※キメツ学園設定
今年も残すところ後、数週間となった頃、午前中の授業を終えた炭治郎はクラスメイトである我妻善逸と嘴平伊之助と昼食を取りながら自家製のパンを片手に何処か思い詰めた様な表情をしていた。何時もとは違う炭治郎に善逸は自身の弁当を食べながら炭治郎に何かあったのかと問い掛けると炭治郎は善逸の問い掛けに対して困ったように笑みを浮かべるだけだった。
「何かあったら言えよ。そりゃ、頼りないかも知れないけど…俺たち友達だろ?」
何処か不満そうな、何処か照れた様な表情で言う善逸に炭治郎は、きょとんとした表情を見せるとニコッと微笑み「ありがとう、善逸」とお礼を言い、「実は…」と話を続けようとした時だった。今まで黙って炭治郎が自宅のパン屋から持って来たパンを頬張っていた伊之助が口の周りにパン屑をつけながら「あれだろ?権八郎はクリスマスの日に鼈甲をでぇとに誘いてぇって話だろ?」とさらりと言ったのである。
伊之助の口から語られた言葉に善逸はピタリと動きを止め、炭治郎は「伊之助!俺の名前は竈門炭治郎だ‼後、鼈甲じゃなくて紅だからな‼」と伊之助の己と同じクラスメイトで炭治郎の想い人である壱師紅の名前を訂正するように伊之助に注意をしていた。
「陰っ子の名前、覚え難いんだよ‼」「陰っ子じゃない‼紅だ‼」と騒ぎ立てていた伊之助と炭治郎は何かを感じ取り、ピタッと動きを止めた。伊之助は肌がピリピリと痺れる痛みを感じ取り、炭治郎は何処からか怒りが篭った匂いがする事に気がつき、その痺れる痛みと匂いの発生源の方へと二人はゆっくりと顔を向けると箸を片手に顔を少し伏きながらわなわなと肩を震わせる善逸の姿があった。
「お、お前、何怒ってんだよ!」
「善逸…?」
伊之助が声を掛け、炭治郎が善逸の名前を呼んだ瞬間、善逸が持っていた箸がバキッと音を立てて折られた。そして大きく息を吸い込む音が聞こえたかと思うと弁当を机にバンッと勢い良く置き、炭治郎の制服の襟元に掴みかかった。
「ぜ、善逸⁉」
「おうおうおう‼炭治郎さんよぉぉぉ⁉折角、人が悩みを聞いてやろうと思って声を掛けたら、
何だぁぁ⁉紅ちゃんをデートに誘いたくて悩んでただとぉぉ⁉⁉この‼裏切り者め‼そうだよね‼クリスマス近いもんな⁉そりゃ一緒に過ごしたいわよね⁉⁉何?なんなの⁉⁉彼女が居ない俺に対する嫌味なのぉぉぉ⁉⁉はぁー、やだやだ‼‼」
止まることのない善逸の言葉に炭治郎は慌ててクラス中を横目で見渡した。何人かは此方を見ている人が居たがそれ以外は「まーた、我妻が暴れてるぞぉー」と言う様に流しているのか特に気にした様子も無く昼食が続けられていた。大声で呼ばれた紅に至っては仲の良いカナヲと共に食堂に行っている為、その場には居らず、炭治郎はそっとして胸を撫で下ろした。
そんな炭治郎の姿を見逃さなかった善逸は素早く「お前、今、紅ちゃんいないか確認しただろ‼‼」と指摘して更に怒りを露わにしたかと思うと突然、スンッと静かになった。
そんな善逸に嫌な予感を感じた炭治郎は頬を痙攣らせると善逸の名を呼んだが善逸はニヤリと悪そうな笑みを浮かべ口を開いた。
「お前だけ良い思いさせるか‼」
そう叫びながら善逸は炭治郎の頬にぶすっと人差し指を押し付けた。
その言葉の通りに善逸は実行したのである。
クリスマスに紅を誘おうとしていた炭治郎より先に素早く善逸は「みんなでクリスマスに鍋パしよ‼」とスマホのトークアプリで親しい者だけで作ったグループトークに送ったのである。そのグループトークのメンバーの中にはガッツリと炭治郎が誘おうとしていた紅も入っており、トークを見た炭治郎に善逸は悪い笑みを浮かべながら「ふふふ、先手必勝‼」と呟いたのであった。
善逸の突然の行動に額を抑えながら炭治郎がうな垂れていると「どうしたんですか、炭治郎くん」と炭治郎を心配する様な言葉が聞こえ、炭治郎はすぐ様顔を上げた。
ハーフアップに結い上げた黒い髪を揺らしながら紅が無表情で林檎ジュースを片手に炭治郎の前に立っていたのである。紅の隣にはカナヲも居り、林檎ジュースを持つ紅の手とは反対の手のカーディガンの袖をキュッと掴み、此方は炭治郎を不思議そうに見つめていた。
「食あたりでも起こしましたか?大声で救急車呼びましょうか?」
「そんな原始的な救急車の呼び方しなくても俺の腹は大丈夫だぞ‼」
炭治郎がにっこりと笑うと紅は「そうですか、なら良かったです」と無表情で手に持っていた林檎ジュースのストローに口を付け、ちゅーっと飲んでいるとカナヲがくいくいと紅のカーディガンの裾を引っ張り「トークの返事しなくて良いの?」と紅の顔を覗き込むようにして言うと紅は「あぁ、そうでしたね」と思い出したかのように炭治郎から視線を逸らし善逸へと顔を向け、善逸の名を呼んだ。
「なになに⁉さっきのトークの件かな⁉」
白々しくにこにこと笑みを浮かべながら紅とカナヲに近づく善逸に炭治郎はムッとした表情を見せた。本来ならば炭治郎は頑張って想い人である紅をデートに誘うつもりでいた。水族館に行こうか、それとも遊園地にしようかなんて雑誌を読んだり妹達にさり気無く相談してみたりしていたのに…そんな炭治郎の努力?に気づいていたのか、伊之助がポロリと炭治郎の考えを善逸に漏らしてしまったが為に更に紅と距離を縮めようと思っていた計画が水の泡となってしまった。
伊之助が悪い訳ではない。炭治郎自身もまさか伊之助が感づいていたなんて気づいて無かったし知らなかったのである。
何とも言えない感情が炭治郎の心の中をぐるぐると駆け巡っていた。
「で?紅ちゃんは参加する?」
「うーん、カナヲは参加しますか?」
「………….紅が居るなら行きたい…」
紅のカーディガンの袖を掴みながらもじもじと恥ずかしそうに言うカナヲに善逸は可愛いなぁ‼とカナヲを見ながらデレデレとしており、紅は特に表情が変わる事無く、何か考える素振りを見せたかと思うとゆっくりと艶やかな唇を開いた。
「そうですね、私も鍋パのお鍋を炭治郎くんが作ってくれるなら行きたいです」
「この間、料理は火加減とドヤ顔で仰っていたので食べてみたいです」と無表情でチラリと紅い瞳を炭治郎に向ける紅に炭治郎は頬が熱くなった。
特に意図など無く、偶々炭治郎が話していたことを紅は思い出しただけなのだろう。だが、クリスマスと言う大事な日に己の手料理が食べれるなら参加したいと想い人が言っているのだ。まるで一緒に過ごしたいと言われているかのように聞こえてしまい、炭治郎の胸はドキドキと鼓動が早くなって行く。
「もしかして、炭治郎くんは参加しない予定でしたか?」
「いや‼‼参加する‼‼全力で‼‼丹精込めて‼‼完璧な鍋を作ってみせる‼‼」
突然、やる気に満ち溢れた表情を見せる炭治郎に善逸は飽きれたような表情を見せ、紅は不思議そうに首を傾げながら「??頑張ってくださいね」と炭治郎に声を掛けたのであった。
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