「シエル アンタ、人の話を聞いてるのかしら?」

目の前の黒き竜の魔女は私を「シエル」と呼ぶときがある。
私の名前はシエルでは無く“天音”である。
一応、純日本人であり、国籍も日本国であるので外国人では無く、名前も二つある訳では無い。
確かに、その名をサーヴァントの方々が口にする事は少ないが職員の方々や他のマスターさん達は私を名前で呼んでくれているので…マリーさんの次に何故か一緒に居ることが多い竜の魔女…私を今、悩ませている原因であるジャンヌ・オルタさんは私の名前を知って…いる…はず…で、ある?…もしかしたら…知らないと云うか…興味が無い可能性の方が高いもしれない。

「シエル」

再び、彼女は自分で勝手に落ち込み始めた私を呼んだ。何度も云うが私の名前は「シエル」では無い。

「ジャンヌ・オルタさん 何故、私を“シエル”と呼ぶのですか?」

つい、無意識に口からそんな質問が出てしまった。
これでは、ジャンヌ・オルタさんの話を聞いてなかったのが丸わかりである。もしかしたら怒られてしまうかも知れないと思いつつ、もう口から出てしまった言葉を引っ込める事は出来ず、そのまま『前から気になっていたんです』と尋ねると目の前の竜の魔女は、はぁ?っと飽きれた様な表情を見せた後、少し私から視線を逸らし彼女は、ゆっくりと唇を開いた。

「竜は天がなければ自由に飛べないからよ」

彼女の言葉に私は意味が分からず、首を傾げた。
てん、点?店?疑問を解決する為に尋ねたのに更に倍になって返って来てしまった疑問に私が再び頭を悩ませ、訳が分からず首を傾げているとその私の表情を見て目の前の黒き竜の魔女は何処か満足そうに意地悪な笑みを浮かべていた。

「えぇ、悩みなさい。悩んで悩みまくって最後は私に答えを教えてと縋るが良いわ」

彼女は心底、楽しそうな表情を浮かべていた。

シエルとはフランス語で天(てん)、空のこと
天音と云うマスター(空)が無いと自由にジャンヌ・オルタは(竜)は飛べない