※人形パロ2
女の子の人形が消え、祖父母も亡くなってから数年が経った。
幼かった俺も十五歳になり、キメツ学園と言う中高一貫の学校に通い、学校が終わると家業であるパン屋を手伝うと云う忙しい毎日過ごしていた。
友人である伊之助や善逸達、大好きな家族と過ごす日々は楽しくもあったが、数年経った今でもふとした拍子に何故かあの人形の姿を思い出すことがあった。
祖父母の家にあった白い彼岸花が描かれた紅い羽織を纏った、美しい黒髪と彼岸花の髪飾りを風に揺らし眠る少女人形…
あの小さな小袖箪笥の上に眠るようにして座っていた人形を何時迄も思い出す。
祖母の知り合いの手に渡ったあの人形は今、どうなっているのか…
不意に思い出しては、その人形の現在の持ち主に嫉妬に似たような感情が湧き上がる。
あの柔らかな頬に触れ、艶やかな黒い髪を梳いているのかと思うと胸が苦しくなる。
玩具遊びなんてとっくの昔に卒業したはずなのにあの人形への執着心は消えること無く、思い出す度に強くなるばかりだ。
人形ならば、もしかしたら大量生産されているのではないかと思い、調べたこともあったがインターネットの検索に引っ掛かることは無く、俺は静かに落ち込んだこともあった。
それほど迄に俺の心の中には、あの人形の存在が強く根付いていたのだ。
♦♦♦♦♦
「炭治郎って偶に変な本を読むよなぁ」
友達である善逸の言葉に俺は意味が分からず、読んでいた本から目線を離し思わず、善逸の方へと視線を向けた。
昼休みである今、俺の前に座る善逸はスマホを片手に苺牛乳のパックのストローを咥えながら俺を見つめており、スマホを机の上に置くと「それだよ、それ。今読んでるやつ」と俺の読んでいる本を指さした。
「?…あぁ、これか?」
俺は善逸の言葉に読んでいた本の頁に栞を挟むとゆっくりと本を閉じた。
閉じた本の表紙には「人形―日本と世界の人形すべて」と云う文字が大きく書かれており、マニアでは無い限り、あまり読むことはないだろうと思うほど年季の入ったものであるとわかるものだった。
この本はキメツ学園の図書室で借りたものでキメツ学園の図書室は私立図書館並みに広く、様々な本が置かれている。
最新の本から絵本…古書迄置かれており、調べ物をするには、うってつけの場所だった。
そんな図書室から俺は偶に人形の事が書かれた本を借りることがあった。其れは俺の心の中に根を張る、あの黒髪の人形について何か判れば良いなと云う思いからの行動だった。
あの記憶の中の人形の生きたような繊細さは素人で幼い俺が見ても素晴らしいものだった。
簡単に真似できる訳が無く、そんな人形を作るのに多くの時間と作品数を重ねた筈だ。
ならば、俺が欲する【人形】に通じる存在が何処かに必ずある筈だと俺は思ったのである。
ならば、片っ端からありとあらゆる人形の本を読もうと決めた。
彼女の存在の欠片を少しでも手に入れれるのであれば…
この俺の心の奥に秘めた異常な【彼女への想い】を家族にも友である善逸達にも伝えたことなど無い。
俺の想いを知らない善逸は人形関連の本を読み続ける俺を不思議に思っていたのだろう。
くんっと嗅いだ匂いから本当に不思議がる匂いがした。
「……少し変な話をしても良いだろうか」
嘘を吐こうか迷った。だが、俺は嘘をつくとき凄く苦しそうな顔するらしいのだ。
何とも言えないその表情に俺が嘘をついているのがバレバレだと禰豆子達に言われたことがある。
其れに善逸は人より数百倍聴覚が良い。俺の嗅覚と同じく人の感情が読み取れるぐらいに良いのだ。だから、嘘をついたところで善逸には嘘だとバレてしまうのだが…この想いを言葉にするのが恥ずかしい、何よりなんだか揶揄われそうな気がするのだ。
だから、俺は善逸に話せる範囲で話をした。
本当の想いは、こっそりと隠して…
昔、祖父母の家にあった少女の人形が本当に生きている様な繊細な作りで印象に残っていると云うことと祖母が言っていた「悪い鬼を退治してくれる」と云う逸話を善逸に語った。
善逸は俺の話に「へー」と相槌を打ちながら片手に持った苺牛乳をストローで吸い上げ、飲んでいくが直ぐに苺牛乳のパックの中は空になり、ずろろろろろろっと云う音だけが響いた。
「なんか、似たような人形が俺の家にもあった気がする…」
「そうなのか⁉」
「かなり昔だけどね。居間に炭治郎が言ってる人形に近いものがあったんだよ。彼岸花を纏っては無かったから多分、違う子だと思うけど…爺ちゃんも昔、その人形を撫でながら同じ様な話をしてたような気がする」
――居間に飾られてた、あの子もいつの間にか消えちゃってたけど――
その時の光景を思い出すかのように教室の天上に目線を向ける善逸に俺はガッカリと肩を落とした。
まだ、その人形の存在が善逸の家にあるのなら
少し調べさせてもらって、あの子に繋がる何か情報を得られたかもしれないと思ったからだ。
でも、居ないものは仕方がない。
生きてるうちに、もう一度だけあの存在に触れたい。
願わくば、あの閉じられた瞼の奥に隠された瞳を見たい。
――きっと綺麗なんだろうな――
俺が心の中でそう思っていると善逸が突然、何かを思い出したかの様に声を上げた。
「思い出した!」
「何を思い出したんだ?」
「確か、人形の太腿に…」
「……ちょっと待ってくれ。人形の、ふとも、も?」
突然の善逸の口から出た言葉に俺は引いたような表情で善逸を見ると善逸は慌てたように「ち、違うからな⁉ちょっと気になって捲ってみたとかそんなんじゃないからな⁉なんだよ‼‼そんな目で見んなよぉぉぉぉ‼‼と墓穴を掘っていた。
「昔、人形の服を興味本位で捲った時にさ。人形の太腿に文字が刻まれてたのを思い出したんだよ」
気まずそうな表情を浮かべながら善逸は俺にポツリと呟いた。
「文字…?」
「うん。多分、作者の名前かもしれない」
善逸の言葉に俺の身体には緊張感が走る。
いくら本を読んでもインターネットで検索をかけても手に入らなかった【愛しい人形】に繋がる情報…
其れが今、手に入るかもしれないことに俺の心は騒ついていた。
「その彫られていた名前って…?」
騒つく心臓を押さえながら俺は善逸に尋ねた。
「確か…刻まれていた名前は…」
――産屋敷――
俺は善逸の口から紡がれた言葉に目を見開いた。
そこら辺あるような名前では無く、珍しい名前である。だが、俺は其の名前をよく知っていた。
いや、この学園に通うなら誰もが知っている名前だろう。
だって、その名前は…
「…うちの学園長と同じ名前じゃないか」
そう、俺の通うキメツ学園の学園長と同じ名前だったからだ。
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