少女は一人涙を流していた。
薄暗い林の中、傷だらけの自身と同じく傷だらけで横たわる妹の手を握る事しか出来なかった。
少女の名は芥川ふみ
ふみは貧民街の路上をねぐらとする、孤児達の一人であった。ふみには双子の兄と妹がいた。
目に入れても痛くない程、可愛がっている自身の妹である銀、そして双子の兄である龍之介であった。
龍之介は、ふみと双子でありながらも殆ど感情の見せない子であり仲間である同年代の子達からは【感情を持たぬ子】であると言われていたがふみにとっては大事な家族で片割れであった。 そして、その他に八人程の同じ境遇の仲間と共にこの酷く薄暗く汚れた貧民街で生きてきた。
片割れである龍之介には心を持たぬ代わりに不思議な力があり、双子故になのか妹であるふみにも不思議な力があった。
龍之介は自身が身に付けた衣服を自在に変形させる事ができ、妹であるふみは不思議な力で糸を生み出しそれを自由に操る事が出来た。
だが、そんな力を持ってしてもある日突然にして同じ境遇の仲間を失ったのだ。
それは不運にもふみ達の仲間が西から流れ着いた無法者どもとポートマフィアと荷の取引をする日時と場所を偶然にも知ってしまった事から始まった。
露見を恐れた無法者達は口封じの為にふみ達の寝ぐらを襲ったのだが、妹・銀の助力のお陰で逃げ出した龍之介とふみも手傷を負ったがふみの傷は軽い物であった為、大事には至らなかったが片割れである龍之介は本来であれば一月も安静を要する重傷であったにも関わらず、仲間内の掟と始めて得た“憎悪”と言う感情の為に走り去ってしまった龍之介にふみは置いて行かれた悲しさと苦しさに胸が張り裂けそうになった。
幼い銀が去り行く龍之介の姿を見て小さく「いかないで…」と呟いた言葉にふみは、唯、妹の手をぎゅっと握りしめて「大丈夫…大丈夫」とまるで自分に言い聞かせる様に呟く事しか出来なかった。
———そんな時であった。
薄暗い林の中、草を踏む足音が聞こえたふみは素早く銀を守る様に自身の背に隠すと近付いてくる足音の方へと睨みつける様に視線を向けた。
「あれ…?」
突如として聞こえた青年の声にふみは更に険しい顔になった。
木々の向こうから近付いて来た人物は細身の体に黒い外套、蓬髪に巻かれた白い包帯が印象的な青年であった。
「君は…“ふみちゃん”?」
ふみの姿を見て驚いた様に目を見開き、そう呟いた青年にふみは何も言わないまま睨みつけるだけであった。青年は直ぐに驚いた様な表情からふみ達を警戒させない様になのかニッコリと笑みを見せると「初めまして」と挨拶をし始めた。
だが、ふみは警戒心を解く事は無く、背後にいる銀の手を握る手に力を込めた。
「そう、怖い顔をしないでくれ給え。可愛らしい顔が台無しだよ?」
「血の匂いがする。後、火薬…死を纏った匂いだ」
“貴様は裏の人間だな”
そう言ったふみに青年は笑うと「凄いね、当たっているよ」と言った。
「私達の同胞を消した奴等の仲間が何用だ」
ふみが目の前の青年を睨みつけながら問い掛けると青年は冷たい目をしながら「あんな馬鹿で無能な奴等と一緒にしないで頂きたいね」と言い放った。
「まぁ、其れは置いておいて。私が来た理由は、ただ一つ…——君達をポートマフィアに歓迎したい——」
ひと呼吸を置いてそう言った青年にふみと銀は、その大きな瞳が溢れそうな程、大きく目を見開いた。
——この人は何を言っているのだろうか——
ふみは青年の言葉に腹の底から怒りが沸き立つのが分かった。
——貴様らの所為で我が同胞達は…大切な家族は…龍之介と銀以外を残して死んだのだ‼︎——
腑が煮え繰り返る程の怒りと憎悪がふみの脳を支配し、この青年目掛けて自身の力を放ち吊るし上げ四肢を引き千切ってやりたいと思った。だが、人を殺める事はいけない事だと理解している。その為、ふみは歯を食いしばり我慢する事しか出来なかった。
「……君は利口だ。今、君の脳は怒りに支配されている事だろう。
其れなのに歯を食いしばり無駄な殺しはしないその姿に…彼を思い出すよ」
ふみの姿を見て少し悲しげな瞳をした青年にふみは何も言わず、背後にいる妹の手を握る事しか出来なかった。
——それは、四年半前の出来事であった——
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