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「あー、彼女ほしい…」

椅子に座りながら大きい長方形の机の上にだらりと俯せになる。放課後の図書室には図書部員の俺、嶺岸悠人と、

「あはは。そんなに欲しいの?」

俺の右隣に座る、同じ図書部員の幼馴染兼親友の波賀野千の他には誰もいない。


それなりの都市の街中に建つ男女共学で偏差値普通の公立高校には、試験前や試験期間以外にわざわざ図書室に来て本を読んだり勉強したりする真面目な学生はほとんどいない。読書好きな学生もいるにはいるけど、そういう奴らは読みたいものを何冊か借りて行って家だとかお気に入りの喫茶店だとかそんな所で読むんだろう。だからこの学校の図書室は、図書室の管理全般を任せられている図書部の部員たちが下校時刻まで各々自由に過ごすだけの静かな場所となっている。とはいっても、運動部みたいに大会で優勝するぞとかそんな目標も、熱心な練習も必要無い図書部は放課後になったら絶対図書室に来いとかはない。でも、さすがに誰も図書部員が居なくて図書室の扉が開かないとか、本が借りられないなんていう事態は困る人が出てくるから曜日固定の当番制となっている。今日は水曜日。そして、その水曜日の当番が俺と千だ。


「欲しいに決まってるだろ!花の高校生だぞ。青春したい、楽しみたい」

俺は勢いよく上半身を持ち上げ、千がいる右隣へ顔を振り向く。

「んー、恋愛だけが青春じゃないでしょ?」

「お前はモテるから危機感とか無いんだよ!」

高校生になって早3ヵ月。中学生の時の俺は、高校生になったらきっとすぐ可愛い彼女ができて、2人で弁当を食べたり下校したりする甘い学校生活を送れるものだと思っていた。でも、そんなのはただの妄想で、そう簡単に女子から好意は得られないのが現実なのだ。それが普通の男子高校生ならば。

「別にそんなにモテないよ。それにまだ入学してから3ヵ月だよ。そんなに焦らなくても良いんじゃない?」

「そのたった3ヵ月でお前、何人から告白されたんだよ…?」

俺はジト目で千を見る。この男は入学早々に女子たちの視線を掻っ攫い、俺のように高校生活に夢を見ていた同じクラスの男子たちの心を砕いてしまうほどの美形なのだ。入学してからの1ヵ月はクラス、学年問わず色々な女子、果ては男子までもがこの美少年を一目拝もうと俺たちのクラスである1年A組に足を運んでいた。そして、そいつらは決まって目を見開いてから、頬を赤く染めるか、尊いと泣くか、呆然とするかのどれかだった。

「さぁ、覚えてないなぁ」

「くっそー、腹立つわー…」

俺はまた机に俯せになる。

もし俺が千ならそんなに大勢の女子から好意の目で見られて、さらに告白までされたら毎朝スキップで学校に行くほど舞い上がるだろうに。この男は、こんなに甘い青春を求める俺の前で、そんな好意なんかどうでもいいという風に振舞うのだ。ひどい男だ。しかも千はどんなに可愛い女子から告白されても首を縦に振らない。いつも優しく、ごめんね、と言って断るのだ。いつも穏やかで優しいこの男は、人からの好意を集めるだけ集めて決して受け取らず、でもできるだけ傷つけないように突き返す。そうすると、千に気持ちを伝えた子たちはその後も諦めることなく千を想い続けるのだ。

だから、俺は千のその行動が本当に「優しい」のかはわからない。



「じゃあ、ハル?」

千は優しく微笑みながら、俺を呼ぶ。
俺は机に俯せたまま顔だけを千に向ける。

「ハルに恋人ができるまでは僕と一緒にいて?」

「…おう」

この日もいつもと何ら変わらない穏やかな水曜日だった。