あらいぐまとたぬきの話3
任務もない、鍛錬も終えた。何もすることがない時間を潰すかの様に蝶屋敷の縁側に腰掛け、青い空を見上げていた栗花落カナヲは突然、自身の膝の上に感じた小さな重さと温かな温もりに驚いた様に目を見開いた。
藤の花を思わせるかの様な瞳は瞬時に自身の膝の上へと向けられる。すると其処には、いつの間にか小さな毛玉がカナヲに背を向ける様にして膝の上にお行儀良く座っていたのである。
ぴこぴこと揺れる三角の耳とふりふりと小刻みに揺れる整えられた毛並みの尻尾の持ち主は背後のカナヲを見上げるかの様にチラリと紅い瞳を向けると「あーぅ」とひと泣きした。
この毛玉の正体は、子どものあらいぐまである。しかし、何故かこのあらいぐまはカナヲの友人である壱師紅の姿に酷似していたのである。何処からきたのかはわからない。だが、いつの間にか、炭治郎が拾ってきた挙句、炭治郎が不在の日は蝶屋敷で面倒を見ることになった狸のぽんじろう(こちらは何故か炭治郎に似ている)と共に過ごしている姿を何度かカナヲは目撃していたのである。
紅に似た子どものあらいぐま。通称・ぐまべには紅本人に似て、マイペースなのである。しかも、此処も本人に似てしまったのか中々の影の薄さである。姿が見えないと思えばいつの間にか、自分達の背後をちょこちょことついて回っていたり、背中にへばりつかれていたりすることもある。
中でもよくあるのが、今のカナヲの様に突然、膝の上にぐまべにが座っていると云う光景である。ぐまべには如何やら、人の膝の上に座るのが好きらしく、足を投げ出したりして座っていると高確率で気づいたら、ぐまべにが座っていることが多いのだ。暴れたりなどはしない。唯、大人しくご機嫌さんにお座りしてるのである。
今もぴこぴこと動く耳とふりふりと揺れる尻尾がぐまべにのご機嫌を表している。
カナヲは友人である紅と過ごす時間が好きだ。
お互いに言葉を必要としなくても良い空気感にカナヲは蝶屋敷にいる家族とは、また違う心地良さを感じるのである。
だからなのか、カナヲは突然の膝の重みには驚きはしたが、ぐまべにのことを嫌だとは感じなかったのだ。寧ろ、静かに見上げてくるあの子と同じ紅い瞳に安心感が芽生えた気がしたのだ。
そんなカナヲの感情をまだ幼い子あらいぐまは、どの様に感じ取ったかは分からない。だが、何処か嬉しそうに尻尾を振るとカナヲの片手の人差し指を自身の小さな紅葉の手で優しく握った。
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