05


 腕の中で女が指折り何かを数える。
 黙ってその様子を見守れば、視線に気づいた芽唯が振り向いた。

「あの、レオナ先輩とやりたいこといっぱいあるんですけど……」
「言ってみろ」
「手紙もこのまま続けたいし、麓の町でお買い物もしたいし、賢者の島って言うくらいなんだから海もきっとありますよね」

 何を言い出すのかと思えば、どれもささやかな願いで笑ってしまった。ふっと息を吐いたレオナに芽唯が口を窄めたのは言うまでもないだろう。

「ワガママ言って良いって言ったのに……」
「あァ、わるかった。それで? 後は何がしたい」

 何故もうすぐ誕生日な自分が願いを聞き届けているのかはわからないが、惚れた女のワガママを受け止めたいと言ったのはこちらなのだから黙らせる必要はない。
 むしろ、漸く湧き出してきた彼女の本心を止めてしまうなど惜しくて出来ない。

「あとは……あと……。先輩が寝不足なら一緒にお昼寝、とか」
「は?」
「だ、だって寝不足だって……」
「そりゃ連日寮生どもが誕生会の準備でバカ騒ぎしてたら眠りも浅くなるだろ」

 喧嘩だけならすぐに終わる。けれど寮生達は出来もしないのに料理だなんだとレオナの誕生日に向けて着実に準備を進めていた。
 中心に祭り上げられているラギーすら今朝は間抜けな大あくびをかいていたのだ。芽唯に己が寝不足だと告げた寮生も今頃欠伸をかみ殺しておかしくない。
 眠りを妨げられるのは迷惑だが、自分の為にあれやこれやと頑張る姿を見て咎めることなどできはしなかった。

「手紙のせいじゃなかったんですね……」
「あたりまえだ。それこそ、お前とのやりとりのせいだと言えば死ぬほど落ち込むだろ」

「俺がそんなことをすると思うか?」と問うたレオナに芽唯は肩を窄める。

「……思いません」

 この件に関して相当思い悩んでいたのだろう。たかが寝不足と言えど、レオナがどれだけ睡眠時間を大切にしているかを知っている芽唯にとっては息も詰まる思いだったに違ない。
 安堵したのか、力の抜けた体が甘えるようにレオナにすり寄った。

「やっぱり手紙だけじゃダメですね。直接聞かないとホントわからないことばっかり」
「今時手紙ってのが時代遅れなんだよ」

 何をいまさらと息を吐いたレオナは「だが」と付け足し、重なった紙の束をひらひら揺らす。

「それが手紙の醍醐味、だろ」

 会えない時間を手紙で埋めて、行き違ってしまった部分は目と目を見て正していく。
 随分古風な逢瀬だが、口下手な少女と意地の悪い己には丁度いいのかもしれない。
 なにより、こうして形に残る思い出を手に取れることが喜ばしい。

「なァ、お前に送った分も俺が一緒に保管していいか?」
「え、なんでっ」
「片側だけだと話がかみ合わなくなるんだよ。自分が書いた内容なんてそのうち忘れちまうだろうからな」
「レオナ先輩の記憶力なら大丈夫だと思いますけど……」

 せっかく手に入れたレオナの手紙を手放すのが惜しいのだろう。悩む芽唯の視線が右へ左へ彷徨う。

「どうせ俺の部屋に泊まりに来るんだ。読み返したけりゃ、そんとき見ろよ」

 そうすれば芽唯が自分の手紙を読んだ時どんな反応をするのかを直に見られるという考えもあってレオナは「な?」と甘く芽唯に囁いた。

「いい、です……けど」

 ごにょごにょと口の中で言葉を転がした芽唯は納得しきれないが、断りきることも出来ずただ頷いた。

「それに、将来的にはずっと一緒に居ることになるんだ。あんまり気にするほどのことでもないだろ」

 レオナのモノ、芽唯のモノとどれだけ分けたとしても、いつかは同じ屋根の下に収まることになる。それが少し早まるだけのことだ。

「それは、どういう……?」

 意味を理解しきれなかった芽唯がぱちくりと瞬きを繰り返す。
 誤魔化すように「さぁな」と笑ったレオナは二人分の手紙をまとめて自分のポケットへとねじ込んだ。
 誕生日当日、愛しい少女が手紙を読み返すのを穏やかに眺める獅子が居たことを知るのは彼女一人だけだった。

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