あらいぐまとたぬきの話4

 紅に似たあらいぐま、通称・ぐまべにを魅了して止まない、ふわふわ尻尾の持ち主である、炭治郎に似た狸・通称ぽんじろうの朝は早い。
 任務がない日の炭治郎は夜が明ける頃に目を覚ます為、ぽんじろうも同じ様に目を覚ます。そして寝間着から自身の服へと着替えると朝食の時間迄の間、ぽんじろうにとっての大切な時間が始まる。
 炭治郎が中庭で竹刀を持ち、素振りをするのを横目にぽんじろうは日が登り始めた縁側にぽふんっと座り、自身の自慢であるふわふわ尻尾を自身の小さな身体を包み込むかの様にして前に持っていくと何処からとも無く、櫛を取り出した。そしてあまり上手とは言えない鼻歌をご機嫌に歌いながら、ふわふわ尻尾の毛並みを小さな紅葉の様な手で櫛を使い、梳くように整えていく。

 自慢のふわふわ尻尾は、ぽんじろうの想い人である、子あらいぐまのあの子が毎回魅了されている。ふりふりと揺れる度にあの子の紅い瞳も動く。時には鷲掴みにされた挙句、小さな口でかぷりとされてしまうその尻尾は、ぽんじろうの頑張りにより保たれているものでもあった。
 自分達は、まだ幼く身体が小さい。疲れると尻尾を引き摺って歩いてしまい、ふわふわの毛に埃や塵、外で遊んだ時には葉っぱや花びらなどが絡んでしまう時がある。そんな異物を何でも口に入れてしまう可愛いあの子の口に入れる訳にはいかないのである。だから、ぽんじろうは必死に毛並みを整える。

 全ては可愛いあの子の為、ぽんじろうは朝早くから頑張るのである。

 今日もきっと、可愛いあのこは此処にやって来る。
 音も匂いも気配も無く、ぽんじろうの背後から忍び寄り、ふりふりと揺れるふわふわ尻尾に魅了されるのだ。

——そして、きっと今日も…

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
「!?!?あ、またやったのか!?」
「あーうぅ」
「こら!!ぐまべに、ぺっ!!ぺっしなさい!!」

 ふわふわの尻尾に一部だけ、べっちょりとあのこがかぶりついた印が残るのである。