※キメ学設定
炭治郎くんの恋は上手くいかないシリーズ

 「紅の好きなタイプはどんな感じなんだ?」

 壱師紅に好意を寄せる竈門炭治郎は高鳴る鼓動を抑えつつ、何気ないお昼休みの友人同士の会話の最中、紅へと尋ねた。

 炭治郎と紅の周りには二人の友人である嘴平伊之助や我妻善逸、栗花落カナヲが購買で購入したお菓子を摘みながら会話をしている。他にも炭治郎達が集まっている筍組の教室の中には多くの生徒が其々好きな様に昼休みを過ごしている。
 そんな中、炭治郎は意を決したかの様に意中の相手である紅に緊張していることを悟られることのない様に一番、聞きたかったことを尋ねた。
 紅は人と変わった感性…そして考え方を持っていた。
 それが災いしてか、炭治郎が何かと紅へとアプローチをかけても気づいてもらえない。それどころか、タイミング悪くその場に居ない・邪魔されるなど炭治郎にとっては不運と言いたげな様々な出来事があった。
 しかも紅自身、炭治郎のことを如何思っているのかも分からない。炭治郎の想いに気づいていない様な雰囲気を出しながらも時折、炭治郎の心臓を驚かす様なデレを見せる時もある。かと思えば、また炭治郎の想いに気づいていない様な表情や言動を見せる。毎日毎日、紅の言動に炭治郎は一喜一憂するばかりだった。
 紅は自身と同じ様な想いを持ってくれているのだろうか、それとも違うのだろうか。うずうず、うろうろともどかしくて中々上手く進まない状況に炭治郎は悩んでいた。
 だけど、芽生えた紅への想いを捨てると云う選択肢は炭治郎の中では無かった。

 そして、悩みに悩み抜いた結果、炭治郎は【行動の原点】に戻ると云う答えを出した。
 原点に戻り、ひとつずつ紅の情報を整理するのだと…
 嫌いになることはきっとない。寧ろ、好きだと言う気持ちが更新されていくのだろう。そんなことを思いながら、バレンタインが近いことから善逸が【理想の恋人】の話をし始めたことををきっかけに炭治郎は先程からずっと無表情でスマホを見ていた紅に対して勇気出して冒頭の言葉を尋ねたのであった。

 突然の炭治郎の問い掛けに話をしていた伊之助や善逸、カナヲ達が会話をしながらチラチラと炭治郎と紅に目線を向け、バレないように二人の会話に聞き耳を立てながら会話を続ける。
 一方、炭治郎から好みのタイプを尋ねられた紅は相変わらずの無表情で静かにスマホを見つめたまま、数秒の間の後にゆっくりと唇を開いた。

「そうですね…」

 静かな声色の紅の声が炭治郎達の間に響く。炭治郎がゴクリと息を飲み込み、会話をしていた筈の善逸達の話声もピタリと止んだ。

「私の好みのタイプは…」


——…ゴーストタイプですね。


 その瞬間、誰もが「はっ?」と声を挙げた。


 ごーすとたいぷ?はっ?なにそれ?と紅以外の皆が皆、同じ様な反応を見せた。
 そして突然、変わった空気感が紅にも伝わったのか、自身のスマホから視線を外し、炭治郎達に視線を向けると不思議そうに首を傾げた。 紅の発言に各それぞれ驚きで動きを止めるなか、質問をした炭治郎は驚きに加えて、脳内が混乱していた。

 ごーすと?ごーすとって、あのゴースト?つまり、そのあれか?幽霊…?いや、あの、例え変わった感性を持っている紅でも幾らそれはないだろう。きっと違う、勘違いだ。うん、多分違う。いやでも…ゴースト…幽霊…好きなタイプはゴーストタイプ…つまりそれって…

「べ、紅は…し、死人が好きなのか⁉︎⁉︎」
「はぁ?」

 炭治郎の言葉に今度は紅が無表情だが「何を言っているんだ、この人は」と言いたげな雰囲気を見せた。
 側から見れば、炭治郎と紅の両方に「いや、お前ら二人共に何言ってんだと言いたいんだけど」と云う想いであるが、口を挟むと更に話が拗れそうな気配を悟った善逸はグッと唇を噛み締めて耐えた。その隣では伊之助が何とも言えない面倒臭いと言わんばかりの表情を浮かべており、カナヲは困った様な表情をしている。
 だが、そんな三人のことなどお構いなしに炭治郎は混乱。紅はそんな炭治郎を珍獣を見る様な視線で見つめている。

「し、死体愛好家…⁉︎⁉︎」
「炭治郎くん、ちょっと言ってる意味がわかりません。あと、私にそんな変な性癖はありませんよ」
「俺は長男だが、それはちょっと無理だ‼︎‼︎出来ない‼︎‼︎」
「いや、誰も炭治郎くんに死んで欲しいとは思ってませんよ。それに【ちょっと無理】どころの話じゃ無いですし」
「だって紅が……っ‼︎‼︎‼︎」
「取り敢えず、落ち着いてください。ほら、ひっひっふーですよ、ひっひっふー」
「紅ちゃん、それは何か違う呼吸法だからやめてあげて‼︎‼︎」

 混乱している炭治郎に対して紅は冷静に受け答えをしながらポンポンと背中を撫で、間違った呼吸法をさせようとしている光景に善逸は我慢出来ずに思わず声を挙げた。
 このままでは一方に埒があかないと思った善逸は先ずは混乱している炭治郎を落ち着かせるように炭治郎の名を呼んだ。すると炭治郎は先程の呼吸法とは違い、何度か大きく深呼吸をすると少しだけ落ち着きを取り戻したのか困った様に苦笑いを浮かべながら「すまない、ちょっと混乱してしまった」と言った。
 それに対し、炭治郎の混乱の原因となった言葉を発した紅は静かに炭治郎に視線を向け、悪びれた様子もなかった。

「危うく、危険な性癖を持った女の汚名を着せられるところでした」
「ご、ごめん。だ、だって紅が好きなタイプはゴーストタイプって答えたから…」

 焦った表情を見せる炭治郎に紅はコテンと首を傾げた。「はて?何かおかしいところがありますか?」と言いたげな仕草に炭治郎も意味が分からず、紅と同じように首を傾げていると小さくため息をつき、今まで黙っていたカナヲが口を開いた。

「紅、炭治郎が聞いた好みのタイプって言うのは【異性の好みのタイプ】の話であって…」

——ゲームに登場する、魔物のタイプの話じゃないよ。

 カナヲの言葉に炭治郎と善逸は「えっ?」と声を挙げた。
 その隣では興味を無くした伊之助が持ち寄ったお菓子をボリボリと食べる音が聞こえる。
 炭治郎も善逸もカナヲの口から出た言葉を一瞬、理解することが出来ず、ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返した。

「あ、なんだ。そっちの話じゃなかったんですか」

「欲しいゲームソフトの購入画面を見てた時に尋ねられたので、てっきりそっちの話だと思ってました」と告げる紅の言葉に炭治郎と善逸は唖然とし過ぎて何も言えなかった。

 数秒後、先に我に返った善逸が「いや、普通はタイプと聞かれたら異性の話に決まってるでしょ⁉︎」と紅へと言うが、紅はムッとした表情をして善逸にぐいっと己のスマホ画面を押し付ける様に見せた。
 購入画面と表示されたその画面から本気で紅がゲームソフトを購入するか迷っていたのだと理解した善逸は「何なのよ本当‼︎‼︎因みに俺はこれが良いと思います‼︎‼︎」と自分がゲームをする訳でもないのに自身の考えを主張しておいた。
 一方、原点に戻ると意気込んでいた炭治郎は勇気を出して聞いたのにも関わらず、相変わらずの紅のズレた言動により混乱して醜態を晒してしまったことに対して恥ずかしくて煉獄先生が極たまに口にする「穴があったら入りたい‼︎」状態に陥っていた。
 長男なのに冷静に判断できなくて情けない…不甲斐ない…と落ち込む炭治郎に気がついた紅は善逸から離れ、落ち込む炭治郎の顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか?」
「うん…大丈夫だ…ごめん…」

 ずぅーんっと重い空気を背負う炭治郎に原因である紅は不思議そうに首を傾げ「そうですか」と静かに言った。
 原点に戻る。そう考えた炭治郎だが、自身の四角四面な性格と紅のズレた性格は相性があまり良く無いのか、ひと騒動を起こさずに平和に物事を進めるには難しいのだと改めて思ってしまった。
 だが、だからと言って諦める気などはない。何でも譲ってきた優しい炭治郎が初めて求めたのが存在がこの壱師紅なのだ。だから、逃げもしない。誰かに譲りもしない。
 どうせズレた行動で返されるのならば、更にその先へ突き進むしかないのだと炭治郎は心の中で静かに再び闘志を燃やしたのだった。

「あ、ちなみに好みのタイプは掃除とか家事が好きな人ですね。私の代わりにしてほしい」

——……紅の言葉に炭治郎は小さくガッツポーズをした。
 まだ、望みはあるかもしれないと緩む唇をバレない様に噛み締めた。