炭治郎くんの恋は、うまくいかないシリーズ2
ポッキーの日ネタ

※キメ学設定 炭治郎視点

「え⁉炭治郎、ポッキーの日知らないの⁉」

善逸の声がコンビニの中に響き渡り、俺は慌てて善逸に「声が大きいぞ、他の人に迷惑だ」と注意をすると善逸は小さな声で「それは、ごめんなさいねぇ‼」と謝ったが、その表情は先程の俺の言葉が有り得ないと言いたげな表情をしていた。

 事の発端は伊之助と善逸と遊んだ帰りにコンビニに寄ったのが始まりだった。
 中に入り、一目散に伊之助はお菓子コーナーへと駆け出し俺と善逸もその後を追う様にお菓子コーナーへと向かった。
 陳列された棚には新発売等と商品が目立つ様に彩り豊かに描かれたポップ広告ついており、目を惹くものも多かったのだが、俺は不意にひとつの商品が矢鱈と陳列棚に多いことに気がついた。
 人気お菓子メーカーが出しているチョコスティック菓子・ポッキーが多いのだ。
 其れも陳列棚の二段目ぐらい迄、全部味が違うが同じポッキー関連の商品が並べられているのである。
 俺がその光景を不思議そうに見ているとひとつのポップ広告が視界に入った。

「“恋人や意中のあの人とポッキーゲームでも如何?”」

ポッキーゲームってなんだ?っと俺が思わず呟き、其れを聞いた善逸が先程の様に声を上げたのである。
 善逸は俺の呟きに驚いた様な様子だったが、そんなにポッキーゲームとは有名な遊びなのだろうか?
 それなら多分、遊ぶことの大好きな下の子達だって騒ぐ筈だが、今までそんな遊びなど耳にしたことなどなかった。
 そんなに楽しい遊びなら教えてやらないと!と意気込んだ俺だったが、ポップ広告の【恋人や意中の相手】とゲームをプレイする人が限定されていることに気がついた俺は、そのことを不思議に思っていると俺の疑問を音で感じ取ったのか、善逸は大きな溜息を吐きながら「炭治郎って本当、こう云うの疎いよなぁ」と呟き、俺にポッキーゲームについて教えてくれた。

「良い? ポッキーゲームって云うのは男女二人がポッキーの両端をくわえて同時に食べ進めるゲームなの」
「えっ?」
「そんで先に口を離した方が負け」
「えっ⁉ だ、だってお互い食べ進めたら、せ、せ、接吻…」
「…お前、言い方古くない⁉いつ生まれだよ‼ って、あぁ、もう良いや。 そうなの‼口を離さずに食べ切った場合はキスすることになんの‼ だから、意中の相手か恋人でしかしないの‼」

それに11月11日は、ポッキーの日だもんなぁ。俺も可愛い女の子としたーい‼と云う善逸の言葉など俺の耳には届かず、善逸から語られたポッキーゲームの内容だけがぐるぐると頭を駆け巡る。
 ぽ、ぽ、ポッキーゲームは、そんな破廉恥で大胆な遊びだったのか‼‼赤く熱を持つ頬を落ち着かせる様に俺はグッと息を飲み込んだ、その時だった。

 一人の少女の姿が脳裏を過ったのである。

 紅い瞳を持つ、同じクラスの黒髪の少女で俺の片想いの相手である壱師紅の姿が脳裏に過ったのだ。
 俺は彼女に好意を寄せている。其れは、もう本当に己でも吃驚するぐらいに彼女が大好きだ。
 そんな俺が惚れた少女は一筋縄ではいかない子で一言で言えば、俺を困らせる天才なのである。
 いや、多分、紅に悪気は無いけど…本当に天才なのだ。
 紅は悪戯好きで常に無表情で感情の読み取りづらい子なのだが、本人は表情が豊かだと思い込んでいるところがある。 しかも彼女は、かなり人とズレた感性の持ち主で、この間の美術の授業でも好きなものを描けと云うお題に対して描いていたのは「羊羹」だった。
 四角を黒く塗り潰しただけの其れに彼女は「美味しそう」と満足気だったのを覚えている。
 そんな彼女に恋をした俺は、関わりを持とうとアタックした。 そして告白もしたのに伝わっておらず、この間だって某人気番組の企画を通して告白したのに本人は数学教師に絞め落とされ、保健室に行っており、俺の告白を聞いてもなかった。
 (因みにあの回が、全国に放送されるかと思ったが、カットされてて本当に良かったと思った)

だが、俺は諦めてはいなかった。
必ず、俺は紅へと俺の想いを認識してもらうと強く心に決めていた。
 そうだ‼その手段として今回、このポッキーゲームを使おう。善逸は俺が知らなかったことにを驚くぐらいだ。ならば、俺以外の人間は、このゲームを知っていると云うことだろう。
 もしそうなら紅だって知っている筈だ。うん、紅をポッキーゲームに誘う。其れに紅が頷いたら…此れは俺の想いが伝わったと思っても良いだろう‼

 俺は大きく頷き、心の中で決心すると紅とポッキーゲームをする際に必要なポッキーを選ぶことにした。
 善逸が横で「えー、あの紅ちゃんだよ?無理じゃね?」と言っていたが、真剣にポッキーを選ぶ俺の耳には届いていなかった。

     ♦♦♦♦♦

11月11日当日

 俺は朝からそわそわと落ち着きが無かったと思う。
 鞄の中に忍ばせたポッキーを持ち、いつ紅に声を掛けようかとずっと様子を伺い、そわそわとしてしまっていた。
 そして現在、昼休みの時間…
 今日は紅は学食では無く、お弁当の日だったらしくで別のクラスの友人であるカナヲと共に俺と同じ教室、しかも隣の席でご飯を食べていた。
 お弁当のおかずなのか、茄子の煮浸しを食べる横顔は無表情ながらにも嬉しそうに見えた俺は思わず苦しくなった心臓を片手で押さえていると善逸が引いた様な目を向けてきたのは気にしないことにした。

 少ししてお昼を食べ終えた紅は静かにお弁当箱を鞄に仕舞ったのを見た善逸が食べていたポテトチップスをカナヲと紅に差し出した。
 二人とも礼を言いながら善逸や伊之助と会話をしているが、俺はどうやって紅を誘うかで悩み、思わず口数が減ってしまったことに気がついた紅が俺の方へとその紅く色付いた瞳を向け、不思議そうに首を傾げた。

「炭治郎くん、どうかしたんですか?」

 拾い食いでもしましたか?と尋ねてくる紅に俺は拾い食いはしてないから大丈夫だと返事をすると紅は小豆ミルクと文字が書かれた紙パックの飲み物をちゅーっと音を立てて飲んだ。その姿が俺の目には可愛く見え、また胸を押さえそうになったが隣から感じた冷ややかな視線にグッと堪えた。
 前から言いたかったが善逸は俺が紅にときめいているとき凄い表情をするが、善逸は俺以上に恥を晒しているからな。俺は本人には気づかれないように噛み締めてるんだから迷惑は掛けていないぞ!
 そんなことを思いながら数秒、深呼吸を繰り返し落ち着いた俺は覚悟を決めて鞄の中にしまっていたポッキーの箱を持つと緊張しながら紅の名を呼んだ。
 なんですか?と振り返る紅に俺の心臓はどくどくと高鳴り、善逸が「めっちゃ心臓の音うるさいな⁉」と云うのが聞こえたが、心の中で謝りながらも俺の視線は紅から外すことは無かった。
 さぁ、やるぞ。俺なら出来る。絶対に言える‼頑張れ俺‼恥じらいを捨てろ‼ 周りに人が居るが此れを乗り越えれば紅との暖かな未来が待っているんだ‼

「べ、紅‼」
「はい。なんでしょうか?」
「お、俺と‼‼」
「はい?」

 不思議そうな表情をする紅に俺は頭を下げながら赤い箱を両手で差し出した。

「俺とポッキーゲームをしてください‼」

 よし‼言った‼言ったぞ‼横で善逸が驚いた顔をしているが‼カナヲの目つきがちょっと険しくなっているが‼伊之助がお菓子を食べているが‼‼俺は‼きちんと言ったぞ‼‼
 さぁ、紅‼どうするんだ。君は俺になんと返してくるんだ?
 ポッキーゲーム…俺は知らなかったが紅は知っている筈だ。ならば、絶対俺の想いが伝わるはずなのだ‼っと思いながら俺は紅へと視線を向けた。
 紅は静かに俺が差し出したポッキーの赤い箱をじーっと見つめた後、俺へと視線を移したかと思うとゆっくりと先程まで飲み物を飲んでいた甘そうな唇をゆっくりと開いた。

「良いですよ」
「……へっ?」
「「えっ⁉」」

相変わらずの無表情で淡々と言った紅の言葉に俺は思わず声を上げ、横ではカナヲと善逸が驚いた様な声を出していた。
 俺の聞き間違いで無ければ、紅は今、俺とポッキーゲームをするのを了承…し、たのか?それってつまり……俺の想いがやっと通じたと云うことではないか⁉⁉
 俺は、そのことを理解すると同時に腹の底から暖かくて苦しいものが溢れてくる様な感覚を覚えた。心臓は此れまでに無いくらいドキドキと高鳴り、甘く締め付けられる。
 嬉しい‼物凄く嬉しい‼心が通い合うと云うことはなんと素晴らしいことなのだろうと俺は思った。
 長かった。自分を鼓舞して頑張った努力が今、報われたんだ。努力は無駄じゃ無かったんだと俺は心の中で噛み締めた。

 だが、俺は忘れていた。
 紅は俺を困らせる天才だと言いたことを…

「でも、ポッキーゲーム 一箱じゃ無理ですよね」

紅が言ったその言葉に俺は違和感を覚えた。
 ポッキーゲームは一本のポッキーを両端から食べ進めていくゲームだ。俺が持ってる一箱で充分に足りる筈だ。
 其れなのに紅は【一箱じゃ無理】と言ったのだ。【一本】では無く【箱】だと…

そのことに気がついてしまった俺の背中に嫌な汗が伝う。ドキドキと熱く高鳴っていた心臓はヒヤヒヤしたものに変わっていく。
 俺は恐る恐る、紅に「ポッキーゲームのやり方知ってる、か?」と尋ねると紅はコクリと頷き、こう言った。

「ポッキーゲームってポッキーの箱を縦に積み上げて行き、倒したら負けってやつですよね?」

小さい頃に幼馴染の玄弥くんと一緒にポッキーゲームの遊び方をさねさん(不死川先生のこと)に聞いたら、そう言ってましたよ。と言った紅に俺は唖然とした後、頭を抱えた。

 俺の知ったポッキーゲームと紅の知っているポッキーゲームが全く持って違った。違っていたのだ‼
つまり、俺がそわそわと伺っていたのも覚悟も決心も全て…泣きたくなるくらい無駄だったのである。 

 そんなぁ…今回は上手くいったと思ったのに…
確かに下心はあったけど、少しだけ…ほんの少しだけだったのにあんまりだぁ…
 頼む。頼むからカナヲも善逸も俺を可哀想な人を見る目で見ないでくれ‼伊之助の様に気にせず、
お菓子を食べててくれ‼なんなら、このポッキーも食べてくれ‼今はちょっとこの赤い箱を見たくない‼‼

 その日、家に帰ってから作ったパンは、塩っぱくて売り物にならなかった。