終章


 眠そうに目元をこすりながら目覚めたラリスの隣に腰かける。
 キョトンとした顔があまりにも幼くて、思わず笑ってしまうとラリスが唇を尖らせた。

「な、なによ……」
「なんでもないよ」

 愛おしいのだと素直に告げれば彼女はきっと困り果て、朝とは思えない悲鳴を上げてしまうのだろう。

「ラリス」
「なあに?」
「少しだけ」

 そう言って距離を詰める。
 ぴたりと体が触れ合えば、ラリスは首をかしげてジョシュアを見上げた。
 ここで警戒しないのはどうなのだろう。
 これが他の男性だったらきっと体を強張らせるに違いない。
 マダムには散々な言われようだったが、自分たちになかなか進展がないのは彼女のこの無防備さも原因なのではないか。
 誰にぶつけるでもない反論ばかりが脳裏をよぎり、肝心な言葉を伝え忘れる。

「ジョシュア? もう、なんなのよ」
「あ、ちょっと待って」
「だからなあに?」
「傍に」

 慌てて手を握って引き留める。
 隣に座りなおしたラリスはそれでもなお不満そうで、少しでも躊躇えば羽ばたくように逃げてしまうに違いない。

「傍に居てほしい。しばらく君の時間を僕に預けてほしいんだ」

 僕にくれ、なんて強い言葉は使えなかった。
 脳内のイサベルが意気地がないのねと罵ってくる。
 それでもラリスの手を離さないでいれば、瞳を丸くした彼女がぱちぱちと瞬いて言葉を失う。
 やがて困ったように笑ったラリスは小さく首を傾げた。

「なにそれ? 甘えたいってこと?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「だったらほら、ちょっとずれて」

 そう言ってジョシュアの体を押すラリスに従って距離を取る。
 手を離さずにいればくすりと笑われ、彼女の方から逃げてしまう。
 慌てて追いかけようとすれば逃げた手が蝶々のようにひらひらと舞い、ジョシュアの両肩にとまる

「わっ……」

 強い力じゃない。
 なのに逆らえない。
 あっという間に導かれ、ころりと彼女の膝の上に頭が乗る。

(こ、れは……)

 確かな弾力を感じていると視界も香りもすべてがラリスで満たされる。

「珍しく子供たちも騒いでないみたいだし、少しくらいならゆっくりできるんじゃない?」

 柔らかな声が上から降ってくる。
 子守歌を歌う母のように、一定の間隔で叩かれる体や頭を撫でる手が心地よい。

(君には適わないな……)

 イサベルが稼ぎ頭を盗られたと言っていた理由がよくわかる。
 抗いがたい安心感にゆっくりと瞼が重くなる。
 こんなつもりじゃなかったのにと思いながらも、ジョシュアはすべてを諦め目を閉じた。
 そんなジョシュアを見つめたラリスが幸せそうに微笑んでいたことは誰も知ることはない。

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