探偵社の入居している雑居ビルの一階・喫茶うずまきにて谷崎ナオミは兄である谷崎潤一郎が困り果てている中、和かに笑っていた。
 目の前でつい先程探偵社入社試験に合格した新人・芥川龍之介の双子の妹である芥川ふみが作業の様に黙々と汁粉を食べ続ける姿に笑みを浮かべていたのだ。
 黙々と食べ続けるふみの頬は大きく膨らみ、さながら小動物の様に見える。時折、隣に座る双子の兄・龍之介が空になった容器を片して行く姿に無意識に笑みが溢れ、兄である谷崎潤一郎が龍之介と話す中、ナオミはふみの口に付いた汁粉の食べカスに気がつくと「ふみさん、お口の横に食べカスが付いていますわ」と声をかけるとふみは「ん?」と声を上げた後、少し恥ずかしそうに口元をおしぼりで拭った。

「良く、お召し上がりになられますわね、とても心地いい食べっぷりですわ‼︎」

“幸せそうに食べるものですから見てるこっちも幸せな気分になりますわ‼︎”

 そう言ってにっこりと笑うナオミにふみは目をキョトンとさせると少し伏し目がちに話し始めた。

「異能を使うと大量のカロリーを消費し腹が減る。故に異能使用後は大量に食べなければ成らぬ。
貧民街に居た頃は…食べる事さえ簡単に出来なかったからな」

 そう言いながら龍之介が店員を呼び止め、汁粉と焙じ茶を頼むついでに「汁粉、五杯追加で」と頼むと龍之介に「体を壊すぞ」と言われたふみであったが無視をした。そんな、ふみにナオミは仲良しな双子だなっと思いながらも隣で国木田と視線を交わす兄に一瞬視線を向けると再び目の前にいるふみに視線を向けた。
 
 新人・芥川龍之介とふみは武装探偵社員である織田作之助に川べりで餓死寸前だった所を拾われた孤児である。
 その為、探偵社員達は双子の素性をほとんど知らない。何故餓死仕掛けていたのか理由も分からず、唯、分かるのは二人が凄腕の異能者である事と何か人探しの為に探偵社入社の誘いを受けたと云う話でだけであった。そんな事を思いながらも目の前で更に汁粉を追加して食べ続けるふみにナオミは歳上なのに愛らしい方だと思いながら目の前のふみを見つめていると喫茶店の入口が開き、男が入って来た。
 谷崎と国木田がその男に挨拶する中、ふみは気にする事なく黙々と食べ続けていると隣に居た龍之介に頭を叩かれてやっと食べる手を止めて不機嫌そうに男の方へと視線を向けた。谷崎が国木田と話す男・武装探偵社員である織田作之助の会話に苦笑いしながらも双子に言った。

「えっと…芥川さん達も、もう知っていると思うけど一応紹介するよ。こちら織田作之助さん。二年前に入社した探偵社で今日から君達を指導する先輩だよ」

 芥川双子は谷崎の言葉に素直に挨拶すると織田は龍之介に「きちんと食べているか」と問い掛け、龍之介は縦に頷いた。
 織田は静かにその言葉に頷き、龍之介の隣に居たふみの頭をぽんっと撫でると「お前は聞かなくても良いみたいだな」とふみの目の前に積まれた大量の汁粉の器に視線を向け、優しく唇を緩ませた。
 その事に少し頬を赤く染めるふみに龍之介はムッとした様な表情を見せるとふみの頭を撫でる織田の手を払い落とし、ふみの頭をそのままわしわしと撫でた。

「龍之介、髪がぐちゃぐちゃになる。止めよ」
「黙れ。大人しくしていろ」

 綺麗な黒髪をハーフアップしていた髪をぐちゃぐちゃにされた事にふみは嫌そうな顔をしながらも手を止めない片割れに溜息を吐き、目の前の汁粉に再び口を付けた。
 龍之介は満足そうな表情を見せると頭を撫でる手を止め、咖哩を食べている織田へと攻撃を仕掛けるのをふみはチラリと横目で見ていた。

「殺したい相手が二人いるそうだ」

 織田の言葉にふみはドキリと心臓が高鳴った。

 その言葉を聞いただけでふみは食べていた汁粉の甘さが一気に無くなった様に感じられ、ふみの心には重い何かがずしりとのし掛かった様に感じられた。
 それでもそんな感情を悟られない様に残りの汁粉を口の中へと掻き込むと器を置き、両手を合わせて「ご馳走さまでした」と挨拶をした。

 そして、何処か違う世界にいる様な気分で隣で険しい顔をしながら片割れが語る、自身達の生き別れの妹と【黒衣の男】の話をしているのを聞いていた。

——ごめんなさい——

 ふみが心の中で呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。