段ならきっちりとまとめられた髪も既に解かれ、なめらかな糸のように肩の上を滑り落ちている。
 褐色の掌でその触り心地を楽しんだレオナは口を開く。

「それで、俺の手紙はお前のお気に召したのか?」

 彼女が目を通す便箋に目をやったレオナは、それを掴む指先に力が入るのを見逃さなかった。
 かさりと音を立てながら便箋越しにこちらを見た彼女の頬は薄っすらとに色付いている。

「……意地悪だけど、好きなのは伝わってきました」
「そりゃあよかった」

 意地悪、というのは余計だが……。己の文章に多少なり棘が含まれている自覚はあるので受け流す。

「お前の手紙も途中まではよかったな」

 馬鹿が与えた余計な情報で彼女が混乱さえしなければ、そう思わずにはいられないが、迷走していたところも可愛いと思ってしまうのだから結局はどちらでも構わなかった。

「だっ……」

 だって、という言葉を飲み込んだのか。芽唯の言葉が不自然に途切れた。
かと思えば身を起こし、身体の位置をずらした芽唯はレオナの腕に飛び込むように寝転がる。

「この間も言いましたけど、好きな人に面倒だと思われたくないんです」
「そうかよ」

 臆することなく好きというようになったかと思えば、今度は別のことで頭を悩ませる。まったく忙しないものだ。
 はいはい、ともう解決した話題を笑って流せば芽唯の頬が少し膨らむ。

「やっぱりレオナ先輩って意地悪です」
「褒め言葉として受け取っておいてやる」

 そんなところが好きなのだろう。などと揶揄えば今以上に拗ねられるのはわかりきっている。 
 せっかく誕生日当日は無事彼女を部屋に誘い入れることに成功したのに、逃げられてしまえば目も当てられない。
 帰すつもりなど当然ないが、自ら飛び込んできた獲物を捕らえるようにレオナは彼女を両腕包み込む。
 自然と密着する身体の間で手紙がつぶれる。元々平らだ。ほとんど問題はないだろう。多少変に折れ目が付く可能性はあるが。

「……ちゃんと誕生日プレゼントになりましたか?」
「ん? あー、まぁな」

 新調したばかりの箱が二人の手紙入れになったのは十分な収穫だった。きっと、そう遠くない未来には溢れんばかりに詰め込まれているであろうそれを想像すれば口角は自然と緩む。
 けれど、初めてもらったあの宛名のない手紙の束には勝てないだろう。彼女に見つからないよう、最初の箱に隔離したあれらがやはり一番芽唯の想いが籠っている。
 面倒で、可愛い、レオナだけの愛しい女。
 そんな女との手紙はレオナ以外の人間には無価値なものでしかないだろう。
 それでも彼女と綴る日々は輝いている。
 徒然綴る、日々綴る。
 ありきたりで、退屈な日常がこれほど愛おしいと思える自分がおかしくて笑いが込み上げる。
 随分と平凡な男になったものだ。異世界、王族。普通とは到底言えない自分たちのありのままの普通の日常。
 そんな毎日が綴られた宝の山をこれからも二人で愛でていく。
 来年も、またその翌年も。

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