炭治郎くんの恋は、うまくいかないシリーズ

※キメ学設定、炭治郎視点

 未●年の主張と云う某人気テレビ番組のコーナーの企画がキメツ学園で行われることになったと担任である悲鳴嶼先生から告げられた俺は珍しく最後まで悲鳴嶼先生の話を聞くこと無く、遮る様にして「出たいです‼」と手を挙げた。

 某人気番組のメインと言っても良いほど未成年の●張と云うコーナーは視聴率が高く、世間でも知らぬ者は居ない程の人気コーナーだ。
 俺も弟や妹達と共に毎週、放送されているのを楽しみにしているくらい面白いテレビ番組で企画内容としては学生が自身の通う学舎の屋上から日頃伝えられない想いを曝け出しながら主張すると云うもので主張することに特に此れといった決まりは無く、学校生活や家庭での悩み、また将来の夢や自身が好意を寄せる相手に想いを伝えるなど主張したいことは人それぞれだった。

 そんな某人気番組で俺は如何しても、とある少女に伝えたい想いがあった。
 
 彼女と出会った時、俺は衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えている。
 俺は物心がついたときから人より嗅覚が優れていた。今日の晩御飯が何かなんて分かるのは普通だし、かなり離れた人との匂いでさえも嗅ぎ取ることが出来た。いや、それ以上に匂いを通して人の感情までをも読み取ることが出来たのだ。
 だから、匂いを通して困っている人が居たら声を掛けることも気を使うことも出来た。

 人の感情を嗅ぎ取れる。これが俺が生きてきた中で【当たり前】となっていた。

 そんな【俺の当たり前】を壊す人物が高等部に進学した俺の前に現れたのである。
 高等部に進学した俺の隣に彼女は音も気配も、そして俺にとって当たり前である匂いも無く、静かに現れたのである。
 しかもその少女は俺の隣の席に座り、目を丸くして自身を見つめる俺の目線に気がついたのか、ゆっくりと振り向き 俺と視線を合わせた。

 紅い紅玉の様な瞳が窓から注ぐ暖かな陽の光によりキラキラと輝く姿に俺は一瞬にして目を奪われた。
 ドクドクと音を立て始めた心臓と身体が雷に撃たれた様な衝撃を受けたのである。喉がキュッと締まり、はくはくと口から吐息だけが溢れた。

 初めての感覚、初めての感情…

 そう、俺はこの時、初めて恋をしたのである。

 其れを素早く理解した俺は熱を帯びていく頬を隠すこと無く、目の前の少女の両手を勢いよく己の両手で掴むとぐいっと少女に詰め寄るようにして「お、俺の名前は!か、竈門炭治郎だ‼っき、君の名は⁉」と情けないほど声が裏返りながら彼女に自己紹介すると彼女は無表情のまま首を傾げ後、ゆっくりと艶やかな唇を開いた。

「ソーシャルディスタンスって言葉知ってますか?」
「え⁉ あ、うん? す、すまない…」

遠回しに近いから離れろと言われたのは本当に恥ずかしかった。
 その後、少女は静かに「壱師紅です。宜しくお願いします。ななかまどすみたろうくん」と告げ、俺は思わず「竈門炭治郎だ‼」と詰め寄ってしまったが、少女から直接、名を聞くことが出来た俺は心の中で何度も紅の名を呼び、その嬉しさと心臓の高鳴りをこっそりと一人で噛み締めた。
 
 それから俺は何かしら紅と関わりを持とうと頑張った。
 沢山、話しかけたし係なども一緒のものにしようと考えたし移動教室では隣に座れなくてもせめて近場に座れる様にと行動した。
 俺は頑張った。少しでも紅に意識してもらえるように本当に頑張ったのだ。

  だが、紅は俺を悩ませる天才であった。

 紅は表情乏しかった。いや、寧ろ乏しいと云うか常に無表情なのだ。
 本人は微笑んでいたり悲しんでいたりしてるらしいのだが、表情筋が本当に悲しい程、働いておらず、常に無表情だったのだ。
 匂いも、そして表情からも紅の感情が読み取れず、俺を如何思っているのかも察することが出来なかった。
 しかも、彼女はかなりズレた性格の持ち主で俺が遠回しの告白として紅に「紅みたいな人がずっと隣に居てくれたらいいな」と言った時に紅に「いや、明日席替えだから無理ですよ」と淡々と返されたこともあった。

 此れは駄目だと思った俺は直接想いを紅に告げたこともあった。
 「付き合ってほしい!」そう言った俺に紅は唐突にスマホを取り出したかと思うと数秒画面を見てから「来週なら空いてます。今週は近所の和菓子屋でお客様感謝祭するので無理です」と告げられた時は、俺は膝から崩れ落ちた。
 あの時のショックは長男でも我慢できず、静かに善逸に肩を叩かれ、伊之助からつやつやどんぐりをもらいながら帰り道にちょっと泣いたのを覚えている。

 届かない想い…
でも、毎日大きくなる紅への想いは暖かく、甘く苦しいが俺の大切なものだ。

 そんな想いを俺は紅に伝えたかった。
 だから、今回のこの企画はチャンスだと思った。
 此れは頑張っている俺に対する神が与えてくれた絶好の機会だと‼
 そう思った俺は迷うこと無く、立候補したのである。
隣でノートに美味しい羊羹のお店の紙をじっと見つめている紅を横目に俺は必ず告白を成功させると心に決めたのだった。

    ♦♦♦♦♦

 それから数日が経ち、某番組企画収録の当日、俺は三時間目の授業を終えた後、会議室へと向かい企画の説明を受けた。

 企画の収録は四時間目の時間を使い撮影するらしく、軽く説明を受けると参加者達は屋上へと続く階段を上がった。
 数十分も経たない内に企画の収録が始まり、一人、また一人と静かに屋上の扉を開け、自身の主張を屋上から叫んでいく。
 それを静かに聞きながら俺は次々に終えていく参加者達の去り行く横顔を見つめていた。
 近づいてくる自分の順番にドクドクと心臓が高鳴る。緊張感が背筋を駆け巡り、無意識に震える身体の所為で耳につけた耳飾りが小さくカラカラと音を奏でるのを聞きながら一人で苦笑いをしていると遂に俺の名前が呼ばれてしまった。

 震える手をぎゅっと握り、俺は大きく返事をすると静かにお立ち台まで足を進めた。
 カンカンと登るたびに響く鉄の音にどんどんと緊張感が高まる。
 数段しかない階段を登りきり、屋上から下を見下ろすと沢山の瞳が俺を見上げており、俺はグッと喉から込み出そうな緊張を押し込むようにごくりと息を呑んだ。
 再び、ゆっくりと下を見渡すと青褪めた表情の善逸と俺を指差す伊之助、そして何故か焦ったような表情を見せる玄弥が居た。
 俺は、それを見つめた後、緊張を解すかのように一度目を閉じ、そして大きく息を吸い込み叫んだ。

「一年筍組、竈門炭治郎です‼俺は今日、伝えたいことがあります‼」

その言葉に下から生徒の「なーにー?」と云う言葉が響く。
俺は再び、息を吸い込むと覚悟を決め、俺の中の想いを言葉にした。

「同じクラスの壱師紅さん‼‼俺は君が大好きです‼‼良ければ結婚を前提に‼お付き合いしてください‼‼」

 言った。言い切った。俺は言ったぞ‼
そうだ‼ずっと伝えたかったんだ‼紅にずっと伝えたかった…‼春も夏も秋も冬もずっと隣で過ごしたいと思ったし、今だって綺麗なのに大人になると更に綺麗になるだろう。そんな姿を見るのは俺だけが良いなって思ったし一緒に未来を歩く相手は紅しかいないと俺は思ったんだ‼
 少し離れた先で人気アイドルが「いや、結婚前提は重くない??」などと声が聞こえたが、俺は‼真面目に考えてます‼‼

 さぁ、紅 君は俺の想いに如何返してくるんだ?
 断るか?それとも…受け入れてくれるだろうか?なんてドキドキと高鳴る鼓動を抑えながら紅からの言葉を待っていると何故か予想外な人が俺の名を呼んだ。

「竈門少年‼‼‼」

 何故か俺の名を呼んだのはキメツ学園の教師である煉獄先生だった。
 俺は突然のことに驚き目を丸くさせ、周りも「え⁉」「ま、まさか…煉獄先生も壱師さんのこと…」とざわざわとし始めたことで俺の心に一気に不安が押し寄せた。
 嘘だ、そんな事無いはずだ。紅と煉獄先生に特に接点など無かった筈だ。紅は何時も煉獄先生の授業中は眠そうにしていたし煉獄先生も紅に対して好意の匂いなどさせていなかったのに‼違う、これは違う筈だ‼
 俺は不安気に下にいた善逸達に視線を向けたが、皆何故か俺から目を逸らした。

 う、嘘だ‼‼俺は、そう思いながら煉獄先生に視線を向けると煉獄先生は真っ直ぐに俺を見つめ、大きな声でこう言った。

「いちのへ少女は此処に来る際に不死川の頭に誤って飲んでいた苺牛乳をぶち撒けてしまい、ブチギレた不死川に絞め落とされてしまったので保健室にて休養中だ‼‼」

 残念ながら此処には今、居ない‼‼と告げた煉獄先生の言葉を理解出来ず、俺は数秒間固まった。

 え?居ない…? ぶち撒けた?苺牛乳飲んでたのか?可愛い。いや、違う。締め落とされた?不死川…?玄弥…いや、違う。煉獄先生が云うなら数学の方の…、??…保健室…?? えっ??
 
「長男でも今の状況は…無理だ…」

 煉獄先生の言葉と状況を理解した瞬間、ショックと羞恥心で俺は再び膝から崩れ落ちたのだった。