君じゃないと

▼もしもロー寄りだったら…(連載IF)リク


 突然俗にいうトリップをして来た世界は、海賊が『ひとつなぎの大秘宝』を目指し、海に夢や野望を抱いて、仲間と共に海を旅する世界だった。
 勿論海賊なわけなのだから、良い者は一握りしかおらず、そんな世界に突然放り込まれたヒノデを助けてくれたのが、この船長トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団だった。
 勿論最初は、異世界から来たなどと言う、一般人から見たら気が触れていると思われているような話、信じてはもらえなかったが、元の世界から持ってきた持ち物のおかげか、なんとか信じてもらえたのは良かったのだが、異世界から来たという事を、ハートの海賊団船長ローに気に入られ、半ば無理やりな形で旅を続ける形になったヒノデだったが、旅を続ける中で、不器用にも自分を気にかけ、守ってくれつづけたローに、恋愛感情を持つのは至極当然だったのかもしれない。
 だが、それはローも同じであり、最初は異世界から来た女と言うのを、物珍しさで乗船させたが、控えめで押しに弱いのに、芯は強く、本人は守ってもらってるばかりだと思っているが、そんなことは決してなく、戦闘になったら自分の身は自分で守れるよう程度には強い。
 守られるだけじゃない女。
 そんな二人が惹かれ、付き合い始めたのは時間の問題だった。

「ヒノデ〜!! キャプテンが呼んでるよ」

 海底から姿を現したハートの海賊団の潜水艦の甲板で全員分の布団を何日かぶりに洗濯し、干していたヒノデにベポが声をかける。
 どうやらローがヒノデの事を呼んでいるらしく、洗濯物を干している甲板まで呼びに来てくれたらしい。

「分かった! ありがとうベポちゃん!」
「うん、キャプテンなんかイライラしてたから早く行った方が良いよ」

 ベポの悪魔の囁きとも言える最後の言葉に、ヒノデの背中に汗がつたう。それは決して夏島の気候に入ったから暑くて汗が出たと言うわけではなく、これから向かうであろう船長室で待っている人物に会うという事に、寒気で汗が吹き出してしまった。
 付き合い始めて分かったのは、意外にも自分達の船長……ヒノデからすれば恋人だが、ローは独占欲が強いらしい。船員ならまだマシな方だが、その他の男、特に他の海賊団に所属する男と話すだけで、不機嫌になる。
 愛されていると言えば、聞こえは良いがやられている側からしたら、恐怖物である。
 これから起こるであろうことに、恐怖を覚えつつ、誰か一緒に付いて来てくれないかと、甲板を見回したが、誰だって面倒事……ましてや船長の色恋沙汰に巻き込まれるなどと言う自殺行為はしたくないのだろう、全員が打ち合わせでもしたかのようにヒノデから視線を外す。最後の頼みの綱、ベポに視線を向けても、他の船員と同じく、目を逸らされた。
 これはもう一人で行くしかないのか、覚悟を決めると、一歩一歩船長室へと足を進めた。
 重たい体を引きずるようにして到着した船長室の扉は、普段はただの木の扉にしか見えないのだが、今日は地獄へ続く恐怖の扉にしか見えなかった。
 意を決し、ヒノデが扉を開けようとする前に、内側……つまり部屋の中側から開けられてしまう。ヒノデから見れば引き戸なので、ぶつかりそうになるのをなんとか避ける。

「入れ」
「はい……」

 部屋から顔を出したのは、言わずもがなこの船の船長であり、ヒノデが今から入る部屋の絶対的な権力者ローである。
 表情に不機嫌さは出ていないが、たった三つの単語と、雰囲気からは不機嫌さがバシバシ伝わってくる。どうせなら表情で不機嫌さを表してくれた方が楽なのにとも考えるが、だが、やはりそれはそれで怖いと思ってしまう。
 恐る恐る入った船長室は、必要最低限の机、ベッド、本棚等シンプルな部屋である。本棚にはヒノデが読んでも理解できないであろう医学の本が隙間なく陳列している。
 ローはヒノデが部屋に入ったことを確認すると、顎で扉を閉めろと命令したあと、自分も座っているベッドに座れとでも言うように、ポンポンと自分の横を叩く。
 行動だけ見れば優しいが、雰囲気が雰囲気なので悪魔の誘いにしか見えない。恐る恐るローに近づき隣に座ろうとした矢先、突然右腕を引かれ、ローの方に倒れ込んでしまう。
 鈍い痛みに目を開けると、最初に目に飛び込んできたのは、自分を見下ろすローの姿だった。ヒノデは所謂ローに膝枕されている状態だった。膝枕と言っても、やはりローの不機嫌さを見る限り、甘い雰囲気は皆無なのだが……。

「おれが何で不機嫌か分かるか?」
「えっと……あの、すみません……」
「おれは謝罪の言葉が聞きたいんじゃねェ、なんで不機嫌分かるかって聞いてんだ」
「…………」

 ローの言葉に、返す答えが分からないのか、ヒノデは黙ってしまう。その様子を見て、ローは溜息を吐くとバツが悪そうにそっぽを向く。

「――今日、洗濯板で洗濯している時、誰と何してた」
「お洗濯している時ですか……?」
「そうだよ」

 不機嫌さを一切隠しもせずそう告げられた言葉に、ヒノデは今朝の事を思い出し、ハッと表情を変える。
 今朝は思いのほか寒く、水で洗うのが厳しかったのだ。その時同じクルーのペンギンが洗濯を手伝ってくれたのだが、それの何がいけなかったのだろうか。

「あの、ペンギンさんと話してました……」
「知ってる。それは別にいい。その時何された」
「なにって……お洗濯を手伝ってくれた……ですか?」

 自分の予想していた問いとは違う答えに、ローは舌打ちをうつ。ヒノデとしては流石にずっとローの膝の上に寝ていると言うのは、心臓に悪い。
 起き上りたいのは山々なのだが、ローの雰囲気がそれを許さない。

「――頭撫でられて、嬉しがってたじゃねェか……」

 その言葉に、ヒノデは、あっと声を漏らす。
 ローが言った通り、ペンギンには頭を撫でられた。それと同時に嬉しそうな顔をしたのも事実だ。だが。それには理由があった。
 だが、その理由を言うのは、若干気が引けると言うより、とても恥ずかしい。
 自分の言ったことに対して、顔を真っ赤にさせたヒノデを見て、ローの表情は相変わらず無表情だったが、先程までとは違い不機嫌なオーラは消えたが、寂しそうにも見えた。
 ローは、ヒノデの頭を自分の膝から退かし、立ち上がると、ヒノデに何も告げずに、部屋から立ち去ろうとする。
 その姿にローに膝の上から起こされたヒノデは、急いで声をかける。

「ローさん! あの、何か私しましたか……? 教えてくれないと分からないです……」

 今にも泣きだしてしまいそうなほど、眉を八の字に下げ不安げなヒノデを一瞥すると、ローは淡々と語り出す。

「お前はおれといるより、ベポ達といる方が楽しそうだな」
「え……」

 突然告げられた予想外の言葉に、ヒノデは先程の意味とは違い戸惑ってしまう。だが、それでも尚ローは続ける。

「おれと居るときは、いつも表情が強張ってる。頭撫でても下向くし、声をかけたら怖がる。――船長が言ったからおれと付き合ってんのか? それとも同情か、恩か? 付き合い切れねェ」
「あ、ちが、待って……!!」

 そう言い残すと、部屋を立ち去ろうと、ドアノブに手をかけたローの背中にヒノデが抱き着く。腰に腕はまわしてはいないが、背中の服を両手で持たれているので、動けない。
 そんなヒノデを見ても、ローの表情は変わらない。
 止めろ。とローが言おうとした時、その言葉に被せるようにヒノデが口を開く。

「船長が言ったからとか、同情とか恩で付き合うことなんてしません……。ローさんだからローさんだから付き合いたいと思ったんです……」
「……じゃあ、何で怯えてんだよ」
「――怯えてなんかいません……!」

 その言葉にローはようやくヒノデの方を振り返る。
 ローが自分の方を振り返ったことにでヒノデは、掴んでいたローの服を離す。
 振り返った先に居たヒノデの表情は真っ赤に染まっていた。ヒノデは何かに耐えるように、スカートの裾を両手で握り締めると、少しずつ話し始める。

「――――怯えてなんかいないです……。ただ、その、恥ずかしいだけです……男の人と付き合うのも初めてですし、それに好きな人……ローさんだから余計に恥ずかしいんです……。ペンギンさんに撫でられたときに恥ずかしがったのは、ローさんとの事をからかわれたからです! 私が好きなのはローさんなんです……! ローさんじゃなきゃ嫌なんです」

 余程恥ずかしいのか、湯気でも出てしまうのではないかと言うくらい真っ赤なヒノデの姿を見て、ローはフッと吹き出してしまう。
 その姿に、ヒノデは赤い顔をそのままに、抗議をし始める。

「な、なんで笑うんですか……」
「いや、そうか、恥ずかしいからか……そうか……」
「あ、あのローさん……?」

 ニヤニヤと何かを企んでいるかのような、いや、実際企んでいるのだろうローの笑みに、ヒノデは少しずつ後ずさるが、壁に配列されている本棚にぶつかってしまう。すぐに横に逃げようとするが、それを許さないかのように、ローの両腕がヒノデの顔の横にドンっという音を立てて置かれる。

「おれじゃなきゃ嫌か……?」

 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら聞いてくるローに、うっ……、と言葉を詰まらせるヒノデだったが、数秒辺りを見回すと、目の前に居るローの胸の中に飛び込む。

「嫌です。ローさんじゃないとダメなんです……!」
「そうか」

 自分の胸に顔を埋めるようにして赤い顔を隠しているつもりなんだろうが、髪の隙間から見える真っ赤な耳は隠しきれていない。
 その姿に、ローは満足気に表情を変えると、ヒノデの背中と膝裏に手を回すと、抱き上げる。
 いきなり抱き上げられたことに、え?え?とヒノデは疑問符を浮かべるが、降ろされたと言うより、投げられた場所を見て、すぐさま逃げ出そうとするが、覆いかぶさるようにベッドの上に上がってきたローに、逃げることは叶わなかった。

「じゃあ、その気持ち体で伝えてくれないとな」
「え、いや、あの……わたし……」
「今更待ったは無しだ。大体男の部屋、ましてや恋人の部屋に入って何も無く終わるわけないだろ」

 怪しげな笑みをう浮かべるローに、ヒノデの表情が青くなったのは言うまでもなく、次の日からローのスキンシップと言う名の、からかいが増えたのは言うまでもなかった。


End


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