我妻善逸は目の前に立つ友人である、竈門炭治郎の行動を冷ややかな目で見ていた。
 目の前に広がるは自身と炭治郎の通うキメツ学園の校舎である。
 その真前に聳え立つ、立派な門の前でことは起こった。
 色々と割愛するが、前世で夫婦だった竈門炭治郎とその妻である壱師紅は、つい先日再会を果たしたのである。しかも、お互いに前世の記憶があり、お互いを想う気持ちも前世と変わらず、寧ろ前世よりも今世では強まったものとなっていた。
 ずっと待っていた。会いたかった。好きだ。大好きです。愛してる。今世でもお嫁さんにしてくださいね。なんて、再会を果たして熱い抱擁を交わしたのは炭治郎と紅の記憶に新しいものだった。
 そんな二人の再会は前世で関わりのあった者達にとっても喜ばしいことであった。
 良かったなぁ!なんて皆が炭治郎と紅の再会を祝福してくれたし、炭治郎の友人である善逸も伊之助も心から喜んだのだが…そんな二人の間にはひとつだけ障害と呼べるものがあった。
 それは途轍もなく大きいもので、ある意味恐ろしいものでもあった。下手すれば、犯罪になりかねないかもしれないなんて考えも善逸の脳裏を過ぎったが、当の本人である二人…と云うか片割れである紅が気にしている感じがなかったのである。

 そう、その障害と云うのが【歳の差】と云うものであった。

 現在の炭治郎は善逸と同じキメツ学園の高等部に通っている十五歳なのだ。
 其れに対して前世で嫁だった紅は現在、小学二年生の八歳なのである。つまり、幼女なのだ。ロリなのだ。
 そのことに炭治郎も当初、頭を抱えた。簡単に触れてはいけないと思い、触れることは我慢しようとしていたのだが、当の本人である幼女は気にすること無く、寧ろ前世よりも積極的に炭治郎の元へとやってくるので炭治郎は早々に変に対策を取るのは諦めたのである。
 いや、諦めるなよと善逸は心の中でツッコミはしたが、口にするとややこしくなりそうなので口にするのはグッと耐えた。
 前世も今世も、そっと友人として炭治郎を見守ろうとずっと善逸は思っていた。だが、前世でも今世でも時折、炭治郎の行動に対してそっと見守るでは無く、冷ややかな視線をむけてしまう時があった。

 それが紅のことで暴走した時である。
 炭治郎は前世から人と感覚がズレている紅に振り回されていることが多かった。しかも、紅は不意に炭治郎の心臓に悪いデレを見せたり、意図的なのかは分からないが、炭治郎を翻弄したりすることがあった。
 それに対して炭治郎も振り回されては変な方向へと考えてしまうこともあり、それが暴走に繋がることもあった。
 つまりのところ、しっかり者である炭治郎も愛しい紅が関わるとポンコツに成り果てることがあったのである。

 そのポンコツ行動が今、善逸の目の前で現在進行形で行われているのである。

 事の発端は紅が登校してきた炭治郎達の前に現れたのが原因である。
 つい先日まで父親の仕事の都合上、アメリカに住んでいた紅はキメツ学園の初等部に本日から編入予定だったのだ。
 肩で切り揃えられた黒髪を揺らし、初等部の可愛らしい制服とアメリカの学校では無かった、自身の瞳と同じ紅いランドセルを背負った紅は前世と同じように今世でも影が極端に薄く音も匂いも気配も無く、登校してきた炭治郎達の前にぴょっこりとその小さな姿を見せたのである。
 それまではまだ良かった。現れて挨拶を交わしたまでは良かったのだ。

「おはよう、紅」
「おはよう、紅ちゃん」
「おはようございます。たんじろうくん、あがつまくん」

 現れた紅は炭治郎達に挨拶をすると紅い瞳をじっと炭治郎へと向けた。
 視線を向けられた炭治郎は、にこにこと朝から愛しい人に会えた嬉しさからか、いつもよりも輝いている笑顔を紅へと向けた。
 炭治郎は優しい表情で「どうしたんだ、紅」と紅へと声を掛けると紅は炭治郎へと目線を向けたまま、ゆっくりと唇を開くと炭治郎の心臓を鷲掴みにする一言を放ったのである。

 無表情ながらにも少し頬を染めた紅は年相応の仕草を見せながら恥ずかしそうに炭治郎に言ったのだ。

「らんどせるとせいふくすがたをたんじろうくんにみてほしかったんです」

——にあってますか?

 身長差によって生み出された上目遣いをしながら紅がそう言った瞬間、善逸の耳に何処からか【ぎゅんっ】と変な音が聞こえた。かと思うと次にはドンドコドンドコと誰かが和太鼓をこれでもかと言いたげに叩く音ような音が響いた。
 善逸は突然のことに思わず、声にならない悲鳴をあげながら両耳を自身の両手で塞いだ。それでも聞こえる和太鼓の音に善逸は恐怖で震えていると静かに立っていた炭治郎が自身の制服のポケットからスマホを取り出し、カメラ機能にするとカメラを紅へと向けた。

 そして無言で連写し始めたのである。

 カシャカシャカシャと鳴り響く連写音と無言の炭治郎。それを気にすること無く、静かに不思議そうに首を傾げる事の発端である紅と何故か先程から善逸の視界にちらつく、紅と炭治郎の行動を遠くから見ては大爆笑しているキメツ学園美術教師である宇髄天元と云う、混沌とした光景に善逸は思わず音のことも忘れて遠い目をした。

 それでも鳴り響くシャッター音。
 そろそろ50枚以上撮っただろ、もう満足だろ?な?止めろ。もうやめなさい‼︎と善逸が恐怖のあまり本人には言えずに心の中で炭治郎に注意していると鳴り響いていたシャッター音はピタリと止んだ。
 炭治郎は満足した様に静かにスマホを自身の制服のポケットに仕舞い込むと紅へと赫灼の瞳を向けた。紅と炭治郎の目線が再び、交わうとそわそわと少し待ち遠しさを隠しきれない紅は再び、炭治郎に向かって唇を開いた。

「………たんじろうくんにほめてほしいです」

 そう言って、無表情ながらにももじもじと恥ずかしそうに炭治郎の言葉を待つ紅に炭治郎の胸はパーン‼︎‼︎と射抜かれた。
 そしてその音と同時に炭治郎は両手で服の上から胸を押さえたまま、地面に膝をつけたのであった。

「俺の嫁が…こんなにも可愛い…」
「はいはいはいはい‼︎良かったですね‼︎‼︎‼︎一々、お前らに付き合ってらんねぇよぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 善逸は此れからも頻繁に起こるであろう光景に頭を悩ませたのであった。