おかしな海賊少女

▼シャボンディ(連載IF)リク


 ケイミー達を乗せ、無事シャボンディ諸島についた麦わらの一味は、ウソップとサンジとフランキーは船番、ナミとロビンはショッピング、ゾロは一人で散歩、そしてヒノデを除いた他のメンバーは、コーティング職人を探しに遊園地に向かっていた。
 途中でルフィ達と別れ、は別行動をとったヒノデを待っていたのは、

「見つけたぞ麦わらの一味5500万の首!!」
「逃げてんじゃねェぞ!!」

 いかにもガラの悪い連中に追われていた。
 ここはシャボンディ諸島でも、もっとも治安が悪いと言われている1番から29番グローブの18番グローブである。
 本来なら一人でこのようなところを通るヒノデではなかったが、シャボンディ諸島にある武器専門店で、刀を作るための鉄やその他の材料を手に入れたかったのである。

(誰かに付いて来てもらえばよかった……!!!)

 背後から聞こえてくる怒鳴り声に、ヒノデが泣き言を言い始めた時、地面から出ているマングローブの根に引っかかり、体が前方に崩れ落ち、固い地面に全身を強打する。

「うッ……!!!」

 受け身すらとる暇もなく、地面に全身を強打した痛みに、なかなか立ち上がることは出来ない。
 だが、人攫い屋は待ってくれなどしない、背後こら聞こえてくる下品な声がまじかに迫り、ヒノデが能力を発動しようとした時、

「ROOM」

 と言う声と共に、ヒノデと人攫い屋をドーム状のサークルが取り囲む。
 次に聞こえてきたのは『シャンブルズ』と言う言葉だった。
 その言葉と同時に、ヒノデの視界が一転し、先程目前に迫っていた人攫い達ははるか遠くになっており、逆にフカフカの帽子をかぶった隈の酷い細身の長身の男と、同じデザインのつなぎを着た男達、そしてこれまた色違いのつなぎを着た二本足で立っている白熊が居た。

(白熊……)

 自分の横に立っている白熊を地面に座りながら見つめる。真横に居る白熊に恐怖と、若干の興味を抱くが、それよりも凄いことが先程までヒノデが居た場所で起こっていた。
 横に立っている一人だけラフな格好をしている男の能力だろうか、人攫い屋たちがサークルの中でまるでパズルのように解体され、胴が二個くっ付いていたり、腕の部分に足がくっ付いていたりと、異様な姿をしていた。
 その姿に、ヒノデは呆気にとられ、ポカンと口を開けたまま、間抜けな顔をしてしまう。
 一通り、男たちの体を切り刻み、くっつけた男は再び『シャンブルズ』と告げると、サークルの中に居た男たちが消えていた。
 ヒノデが呆気にとられる中、隈の男は、未だに地面に間抜け面をして座っているヒノデを見下ろす。

「お前、麦わら屋一味の異端の海賊って言われてる女だな」
「え……と、はい……あの」

 誰ですか? と聞こうとしたヒノデだったが、隈の男に遮られてしまう。

「――お前、能力者か……」

 先程転んだ時に出来た膝の傷口部分の血が硬化しているのが見えたのだろう、じっと観察するように自分を見る目の前の男に委縮してしまうが、自分が先ほどからずっと座っている事に気付いたのか、急いで立ち上り、スカートの汚れを払うと、目の前の男に頭を下げる。

「あ、あの、助けて頂きありがとうございます! 私この島に来るの今日が初めてで、その……ありがとうございます……!!」

 しきりに何回も自分に頭を下げ、礼を述べるヒノデに、隈の男は怪訝そうに顰める。

「おれ達も海賊だぞ。礼を言う前に警戒するべきだと思うけどな」
「海賊の方だったんですか……? え、と、そちらの白熊さんも海賊なんですか?」
「そうだよ」
「喋った!」
「熊が喋ってすみません」
「あ、すみません、すみません! あの吃驚しただけで、私の船にも話すトナカイや、ヒトデさんが居ますので」

 打たれ弱い白熊なのか、ヒノデが話した、と言った瞬間、その愛らしい体に影を落とし、酷く落ち込んでしまった。
 目の前のつなぎを着た愛らしい白熊を傷つけてしまったと思い、オロオロするヒノデの姿に、男は表情を更にしかめる、この女に危機感などは無いのかと、『海賊』自分はそう名乗ったのだ。それなのに危機感を覚えるどころか礼を言い、まして自分の仲間の白熊を傷つけたことを詫びている。
 普通の海賊ならば、溢れんばかりの敵意を剥き出しにし、武器を構えるだろう。実際目の前の女のヒップホルスターには素人目に見ても上物だと分かる拳銃と、何と言っても悪魔の実の能力がある。
 その上、目の前の女は、貧弱そうなどこにでもいる町娘にしか見えないが、これでも今現在世界政府を敵に回したイカれた海賊としても有名な麦わらの一味のクルー、しかもその首には5500万ベリーの賞金が懸けられている。
 その上、海賊としては異例中の異例、ALIVEのみと言う待遇だ。興味が湧く。
 男はどうしたものかと考え込むが、いつの間に仲良くなったのか、自分のクルーの白熊と仲良くなっているヒノデを見て、溜息を吐くと、その手に持っていた長刀を鞘から抜き、ヒノデの首筋にその鋭利な切っ先を突き立てた。
 空気ががらっと変わり、辺りに緊張が走る。
 ヒノデもやっと状況が理解できたのか、突きつけられた刀に冷や汗をかくが、自分の武器を構える様子の無いヒノデに、隈の男は再び長いため息を吐くと、ヒノデの首筋に突き立てていた刀を鞘に納めた。

「なんで武器を構えなかった。能力を使うことも出来ただろ」

 普通の海賊ならば、武器を向けられたらそれ相応の反応をするものだ、それなのに武器を構えるどころか、能力すら使おうとしなかったヒノデに、疑問は増すばかりである。何か考えがあるのか? そう勘ぐるが、ヒノデから出てきた言葉は意外と言うより、本当に海賊か? と思ってしまうようなものだった。

「えっと……その、助けてくれた方に、武器を向けることは出来ません……。それに、わざわざ私を殺すために助けるなんてしないでしょうし……だから、えっと、助けてくれた方に武器を向けることは出来ません……!!」

 視線を宙に彷徨わせながらそう告げるヒノデの目に、嘘や偽りはない。予想していた斜め上を行く返答に、隈の男はうっすら口元に笑みを浮かべる。
 今まで様々は海賊を見て、戦ってきたが、武器を向けてこのような反応を返されたのは初めてだ。いくら助けてくれたと言っても、自分達もそしてヒノデも海賊だ、例え自分を助けてくれた人間でも、武器を向けられればそんな事考えず、相手をつぶしに行くだろう……それが海賊の本分だ。
 それをせず、一回気まぐれで助けたものを、『助けてくれたから』などと言う理由で、武器も構えず、能力も使わなかった少女に、麦わらの一味、異端の海賊という事を抜きにしても、興味が益々湧いてくる。
 男は、口元に浮かんだ笑みを消すと、ヒノデに背を向ける。

「行くぞ」

 自分の船のクルーにそう告げ、歩き出した隈の男に、ヒノデは引き留めようと、中途半端に手をだし、声をかける。

「え、あ……!! その……」

 お名前の方を、と声をかけようとしたが、それよりも先に男が振り返り、口を開く。

「ローだ。トラファルガー・ロー」

 その言葉に、ヒノデは笑みを浮かべると、口元にメガホンを作るように手を添える。

「助けて頂きありがとうございます! トラファルガーさん!」

 笑顔で自分に礼を言うヒノデに、口元に笑みを作ると、再びクルーを連れて歩き出す。その後ろでは、白熊基、ベポがヒノデにその大きな体をめい一杯使って、手を振っていた。
 しばらく歩き、ヒノデの姿が見えなくなった頃、クルー達が次々とヒノデについて感想を述べ始める。

「しかし、なんか凄い拍子抜けする子だったな……」
「あれが5500万ベリーの賞金首か……」
「見えないよな。すっごい普通だったぞ、むしろそこら辺の一般人の方が強そうだ」
「てか、さっきからベポは何持ってんだ?」
「ヒノデから貰った」

 ベポの白いフカフカの手には、綺麗な銀紙に包まれた飴玉が五個乗っていた。

「いや、お前まさか食う気じゃないよな?」
「食べるよ」
「いやいや、そこは一応警戒しようぜ! 盛られてる可能性もあるぞ!」
「ヒノデはそんなことしないよ!」
「いや、確かにそんな黒い事しそうな子ではないけどよ……」

 いくら、海賊に見え無さそうな少女でも、一応は海賊だ。そこまで信用することは出来ない。
 だが、執拗に飴玉をベポから回収しようとするクルーに、ベポが必死に手の中の飴玉を守ろうとしていると、ひょいっと、横から伸びてきた手に、飴玉を一つ取られる。

「…………」
「キャプテン……」

 飴玉を一つ奪ったのは、ローだった。クルーはキャプテンからも何か言ってくださいよと言うが、ローは飴玉を数秒見つめると、あろうことか包み紙を取り、その口の中に飴玉を放り込んだのである。
 まさか、自分たちの警戒心が強い船長が、見ず知らずの海賊少女から貰った飴玉を食べるなど言う行動に出るとは思わなかったのか、クルー達は、口々に大丈夫かと聞くが、ローから帰ってきた言葉は、予想外の物だった。

「あめェ……」
「いや、そりゃ飴ですからね。って、大丈夫なんですか船長!!」
「食べていいの!? キャプテン!!」
「毒も盛られてねェし、大丈夫だベポ。つうかあめェ……」

 船長からの許可が下りたベポは嬉しそうに包み紙を取ると、その愛らしい口に飴玉を放り込んだ。
 ローは口の中で転がるレモン味の飴玉の甘さに、先程の少女を思い出す。
 誰がどう見ても弱そうな女、見た目もパッとしない十人並の顔、身体付きも痩せているだけの貧相な幼児体系、無論幼児体型に比例して胸も小さかった。性格も勝気や攻撃的とは無縁の、控え目で争いごとは好まなそうな性格。
 それなのに5500万ベリーの賞金首であり、異例のALIVEのみの手配書、腰に携えられていたのは上物の武器、そして何の能力までかは把握できなかったが、悪魔の実の能力者。
 その上、武器を向けられたにも関わらず、殺気どころか武器すら構えなかった上に、その平凡な容姿には似合わない変に浮世離れした雰囲気。そして、自分の眼を逸らすことなく見据えていた、外見や性格とは裏腹に芯の強い眼差し……無意識のうちに口元に笑みが浮かぶ。

「興味が尽きねェな……」
「なんか言ったキャプテン?」
「いや……」

 あの少女は、どんな物を自分に見せてくれるのだろう、ひとつなぎの大秘宝を目指す以上、必ずまだ出逢うことになる。どこかでまた逢ったときが楽しみだと、ローは口の中の飴玉を噛み砕いたのだった。


END


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