※未来の話…

 全てが終わり、炭治郎達が共に住み始めてから数ヶ月が経った頃、炭治郎と紅は雲取山の麓にある町に炭を売りにやって来ていた。
 いつもであれば炭治郎は伊之助や善逸と共に炭を売るのだが、この日は伊之助も善逸も用事があったため炭治郎に寄り添うようにして紅が山を降りて来たのである。
 二人が町に降りると炭治郎と紅は、その姿に気がついた町の人々に次々に声を掛けられた。そして其れに応えながらも炭を売る。時折、手を貸して欲しいと言われれば手伝ったりなどをしているとあっと言う間に炭は売り切れ、炭治郎の背負って来た竹籠の中は空になったのであった。

「今日もたくさん売れましたね」
「あぁ。良かった。手伝ってくれてありがとう、紅」

炭治郎が声を掛けると紅は無表情ながらにも柔らかな雰囲気を出しながら「手伝うのは当然です。私の旦那様ですから」と淡々とだけど恥ずかしそうに言った言葉に炭治郎は顔がかっと熱を持った。
 二人は未だ祝言は挙げていない。
 色々と長く苦しい戦いをしたのだ。まだ、様々な面で片付けることは多く、炭治郎と共に住むことを決めた紅も師範である風柱と共に住んでいた屋敷に頻繁に向かっては自身の私物をちょくちょく片付けるなどをしている為、二人の祝言はまだまだ先になりそうだった。
 そんな紅が恥ずかしそうに炭治郎のことを「旦那様」と呼んだのだ。
 
 嬉しく無い訳がない。

 ぎゅんっと心臓を鷲掴みされたような感覚に炭治郎は思わず片手で胸を抑えるともう片方の手で顔を覆った。
 紅はいきなり顔を覆い、肩を震わせ始めた炭治郎に不思議そうな表情を見せた。

「さぁ、私も用事が終わりましたし帰りましょう。炭治郎くんの嗅覚の助言の通りに念の為に傘を持って来ましたが…」
「そうだな。朝から雨の匂いが微かにしていたからな…今のこうしてる時も段々と雨の匂いが濃くなってきているし…」

降る前に帰ろうか。と言う炭治郎に紅はコクリと頷くと沢山の皺が刻まれた感覚の無い炭治郎の手に寄り添うように手を重ねた。

     ♦♦♦♦♦

「降ってきてしまったなぁ…」
「仕方ないですね。傘は一本しかないので相合傘になりますが許してくださいね」

 そう言って持って来ていた傘を開こうとする紅に炭治郎は傘をひょいと奪い、傘を開くと紅の腰をきゅっと抱き寄せた。
 きょとんと炭治郎を見つめる紅に炭治郎は柔らかく微笑むと「俺に持たせてくれないか」と言い、紅を歩くように促した。

「……炭治郎くん、肩濡れちゃいますよ。もっと自分の方に傾けてください」
「ふふっ、大丈夫だ。俺は男だし長男だから平気だよ。紅こそ、女の子なんだから身体を冷やしちゃ駄目だ」

有無を言わさない炭治郎の微笑みと言葉に紅は「炭治郎くんの長男理論がいまいち理解出来ないです…」と呟くと炭治郎は更に楽しげに笑った。

 また、ポツリ。またポツリと傘に触れた雫が滴り、炭治郎の肩を濡らしていくが其れとは真逆に紅に雨粒が当たることなど無かった。
 其れが紅は不満でどうにかぐいぐいと傘を持つ炭治郎の手を押すが、男である炭治郎の力に敵うことは無く、悪戯に傘を少し揺らしただけだった。

「……お家帰ったら頭からお風呂に突っ込んでやりますからね」

無表情ながらにも不貞腐れた表情を見せる紅に炭治郎は愛しさを込めた、なんとも言えない溜息を吐いのだが、本当に家に帰って服のまま風呂に突っ込まれることをこの時の炭治郎は未だ知る由もなかった。

「雨で先に濡れてるから服着て風呂に入っても一緒でしょう」
「其れとこれとは話が違うぞ、紅」