01
ハゲてる団子屋の店主はだいたいセクハラ


今日は快晴。

浮かれ気分で、バイト先に向かう。
ここのところ、雨続きだったから。
傘差してても、ブーツが濡れるわ、中まで染みてくるわ、傘が折れるわ、髪の毛セットしたの意味なくなるわ、で散々だった。
だから、久しぶりの快晴で気分上々。

「おっはよーございます!!」
「あれ?名前ちゃん、今日は元気だね?」
「晴れだからですよ店長!店長の頭はハゲですけどね!!」
「え!?なにそれ、関係なくない!?僕の頭と天気はまったく関係なくない!?てか、まだハゲかけなんだけどォォォ!!」
「ハゲかけもハゲも大別すれば同じです!」

あたしがこのハゲ店長の下で働くようになったのは、つい1週間ほど前。
面接行ったら即オッケーが出て、すぐ働かせてもらった。
その次の日から、雨雨雨雨…と続いて、今日に至る。

「名前ちゃん!早く着替えて!今日は団体のご予約さん来られるから!」
「え!なにそれ、聞いてないですよ!?団子屋に団体って聞いたことないですよ!?」
「いいから、いいから。」

ハゲ店長は、あたしをバックルームに行かせるように背中を押した。

なんだか嫌な予感がする。
てか、嫌な予感しかしない。
1人、バックルームでふとそんなことを思いながら、でも身体は勝手に動いてくれる。
気付けば、仕事着に着替えていた。
まあ、せっかくの快晴だし頑張ろう。
まだ起こってもないことに対してグダグダ考えても仕方ないと判断して、あたしは店内へと入る。

すると、ずらずらとお客さん…あ…天人??

「お、お客さんって天人ですか??」
「そ!天人でもお客さんだからね、いつも通りの接客よろしく!あと、お客さん全員入ったらドア閉めといて!」

仕込んでいた団子をお皿に盛りながらハゲ店長が言う。
ドアって初めて閉めるなぁ。
まあ、この状態じゃ座る席も無いんだし閉めてて正解かな。

「いらっしゃーい!」
といつも通り大きな声で、お客さんを出迎え、外を覗いて、残らず入ったことを確認してからあたしはドアを閉じた。

がやがやとお客さんたちはそれぞれ思い思いの場所につく。
顔を眺めていれば、小さいのもいれば大きいのもいて、キツネとかネズミとかヒョウとかの動物系と、タイとかタコとかの魚介類系が主だった。

てか、タコのあの触覚キモッ!!
うねうねしてるし、キモッ!!
こいつら、本当に団子食べるの??

「おい!!ねーちゃん!!」
「は、はははハイ!!」
もしや、心読まれた…?

「さっさと団子、食わせろや。」

うううぅ。
ヒョウ怖い、ヒョウ怖いィィィ!

少し涙目になりながら、『はい、今すぐー!』と走って向こうのカウンターにいるハゲ店長のところまで団子を取りに行こうとした…のだが、


こてっ。


ッた!
あ、あれ?今足出された?
何か引っかかって…。

「おい、ねーちゃん。何転けてんの?パンツ見えたよ」
キツネだ。
こいつか、足出しやがったの…!

「え!?マジで!?俺見えなかったってー。ねえねえ、もっかい転けて?」
今度はネズミ。
こいつか…?

あたしはテーブルとテーブルの間に座り込んだ形のまま、取り囲んでくる天人たちをギロリと睨みつけた。

「色は色はっ?」
「白だよ白。なあねーちゃん。」
「まじで!?清楚系かー。それはそれでソソるねー」
「いや、黒でしょ。」
「いやいや待てってお前ら。ノーパンが1番ソソるだろーが」

ずけずけと。
あたしを取り囲んだ天人たちが口々に話す。
話している内容が、あたしのパンツの色で、胸焼けがしてくる。
しかも、終いにはノーパンだァ?
ふざけんなよ。
セクハラだよセクハラ。
警察呼びましょうか?あァ?

「あのー。ハゲ店長!セクハラされました!!警察呼んでください!!」
「名前ちゃん。大事なお客さん。ちゃんと接客しておくんな。」
「はー!?」

ハゲ店長は、カウンターの向こうでニヤニヤしながら此方をみていた。

「そうそう。それに、あの店長、俺らの味方だしー。警察なんて来ないもんねー。」

ヒョウの天人があたしの前に立ちはだかるようにして立つ。
ギロリと睨みつけても、特に痛くも痒くもないみたいだ。
左を見ても、右を見ても、天人だらけ。
後ろにも天人の気配がするし、四方を取り囲まれている。
ドアも閉まったこの団子屋の店内で、あたしはこれからどうなるのだろう。
そんなことが、ふと頭をよぎる。

こんな人数相手に襲いかかられたら…
どうしようもない。

どうしよう。
どうしたらいい?
どうしよう。どうしよう。
このまま従うのがベスト?
セクハラに耐えるのがいいの?
あたし、セクハラなんかに勝てないの?

そんなのイヤだイヤだイヤだ…!
誰か…、助けて…!!!



「お前ェら。わかってねーな。パンツは見えるか見えないかの瀬戸際が1番ソソるんだろーが。」

突然ドアが開かれた。
勢いよく開かれた店のドアは、勢い余って外れかかっていた。
あたしが望んでいた救世主だろうか。
男は、怠そうな声をしている。
腰に木刀をぶら下げていた。

言葉だけを見れば、セクハラ天人たちと変わらないように思えるが、その目を見たとき、あたしは思った。

これは……


ホンモノの侍の目だ。





2015/9/5
長編スタートさせてしまいました。
だいたいの構想は頭にあるんですが、どうなることやら。
長い目で見ていただければ幸いです(*^^*)
ちなみに、銀さん寄りの逆ハーになる予定。

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