※極パロで成人設定炭治郎 高校生紅(暗殺者)
ちょいとグロ?表現あり。
イチャイチャしてません。

 産屋敷一門

 裏では知らない人は居ない程、名の知れた権力を持った極道の一門である。
 その産屋敷一門には煉獄会・鱗滝組…桑島組などと様々な一門が傘下に入っている。裏家業と言いながらも堅気の人間には絶対に手を出す事無く、また、同じ裏家業の世界の人間が堅気に手を出そうものなら其れを制裁する程の優しき心を持った者が多い珍しい一門であった。
 それ故になのか警察などから特に目を付けられる事も無く、反社会勢力ながらも静かな日々を過ごせていた。

 そんな産屋敷一門の傘下のひとつである鱗滝組は長である鱗滝左近次を始め、鱗滝錆兎・鱗滝真菰・冨岡義勇・竈門炭治郎・竈門禰豆子が所属しており、一門毎に其々、屋敷が与えられ皆が其処で生活を送っていた。
 平屋造の大きな鱗滝組の屋敷につい最近、とある黒髪の少女が長である鱗滝に連れられやって来たのである。
 黒髪の少女は黒色のセーラー服を纏っている事からまだ、学生であることが伺え、既に鱗滝組の組員達は皆成人済みであるため、何だか制服を纏う少女の姿がその屋敷内では浮いているように感じられた。

 鱗滝は屋敷に居た皆を呼び、黒髪の少女は己の知り合いの子でこの春から高校に入学するのだが家から高校までが遠く、なら、この屋敷から通えば良いのではないかと提案したのだと言う。

 少女の保護者も少女も其れを承知した為、今日からこの屋敷に住む事になったと静かな声色で説明し終えた鱗滝に「なら、屋敷内を案内するね」と真菰は少女に微笑み、禰豆子は「なら、私は空いてる部屋の掃除とお布団出して来ますね!」と禰豆子と真菰は表情を変えない黒髪の少女の手を引き、その場を後にした。

 その背中を見送った錆兎と義勇と炭治郎は鱗滝へと向き直り、錆兎は静かに眉を寄せながら口を開いた。
 錆兎の口から出た言葉は「あの子は堅気の様に見えますが、この屋敷を出入りさせて大丈夫なんですか?」と少女の存在について鱗滝に尋ねるものであり、炭治郎と義勇も気になっていた疑問だった。
 幾ら産屋敷一門は平和主義を掲げてるとは云え、反社会勢力である事に変わりは無い。昔に比べて争いなどは少ないが矢張り、一般人からすれば安全とは言えない世界である。
 そんな裏社会に足を突っ込んでいる家で一般人を預かるなど…危険極まりないと錆兎や義勇、炭治郎達は思っていた。だが、師であり鱗滝組の組長である鱗滝は「あの子なら大丈夫だ」と言うばかりであった。


 その黒髪の一般人の少女は壱師 紅と名乗った。
 少女が屋敷に住み出して二週間が過ぎた頃、少女はすっかり真菰と炭治郎の妹である禰豆子と仲良くなっていた。元々、鱗滝組は男の組員が殆どで女性組員は少なかった事も重なってか真菰や禰豆子は妹が出来たようで嬉しかったようだ。
 よく、あの子の髪を弄ってる禰豆子と真菰の姿を見かけるぞっと錆兎は酒を飲みながら横に居た炭治郎に言うが炭治郎は特に気にした様子も無く「へぇ、そうなんですか」と自身のグラスに入った酒を飲み干した。
 錆兎も義勇も特に紅に対して興味を持っておらず、炭治郎もその中の一人であった。
 何だか影の薄い紅に対して特にこれと言った特別な感情など湧かなかったのだ。

 そんな事を思っていたある日、炭治郎の考えが変わる出来事があった。

 其れは、小さな出来事だった。

 仕事柄、敵対勢力に関する情報収集の為に女性と一夜を共にしたりする事もある。
 この日は炭治郎が有力な情報を持ってそうな女性の情報を頭に記憶し女性の行きつけと言うBARへと足を運んだ。
 一人、酒を飲みながらBARカウンターに座るターゲットの女性に近づき、言葉巧みに女性を口説き落とし、まだ帰りたくないなどと言う女性に「俺もまだ、貴女を離したくないな」などと作り笑い浮かべながら女性の肩を抱き、ホテル街を歩いていた時だった。

 女性に話しかけながら炭治郎は視界の片隅に見覚えのある姿が見え、不意に炭治郎は女性から目を逸らし前を向くと其処には鱗滝組の屋敷で預かっている少女・紅の姿があった。

 紅は何時ものように黒色のセーラー服を纏っているが其の黒色のセーラー服の上には紅い暗褐色のフード付きパーカーを羽織っており、両手をパーカーのポケットに入れ、右肩には通学用鞄が掛けながらローファーの踵をこつんこつんと鳴らしながら炭治郎達の前から歩いてくるではないか。

 炭治郎は、こんなホテル街に何故少女がいるのか驚いたが少女は炭治郎に気づいていないのか何も反応を見せる事なく静かに炭治郎と女性の隣を通り過ぎた。
 普通であれば、同じ屋根の下で暮らしている人間が居たら挨拶するか目線を向けたりするものであろう。だが、紅は何も反応を見せず、まるで興味無いかのように…いや、寧ろ炭治郎たちの事など見えていないかの様に横を通り過ぎたのだ。
 何も表情を変えることの無かった紅に炭治郎は何だか少し胸の中がもやもやした様な気がしたが直ぐに気のせいかと思うと炭治郎は其の場を女性の肩を抱きながら後にしたのであった。


 その後、女性から情報を聞き出した炭治郎が屋敷に帰宅したのは次の日の昼頃であった。
 鱗滝に報告を済ませた炭治郎が自室に戻ろうと廊下を歩いていると少し先の客間の襖がガラッと音を立てながら開き、私服姿の紅が部屋から出て来るのが見えた。
 紅は少し先に居た炭治郎の姿に気がつくと頭を軽く会釈する様にぺこりと下げ一礼をしたので炭治郎はニコッと笑みを浮かべながら紅へと話しかけた。

「昨日、街で会ったに無視しただろう?」

 炭治郎がそう言うと紅は、こてんと首を傾げ「会いましたっけ?」と無表情で平然と言ったのである。
 炭治郎は「え?」まさか、気がついて無かったのか?などと思いながら「夜にホテル街なんて歩いてたら危ないぞ」と紅を心配するかのような言葉を掛けたが紅は特に気にする事無く「バイト先がホテル街にあるんで仕方がないです」と答えた。
 紅の言葉に炭治郎は、バイト=如何わしい仕事と言う方程式が頭に思い浮かび「バイト⁉」と声を上げると紅は「えぇ、ホテル街にあるコンビニのバイトです」としれっと言ってのけたのである。
 一応、組長である鱗滝の知り合いの子をお預かりしている以上、変な事をさせる事は出来ない。取り敢えず、バイトが危ないバイトでは無かったので炭治郎は安心したように胸を撫で下ろした。

「ホテル街のコンビニなので様々なものを置いていますよ。御入用と有れば竈門さんもどうぞお越し下さい」

【あのような綺麗な女性と深く仲良くするのに必要なものとかあるでしょう?】

 不意に紡がれた言葉に炭治郎はハッと紅を見ると紅は既に炭治郎に背を向けて屋敷内の長い廊下を歩き出していた。

「ちょっ‼」
「お仕事行ってきます。夜は遅くなりますが鱗滝さんには許可をもらってますので心配しないでください」

昨日と同じく紅い暗褐色のフード付きパーカーを纏い去りゆく紅の姿に炭治郎は昨日はやっぱり俺に気がついていたんじゃないか‼と紅に対して何とも言えない気持ちになったのであった。

 其れは数日前の出来事だった。


    ♦♦♦♦♦


 満月が美しく光る夜

 ガチャンと何かが割れる音と共に発砲音が聞こえる。
 複数の誰かの叫び声と怒号が鱗滝組の屋敷に響き渡り、血の匂いと火薬の匂いが充満する室内に嗅覚が優れている炭治郎は血濡れた自身の顔を歪めた。
 ふっと隣を見れば、自身と同じく拘束された兄貴分である冨岡と錆兎が負傷した状態で床に転がされており、真菰と自身の大切な妹である禰豆子も拘束されていた。

 其れは、つい一時間前のことであった。
 鱗滝組の長である鱗滝は護衛として複数の組員を連れ、会合へと出かけて行ったのである。当初、冨岡と錆兎もついて行くつもりであったが産屋敷一門と敵対関係である組が最近、手薄になった組の屋敷を襲撃すると言う事件を頻繁に起こしており、其れを警戒した鱗滝が冨岡と錆兎を屋敷に残して行ったのであった。
 冨岡と錆兎、それに炭治郎も居れば大丈夫であろう。そう、鱗滝は判断していたのだが、その考えは敵対している組織が屋敷の女中と送り込んでいた密偵により伝わっており、その密偵に敵対する組織は食事に薬を盛るようにと指示をしたのであった。
 密偵は匂いで行動がバレないように常日頃から香水を振り撒き、そして薬を混ぜるための食事は香りが強いものを選び、薬を混入させ今日の夕食に出したのである。
 案の定、そんな事など知らずに炭治郎達は食事を行い、混入した痺れ薬が効き始めた頃を見計らい、敵は鱗滝組の屋敷へ襲撃を開始した。
 幾ら腕っ節が強いと言われていても薬の効力には勝てず、炭治郎達は抵抗も虚しく拘束されて一つの部屋へと集められたのだった。

 その集められた部屋では一人の男が大きな態度で座り、床に這いつくばる炭治郎達を見ながらタバコを吹かせてはニヤニヤと今の光景が愉快だと言わんばかりに汚らしい笑みを浮かべていた。
 時折、拘束された真菰と禰豆子にいやらしい目線を向け、炭治郎は少しでも妹をその下卑た視線から守る為に動かない体を無理矢理動かし自身の背後に隠す様に禰豆子の前へと出た。
 負傷している冨岡と錆兎も兄妹の様に共に育った真菰を守る様な仕草を見せているのを炭治郎は横目で見ながら組で預かっている大事な少女がこの場に居なくて良かったと安心した。

 堅気である紅は屋敷が襲撃に合う二時間前にタイミング良く、アルバイトに出かけたのである。
 「22時までバイトなので少々遅くなります。御飯は適当に済ませますから大丈夫です」と淡々と無表情で真菰と禰豆子に告げているのを炭治郎は知っており、未成年なのに遅くまでのバイトは危ないよ‼と禰豆子が心配そうにしていたが紅は「大丈夫です。行ってきます」と言いながらバイトへと向かって行った。
 現在の時刻は20時過ぎた頃…例え早く、バイトが終わったとしても頭の回る紅で有れば屋敷の状態を瞬時に判断して逃げるだろうと先日のやり取りを思い出しながら炭治郎は、そう思った。

「腕っ節の集まる鱗滝組だと聞いていたが、何だ。案外簡単に落とせるじゃねぇか」

 ボロボロの屋敷と傷だらけの炭治郎達を見つめながら馬鹿にするように目の前の敵対する組織の長である男と部下達は汚らしい笑みを浮かべながら高笑いをしており、錆兎と冨岡は悔しそうに男達を睨みつけながら「下衆が」と呟く。
 その言葉に敵対する組織の中の一人が錆兎と冨岡の顔を殴り飛ばした。
 飛び散る血と共に二人の呻き声と真菰が二人の名を呼ぶ声が響く。
 その光景に禰豆子が微かに震えていることに炭治郎は気づいたが拘束された身では如何することも出来ず、唯、大事な妹を背に隠すことしか出来ない自身を情け無く思い、唇を噛み締めた。

「今日は最高な日だなぁ。あんなに俺達の薬や人身販売の取引を打ち壊しにしてきた鱗滝組が壊滅状態………この後、手前等を始末したら後ろの可愛い子ちゃん達を躾けて楽しもうかねぇ」

 この様な裏の世界に足を踏み入れた時から真菰も禰豆子もこの様な事があるかもしれないとは予想した事はあった。
 だからこそ、この世界で生き抜くために組長である鱗滝から体術や銃器の扱い方などを教わり、自分の身は自分で守れる様にと備えていた。だが、いざ自身の性別についての事を現実で告げられると恐ろしく感じ、無意識に震えてしまう。少しでも怯えを見せない様に真菰も禰豆子も相手を睨みつけるが敵の憎い程の笑みは消えることはない。
 男である炭治郎達も手も足も出せず歯痒い感情と不甲斐なさと共に悔しさが込み上げ、ギリギリと歯を食いしばることしか出来ない。

「愉快…。あぁ、凄い。清々しい気持ちだなぁ」

 敵の男が炭治郎達を見下げながら再び高笑いをする。
 耳を塞ぎたくなる不快な音に炭治郎達がなす術無く、顔を歪めた時だった。


 「気持ち悪い笑い声ですね。…まるで時代劇に出て来る、最後はボコボコにされる事を知らない馬鹿な悪代官の様な笑い声みたいです」

――実に不快です。――

 突然、聞こえてきた場の空気を壊す様な言葉に炭治郎達も敵も一瞬、ピタリと動きを止めた。

 聞こえて来た声は炭治郎達には聞き慣れた声であり、その声の持ち主はアルバイトに出かけて行った為に今、この場にはいない筈なのだ。
 なのに突然、聞こえて来た声は鱗滝組で預かっている堅気である物静かな何時も無表情の少女のものであり、炭治郎達と敵は恐る恐る、声の聞こえた方向へと視線を向けると皆が驚いた様に目を見開いたのである。

 音も匂いも気配も無く、その子は突如としてその場の空気に最初から居たかの様にして現れたのだ。

 瞳がこぼれ落ちそうな程、驚き、目を見開く炭治郎達の視線の先にはアルバイトに出かけた時と同様に紅い暗褐色のフード付きパーカーを纏う黒髪の少女…鱗滝組で預かっている壱師紅の姿が其処にはあった。
 唯、一つ違うのはアルバイトに出かける前に見たときにはしていなかった、彼岸花を模した髪飾りと同じく彼岸花が描かれた灰色のマフラーを首に巻いていた。
 元々、紅は異様に存在感が薄く、声を掛けられたり、身体がぶつかるまで紅の存在に気が付かない事が多かった。其れに加えて匂いも薄く、嗅覚が優れ、相手の思いまでをも嗅ぎ取ることの出来る炭治郎で冴えも紅の匂いを嗅ぎ取る事が出来ない程であった。
 その事を不思議に思い、炭治郎達が鱗滝に問い掛けたこともあったが、鱗滝は「あの子は高校生だ」と答えるばかりであった。
 
 そんな紅が突然、音も匂いも気配もなく現れ、チラリと紅い瞳を傷だらけでありながらも突然現れた己の存在に驚く炭治郎達へと向けると直ぐに視線を敵の長へと向け、口元を覆う様にマフラーを片手で口元まで持ち上げた。

何故、帰って来てしまったんだ。
頭の良い君なら屋敷の異変に気づけただろう。
と言うか、バイトだったんじゃないのか?
偶々、早く終わってしまったのか?それなら…タイミングが悪過ぎる…
堅気の子を巻き込むなんて…

「紅ちゃん逃げて」

突然の紅の登場に炭治郎がぐるぐると思考を巡らせていた時、炭治郎の背後から禰豆子が紅に向かって声を上げた。
 咄嗟に堅気である紅を巻き込む訳にはいかないと禰豆子は判断したのであろう。だが、紅は禰豆子の言葉に特に反応するわけも無く、静かにその場から動く気配を見せない。
 錆兎が痺れを切らし、紅を呼ぶが紅は面倒くさそうに小さく溜息を吐くと「ちょっと黙っててください」と言い、視線は真っ直ぐに敵を見つめたままだった。

「お嬢ちゃん。君、鱗滝組の子かい?」

 「何処に隠れてたのかなぁ?」と男が笑み浮かべながら自身を見つめてくる少女へと問い掛ける。だが、紅は特に反応を見せること無く、無表情のまま静かに男を見つめた後、ゆっくりと口を開き「私は鱗滝組の子ではありませんよ。唯の居候です。高校がこの屋敷から近いので此処から通わせてもらっているだけです」と男の質問に答えた。

「へぇ?」
「その子は堅気の子だ。手を出すな」

 冨岡が敵に少女には手を出すなと言うが目の前の男は気味の悪い笑みを浮かべ、紅を舐める様に見つめるだけで冨岡の言葉など聞く気さえ無かった。
 その紅を品定めするような敵の笑みが炭治郎には不快で堪らなかった。真菰と大切な妹である禰豆子に向けられた、いやらしい下卑た笑みよりも紅へと向ける男の笑みが炭治郎の腹の奥で何かが煮えたぎる様な感情を呼び起こされる。だが、其れと同時に拘束された自身は紅のその姿を隠すことも守ることも出来ないことを思い知り、悔しさと嫌悪感が込み上げてくる。

「堅気の子なのかぁ?…そりゃ、俺達の世界は基本、堅気のモンに手を出すのは御法度だが【証拠】と【目撃者】さえ、居なければ、問題ねぇと思うんだよなぁ」

ニヤニヤと男が汚らしい笑みを見せ、そんな男の笑みに紅は不思議そうに首を傾げると「それは、どう言うことですか?」と男に尋ねた。

「んー?其れはね、今、この場で転がっている鱗滝組の幹部達は皆、明日には海の底だからだよぉ〜」
「海の底?其れは、【殺す】と言うことですか?」

 紅が再び、きょとんと不思議そうな顔で尋ねると男は紅を何も知らない無知な子と認識したのか、愉快だと言わんばかりに次々に言葉を述べていく、男共はバラして海の底へ…女共は躾けて楽しんだ後、売り飛ばす。そう、楽しげに話す男に炭治郎達は声を荒げるが紅は静かに聴いた後、ゆっくりと口を開いた。

「現状と理由は分かりました」

静かに紡がれた言葉が炭治郎達の耳に響く、静かで淡々と感情の分からぬ声色に何処か奇妙さを感じた炭治郎達は紅へと視線を向ける。

 目の前の紅は変わらぬ無表情のまま、また再び言葉を紡ぐ。

「とても面倒くさいですが、住む場所が無くなるのは困りますし、禰豆子さんと真菰さんには常日頃からお世話になっておりますので……よって、今から鱗滝組の援護と…」


――塵のお掃除を開始します。――


ポツリと紅から呟かれた言葉に炭治郎達は「はっ?」「えっ?」驚いた様な声を上げた。

 紅は何と言った?鱗滝組の援護と塵の掃除だと?其々が意味が分からず、紅を見つめる炭治郎達に紅だけは変わらず、無表情のままでその場に
佇んでいる。
 敵である男も突然の紅の言葉を理解出来なかったのか、驚いた表情のままだったが数秒後には紅を馬鹿にしたように嘲笑い、敵である男の仲間の一人が「お嬢ちゃん、気が動転ちゃったのか?」と紅に近づき、紅の肩に触れようとした時だった。

 無表情の紅が自身の肩に触れようとする男の手を弾く様な仕草を見せた瞬間、紅へと伸ばした手から鮮血飛び散った。
 突然の事に男は恐る恐る自身の手に視線を向けた。
 視線の先に見える己の手はポタポタと赤が滴り落ち、あるはずの指の第二関節から上が綺麗に最初から無かったかの様に消えていた。
 恐る恐る重力に逆らうことなく滴る血の先である床を見る。
 息が浅く、男の喉がカラカラに乾いていく…。そして視線の先には欠損した先のモノがぽとりと音を立てながらまるで玩具の様に転がっていたのである。
 その事を脳が認識した瞬間、意識が飛びそうな程の激痛と恐怖が男の中を駆け巡り、この世の者とは思えない程の悲鳴を上げた。
 痛みと欠損した箇所が燃えるほどの熱を持ち、額から脂汗が出るのに背中には凍る程、冷たい汗が滴り落ちる。
 炭治郎達は目の前の光景に驚き、唯、唖然とその場に崩れ落ちる男を見つめていると紅は自身の足元で崩れ落ちる男を邪魔だと言わんばかりに退かすように蹴り上げた。

 その光景に更に炭治郎達は唖然とした。

「手前‼‼何しやがった‼‼」

 敵の長であろう男が突然の事に声を荒げ、懐から黒い拳銃を取り出し、紅へと向けるが紅は特に驚きも恐怖も見せず、無表情で面倒臭そうに男を見つめた。

「邪魔なものを退かしただけですよ。あぁ、そうでした、そうでした。さっき私に隠れてたのかと聞きましたよね?」

 紅は無表情のまま、つい数分前に問い掛けられた質問の事を思い出したかの様に語り始めた。
 変わらない声色、変わらない表情が敵の恐怖を煽る。

「私、バイトに出掛けようと屋敷を出ていたので隠れてはいませんよ。普通に屋敷の門を潜り抜けて玄関から入ってきました。玄関から屋敷の中まで沢山、黒いスーツを着た人が居ましたが、誰一人として私の存在には気づく事なく…」

――あの世へお見送り致しました。――

「今、この場に居る方々しか、息をしてる者は居りません。全部、私が片付けましたので」

無表情で淡々と話す紅に炭治郎の背中は冷たさを感じた。
 堅気の子だと思って預かっていた少女が淡々と恐ろしいことを話しているのだ。しかも、手慣れたように自身に触れようとした男の手を落とし、蹴りを入れたのである。
 与えられた情報が多すぎて思考回路の処理が追いつかない、だが、無表情ながらにも凛とした表情で立つ少女から炭治郎は目線を逸らすことが出来なかった。

「今の手慣れた感じは唯の堅気の少女って訳ではねぇだろ」

 男が睨みつけながら紅へと尋ねると紅はパーカーの袖からするりと短刀を取り出した。
 よく見るとその短刀は抜身の状態であり、きらりと鈍く光る刃には赤い鮮血が滴っていた。
 その滴る赤を振り払うかの様に上下に腕を振ると紅は静かに口を開いた。

「よく分かりましたね。判断が早いことは良いことだと思います。はい、私は堅気の人間ではありませんよ。そうですね……始末屋…掃除屋……まぁ、色々と呼ばれておりますが、とりあえず、きちんと挨拶しますね。
 話すことがあまり好きではないので一気に言いますので聞き逃さないでください。二度は面倒くさいので言いませんので。では……。
初めまして、産屋敷一門専属で暗殺を生業としております、裏社会での通り名は【彼岸花】 表社会での名を壱師紅と申します。
 幼少期より面倒を見てくださっております、不死川会の組長・不死川実弥より知識を身につけるのも大事だと言われ、昼は学業、夜は暗殺業を行なっております。
 殺す事に関してはそこら辺の素人よりは腕は上ですので素速く迅速に対応致します。ご連絡先は此方まで、どしどし御依頼くださいませ」

 そう告げながら、テレビ番組などでよく見かける、テロップを指差す様な仕草をしてこの場の空気からズレた行動を見せる紅に敵は一瞬、唖然とした表情を浮かべ、炭治郎達も戸惑った表情を見せた。

「まぁ、産屋一門専属なので他所の依頼は受けないんですけどね」

 紅はポツリと呟くと抜身の短刀の刃先を拳銃を構える男へと向けた。
 それに続く様に紅玉に似た美しい紅い瞳が目の前の男へと向けられる。髪飾りや服装などは目立つ紅い色なのに一瞬でも目を逸らすと直ぐにでも背景に溶け込み、消えてしまいそうな空気を目の前の少女・紅は纏っている。
 何時、首をその鋭く鈍く光る短刀で掻き切られるか分からない恐怖と緊張に目の前の敵の長も周りに居る敵の部下達も呼吸が段々と浅くなる。

 そして其れは本当に一瞬の出来事であった。

 目を閉じて開けただけ、瞬きをしたほんの少しだけ、一瞬とも呼べる時間だったのだ。
 
目の前の少女は大勢の者達の前から突然と姿を消した。

 誰もが突然の事に驚き、息をハッと飲む。歩く足音も服が擦れる音も匂いで冴もその場から初めから少女など存在していなかったかの様に消えたのだ。
 その事実が敵である男達の恐怖を更に駆り立て、少女を探すかの様に皆が皆、辺りを見渡すが姿は無い。
 唯、突然とぷしゅっと何かが弾け、噴射される様な音が響き、皆が其方に目を向けると敵の一人が首元から赤い柘榴が弾けたかの様にして鮮血を撒き散らし悲鳴を上げながら倒れたのである。そして敵達がその目の前で起こった光景を理解する前に次々と同じ様に首元から赤を撒き散らしては何人もの敵が倒れて逝く。

 炭治郎達は目の前の光景に何が起きたのか判らず、唖然とすることしか出来ずにいた。
 鮮血を流し死に逝く敵の遺体をよく見ると鋭利な刃物で必ず致命傷になるようにと深く、広範囲に斬り裂かれた傷跡が首元にあった。
 男の首は骨が太く硬い。だが、其れをモノともしない角度からの絶妙な斬り口…。手際の良さはそこら辺の暗殺者何かよりも素早く、無駄の無いものだ。もし、此れが自分達であったならと考えるとゾッとした。
 そうこうしている内に敵の何人かは懐から拳銃を取り出し辺りを無差別に発泡するが変わることなく敵の血が滴り、血の池を広げるばかりである。

 そして等々、血の池の中心には捕まった炭治郎達と敵である長だけが取り残された状態となってしまっていた。
 
 紅は言った、鱗滝組の援護をすると告げたのだ。
 紅の裏社会での通り名である【彼岸花】は裏で生きる人間なら知らぬ者など居ない程の名の知れた暗殺者だ。
 音も匂いも、そして姿すらも残さない。
 産屋敷一門専属と言っていたので同じ産屋屋敷一門である鱗滝組に所属する炭治郎・禰豆子・真菰・冨岡・錆兎には手は出さないだろうと分かっている。だけど、無駄のない手際の良さと何処から現れるのかすら分からない恐怖が自身達に向けられているような気がしてしまい、嫌な汗が炭治郎の額を伝う。
 目の前の一人残された敵の長もよく見ると拳銃を握る手が小さくカタカタと震えているのが見える。
 訳も変わらず、音もなく匂いも気配もない、人外と疑われてもおかしくない程、全てを掻き消すことの出来る人間離れの体質を持ち、そして暗殺をするためだけに生まれて来たような才能が酷く恐ろしいのだ。

 その鈍くきらりと光る刃がいつ、自身の首元を掻き切るのか…。五秒後なのか、それとも二十秒後なのか…考えることすら怖かった。

「っ…お嬢ちゃん、いや…彼岸花、俺と…交渉する気は…無い、か?」

 敵の長である男がポツリと辺りを見渡しながら呟くが矢張り紅の姿は見えず、男の声だけが響いた。だが、男は間髪入れずに言葉を続ける。

「お、俺を見逃してくれたら、鱗滝組には二度と手を出さない‼寧ろ、あんたらの配下に入る‼ど、どんなにコキ使ってくれようが構わないから‼‼」

大声で必死に媚びるように男は言うが、返って来た声は変わることなく淡々とした静かなものだった。

「情け無いですね。恐怖に怯え、命乞いをするなら最初から手を出さなければ良かったのに」

敵の男も炭治郎達も紅の声が聞こえた方へと視線を向けるが矢張り、姿は無く、更に男の恐怖は増して行く。
 銃を持つ手が小さな震えから大きな震えへと変わっていくのが錆兎達にはわかった。

「だって貴方は覚悟してたのではないのですか?」


――だから、銃を向けたのでしょう?――

 男は恐怖のあまり、声が出なかった。
叫び出したくて、惨めに誰かに助けを求めたかったがそれが出来なかった。

 視界に映った、きらりと鈍く光る刃が…

「何故、自分は大丈夫だと、安心だと思ったんですか?」

 ひたりと冷たい鉄の感触が男の首筋に当たる。

――殺る、殺られるは表裏一体なんですよ――

「銃を向けた瞬間から貴方は殺る側であり、殺られる側でもあるんですよ」

 背後から耳元に寄せられた唇から淡々と紡がれた言葉を最後に男の首から赤が飛び散った。

     ♦♦♦♦♦

 悲鳴も上げること無く、いや、上げれないまま静かに倒れ逝く男の身体を紅は静かに見つめた後、そっと炭治郎達へと視線を向けた。

「大丈夫ですか?それにしても良かったですね、今日は私のバイトが早く終わって」

タイミングが良かったです。と血濡れた短刀を振り、短刀についていた血を振り落とすと静かに袖からするりと出した鞘へと刃を仕舞った。
 そして、炭治郎達の拘束を素早く解くと紅は安心したかのように溜息を吐いた。

「何と云うか…」
「色々と情報量が多くて整理出来ないね…」

 戸惑いを見せる錆兎と真菰に紅は不思議そうに首を傾げ「さっき告げたままですけど?」と言った。
 そんな事をしている内に紅が呼んだであろう、産屋敷一門の様々な処理を請け負ってくれている【隠】のもの達が現れ、紅が生み出した血溜まりは綺麗に片付けられ、騒動を聞いた鱗滝組の長である鱗滝も急いで屋敷へと帰ってきた。
 傷の手当てを終えた炭治郎達が「あの子は堅気の子じゃなかったんですか⁉」と鱗滝に問い掛けると鱗滝は「ワシは一度もあの子が堅気だと答えてはいないぞ」と言った。
 確かに思い返してみると初めて問い掛けた時は「あの子は大丈夫だ」と答え、次に聞いた時には「あの子は高校生だ」と答えだけであるに気がついた。そう、鱗滝は紅がこの裏社会では暗殺を生業としており、また、紅の事を同じく産屋敷一門である不死川会の不死川実弥より「あのクソガキを宜しく頼む」と頼まれていたのである。
 鱗滝曰く、不死川と紅はきちんと知識を得るために学業に専念し、如何してもと云うときは裏での仕事をしてもらうと約束をしていたのだと云う。其れを知っていた鱗滝は自身の屋敷に居る間は【普通の女の子として扱ってやろう】と言う優しさから炭治郎達には紅の正体については告げていなかったのであった。
 因みに紅は特に隠すつもりは無く、社会科見学としてコンビニでアルバイトをしているのは本当であり、唯、炭治郎に尋ねられたその日は偶々、暗殺業では無く、コンビニでのバイトだったのでコンビニのバイトと答えだけだったのだとコンビニの廃棄としてもらった冷やし中華を啜りながら淡々と告げてるのを見て、何だが少しもやっとした炭治郎達であった。

「まあ、皆さんが無事で何よりです。住むところも無くなるのも嫌でしたし本当、良かったです」
「今回は…本当にありがとう」

炭治郎が深々と頭を下げると紅は「お屋敷に住まわせて頂いているのは此方ですし、自分が出来ることをしただけなので頭を上げてください」と炭治郎に声を掛けた。
 炭治郎は、その言葉にゆっくりと顔を上げるとじっと目の前の紅を静かに見つめた。

 鮮血が飛び散る中を表情を変える事なく、唯、その美しい黒髪を揺らす紅の姿を思い出すだけで背筋が凍る。それと同時に何故か紅から目が離せないような感覚にもなった。
 紅の仕事を目の前で見たからなのか、其れとも人間に根を張る厄介な感情である【好奇心】と云うものから来ているのかは分からない。
 唯、この目の前の無表情で面倒くさがりで何処か掴みようが無く、少しだけ変わった感覚を持った【普通の高校生】に見える紅が裏社会では【名の知れた暗殺者】であったと云う差の激しいギャップが少なからず炭治郎の中の何かを刺激したと云うことだけは分かった。

 特に興味など無かった唯の少女に己の心が刺激され、更に少女のことについて知りたくなる自分が生まれるなんて少女と出会った頃の炭治郎は夢にも思わなかったであろう。
 しかも、今、目の前でバイト先の廃棄である冷やし中華を食べ終え、塩むすびを食べる少女ががっつりとした裏社会の人間だったことも…。

「謎が多過ぎる…」
「聞かれなかったから答えなかっただけですよ。聞かれたらきちんと答えます」

「何か知りたいことがあるんですか?あ、おにぎりは塩むすびが好きです」とズレた事を言いながら満足気に塩むすびを頬張る無表情の少女の顔を見つめながら炭治郎は静かに溜息を吐いたのだった。