桃に嫉妬

▽ドレスローザ(連載IF)リク


 モモの助君と錦えもんさん、そして海賊同盟を結んだハートの海賊団の船長トラファルガーさんを乗せたサニー号は、次の島、王下七武海の一人ドンキホーテ・ドフラミンゴさんが居るとされている国に向けて船を進めていた。

 その間、私とロビンさんは、研究所に居る間ろくにご飯も食べれず、お風呂にも入れていなかったモモの助君と共に、三人で楽しいバスタイムを満喫していた。
 久しぶりに入ったお風呂にモモの助君はさっぱりしたのか、表情はとても嬉しそうだ。

「モモの助くんスッキリした?」
「うむ、とても良い湯だったぞ」
「それは良かった」

 私の世界で言う昔の言葉を使って話すところも可愛くて、つい口元が緩む。
 きっと可愛いなんて言ったらモモの助君は怒るだろうから、心の中に留めておくけれど。
 チャプンと音を立てる湯銭の淵に凭れ掛かりながら、モモの助君の体を洗うロビンさん達の微笑ましい光景を見ていると、長くお湯に浸かりすぎたせいか、視界がグラッと揺れる。
 
 まずい。逆上せちゃったかもしれない。

 自覚すると、更に頭がクラクラし気持ち悪くなってくる。
 倒れる前に何とかお風呂から出ないと、と思い、湯銭の淵に両手をかける。なんとか、なかなか力が入らない両手を伸ばして、湯気の立つ熱いお湯の中からゆっくりと体を起こした。
 様子のおかしい私に気付いたのか、モモの助君の体を洗う手を一旦止めて、ロビンさんが私の方を振り返る。

「大丈夫ヒノデ? 逆上せちゃったの?」
「はい……、すみません。そうみたいです。だからお先に失礼しますね。ごめんねモモの助君」

 
 お二人に断わりの言葉を入れて、お風呂から出る。
 急激に変わったお風呂場との温度差に、先程の気持ち悪さが蘇るけれど、深く息を吐いて落ち着かせる。 
 よし。
 気持ち悪さも無くなって、湯冷めしない様に濡れた体を拭きとると、寝るとき用の浴衣に着替えて、濡れた髪を軽くバレッタで上の方に纏め、肩が濡れないようにタオルを首にかける。
 髪を乾かすのはロビンさん達がお風呂から出た後にしよう。
 そう決めて、一旦甲板に向かおうと足を進める。ロビンさん達が出たら誰か入るだろうし、もうすぐ出るってことを伝えておかなくちゃ。

 甲板に出ると、全員集まっているのか、四方で話し声が聞こえてくる。
 私も芝生に降りようと階段を下ると、階段の傍で座り込んで休んでいたトラファルガーさんが瞑っていた目を私に向ける。

「風呂に入ってたのか?」
「あ、はい! 色々あって汚れてしまったので」

 寝巻きに着替えた自分の格好を見直して、トラファルガーさんに向き直る。
 流石にお客さんが居るのに、寝巻きは不味かったかな……。
 もう一度自分の格好を見直してると、バレッタで止めていた髪が重力に従って下を向いていた顔に落ちてくる。
 バレッタが取られたのだ。
 そう理解したと同時に、首にかけていたタオルを取られ、グシャグシャと頭――――正確に言えば髪を拭かれる。
 男の人に髪を拭かれると言う経験は小さい頃しかない私にとって、今トラファルガーさんに髪を拭かれていると言う行為は、私の頬を火照らせるには十分だった。

 急いで私の髪を拭いているトラファルガーさんの手首を掴むと、タオルの中から顔を出す。

「い、いきなり何するんですか! 吃驚するから止めてください……!」
「こっちは風邪ひくと思って親切心で拭いてやっただけだ」
「あの、それは嬉しんですけど……、そうじゃなくて……」

 どうトラファルガーさんに今の気持ちを説明していいか分からず、顔をそむけると、片手で頬を挟むように持ち上げられる。

「人と話すときは目を合わせるのが礼儀だと思うが」
「は、はい……」

 尤もな言葉に、大人しく返事をする。

「で、そうじゃなくて何だ」
「いや、その、えっと……、は、恥ずかしいので、やめて下さい……」

 恥ずかしいと言うことを、自分の口で言うのは恥ずかしかったけど、トラファルガーさんは理由を言わないと絶対私の頬から手を離してくれないと思った。

「……相変わらず男慣れしてないな」
「す、すみません…」
「別に謝ることでもねぇだろ」
「それもそうですね……。それで、あの、手の方外して頂きたいんですが……」

 さっきから訴えていることを、もう一度訴えれば、トラファルガーさんは何故か怪し気な笑みを口元に浮かべてる。
 心なしか、距離が近くなっているような……、違う、絶対近くなってる!

 身の危険を感じて、トラファルガーの胸元に両手を添えて、距離を離そうとした時、突然浴衣の襟首部分を引っ張られる。
 後ろに倒れると思い、これから来る痛みに身構えたけど、床の硬い痛みの代わりに感じたのは、少し固いけど、それでも温かみのある物だった。

「さっきから何やってんだ」
「ゾロさん……」
 
 倒れそうになった私を受け止めてくれたのは、さっきまで錦えもんさんとじゃれあっていたゾロさんだった。
 後ろにゾロさんが居たという事は、私の襟首を掴んだのはゾロさんということになる。

「別に白刃屋とおれが何してようとお前には関係ないはずだが」
「別に普通に会話してんなら何の文句もねぇよ。ただ、変なちょっかいを出すのは止めろ」

 目の前でいきなり険悪なムードを出し始めたゾロさん達を止めようと、笑顔を浮かべて止めに入る。

「お二人共落ち着いてください。ゾロさん私は何もされてませんから」

 ね? と言いながら首を傾げると、お二人は睨み合いながらも、一旦喧嘩腰の会話をやめてくれる。
 その様子にホッと一息吐くと、なぜかゾロさんの視線が私を上から下まで見回してることに気付く。
 やっぱりお客さんが居るのにパジャマ代わりの浴衣で出てくるのはマズかったかな……、と不安にかられたけど、ゾロさんが気にしていたのはその事では無かったみたいだ。

「風呂に入ってきたのか?」
「はい、そうですけど……、やっぱり浴衣で出てくるのはあれでしたかね」
「いや、そうじゃなくて。確かロビンと錦えもんの息子が一緒に入ってなかったか?」
 
 どうやらゾロさんが私を見ていたのは、浴衣を着ていることじゃなくて、お風呂に入ってた事だったみたい。

「はい! 三人で入っていたんです。モモの助君も久しぶりのお風呂に喜んでくれたみたいで……、良かったです!」

 さっきまで一緒にお風呂に入ってたモモの助君を思い出して、自然と笑みが零れた。
 だけど、突然力強く掴まれた両肩によって、笑みは直ぐに引っ込んでしまった。

「ちょっと待て。今、錦えもんの息子と一緒に入ったって言ったよな?」
「おれにもそう聞こえたんだが」
「はい。ロビンさん達と一緒に入ったって言いましたけど……」

 と、私が言った瞬間。
 肩を持つ手に余計に力が込められた。

「あ、あの、わたし……、何かしましたか……?」

 あまりにも先程と様子の変わったお二人に、声をかけるけど、何も答えてくれない。
 本当にどうしたんだろう……。

 いつまで経っても私の肩を掴むだけで、何も言葉を発さないお二人に、首を傾げていると、やっと肩を掴んでいる手を離してくれる。
 私の勘違いだったのかな。と思ったのもつかの間、いきなりゾロさんに頭を鷲掴みにされる。

「え、あの?! ゾロさん!!?」
「何で錦えもんの息子と風呂に入ってんだ……」
「え! あの、モモの助君はまだ子供ですし……」
「ガキだろうと、なんだろうと、男には変わりないと思うが」
「あの、トラファルガーさんまで一体何を言っているんですか……?」

 お二人の言っている事が分からず、疑問ばかりが脳内を支配する。
 本当にどうしたんだろう。そう思うけれど、何となく嫌な予感がして口元が引きつる。

「あ、あの、お二人とも何に怒っているんですか……? やっぱり私、何か知らないうちにお二人に何かしてしまいましたか……」

 私の言葉に、お二人は顔を見合わせると、なぜかお風呂場の方に向かって行こうとする。
 お二人の行動に嫌な予感が現実になると思い、急いで両腕を掴む。

「あの、何をするおつもりですか……」

 恐る恐るお二人に聞く。
 それと同時に気付いたのが、なぜかゾロさんもトラファルガーさんも刀の柄に手をかけていると言う事だった。

「ちょっと船内に行ってくるだけだ」
「トイレ借りに船内に入るだけだ」
「ま、待ってください! 絶対違いますよね?!」

 その後、しきりに船内に行こうとするお二人を止めるのは至難の業だった。


END


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