ぐすぐすと鼻水をすする音が腕の中からきこえる。時間はこれから寝ようとするすこし前だ。明日、彼女は病院で検査がある。いつもは頑張って臨んでいるけれど、今日はなんだか気持ちの調子が悪いようだった。
行きたくないよ、くるしいもん。がんばり屋のこの人がめずらしく弱音を吐いた。どうも検査の内容が、水をたくさん飲んで膀胱に溜めるものを溜めて、おなかのエコーをとるもので。
そんなことを何故僕が知っているのかといえば、彼女の病院に何度か付き添ったことがあるからだ。彼女の胃は小さめなので、水ばかり飲むと気分が悪くなるという。
「がんばりたいんだよ」
か細い声でそう言った。
「悠真だって頑張って病気とたたかってるから、私だってがんばりたい」
ぐすぐすと鼻水をすすり、ぽろぽろ溢れ出る涙を拭いながら彼女は言う。
前を向きたい。がんばりたい。僕の存在を勇気にしてくれるのは、正直いってめちゃくちゃうれしい。うれしいんだけど。
「がんばれない日があったっていいんだよ。しんどい検査だもん。つらいよ〜ってなるのは自然なことじゃん」
僕がそう言って撫でると、彼女は瞳をゆがめていっそう泣き出した。ずっとどこかで気を張っていたんだろうと思う。自分の病気にうまく折り合いをつけてる僕とは少し違って、この人はどこまでもまっすぐだ。まぶしいくらいに。
「仕事があるから検査には今回ついていけないけど、終わったら迎えに行くよ。そんで綾をぎゅってする。」
「いいの?」
「いいんだよ。たくさん苦い思いした綾には、あまいのが必要なんだから」
あまい安心が必要だ、と僕は思う。
お昼時に終わるだろうから病院近くのカフェでごはんをして、彼女を家に帰して、僕は仕事に戻って、検査で疲れてるだろうから今日の夕飯は僕が担当だ。
最近この人は食欲がないから、消化の良いものをつくろうと彼女を抱き締めて思う。
すこし涙がおさまった彼女に入眠剤を飲ませて、僕も寝る前に飲む薬を飲んで。ぼんやりとした間接照明がついた部屋で抱き締めあって明日を待つ。
ねむれても、ねむれなくても、朝はくる。
彼女の大丈夫になれているといい。ふわりとした眠気に包まれながら、僕は祈った。