02
剣を握る手はゴツゴツした手



『ホンモノの侍の目だ』

直感でそんなことを思った。
その次に、廃刀令のご時世に、木刀ぶら下げてるなんて何者だろうと思った。
救世主になるかもしれない、しかし何者かよくわからないその男をまじまじと眺める。

「なっ、何者だ!!」

ネズミの中の1人が叫び声をあげる。
団子屋中の天人がすべて、男を見ていた。
自分もあの人が何者か気になる。
妙な出で立ちをしているし、木刀で戦えるとは到底思えないのだ。

男はネズミの声にこう応える。
「あァ?何者って、客だよ客。来ちゃ悪いんですかコノヤロー」
現れた際の第一声と言い、口が悪いヤンキーみたいだ。

「すみまっせーん。今日貸し切りなんですよ、お客さん。また明日にでも来てもらえますか。」
ハゲ店長は相変わらずニヤニヤ顔をしながら、男に帰るよう促す。

「なんだよ。団子屋貸し切りって聞いたことねーぞ。なァ、お嬢さん。」

男と視線がぶつかった。
この室内にあたし以外の女の人はいないので、彼の言うお嬢さんとは、あたしのことだと判断する。
男の顔が、何かを企んでいるように見えた。
ニヤリと歯を見せて笑う。
身体中に電流が流れるような不思議な感覚がした。

「そ、そうです、よね……」

声が思わず掠れた。
それは、例えれば、戦場で目だけで威圧され、勝てないと直感で感じる、そんな感覚。
男の笑顔から漏れ出る圧力をひしひし感じた。
この人は強い、とそう本能で理解した。

「なに言っちゃってんの名前ちゃん!貸切なんだよ、今日は!!」

ハゲ店長は半ば焦り気味に、後ろの方でガヤガヤ言っている。
それにつられるように、ヒョウが声を荒げる。

「そうだよ。俺らの楽しみを邪魔してんじゃねェよ!地球人のくせによォ!!」

その言葉を合図に、木刀を持った男の足は、此方へと向かってくる。

早いッ!!

気付いた時には、ヒョウが後ろへ吹き飛ばされていた。
勿論、その周りにいた取り巻きを巻き込んで、テーブルも何個か壊れて埃が舞う。
あたしはその場に座り込む。
どうやら腰を抜かしてしまったみたいだ。

ダメだ、立てない…。

じたばたしてると、目の前に手が差し出される。
なるほどこれは、侍の手だ。
差し出されたそれを取って、しっかり握ると、身体がふわっと浮く。
ゴツゴツした手は、剣を長く握ってきた侍の手、そのものだ。

「わっ。立てたっ。」
「お嬢さん、この店クソだな。辞めた方が、いいんじゃねーのッ!!!」

あたしを背にして、暴れまくる男は、確かに剣さばきはデタラメではあるものの、次々と天人どもをなぎ倒していく。
何十もの敵をたった1人で斬り進んでいく。

凄い。
単純に凄い、とただそう思って見ているだけしかできなかった。

男が動きを止めた時には、すでに周りにいた天人は床かテーブルの上に倒れこんでいた。
およそ、2、3の天人が尻餅をついて怯えていたが、それ以外はすべて、そうして身動きもできなくなっていた。
口が開きっぱなしで知らぬ間に渇いていた。
慌てて口を閉じる。
すると、それを見られていたようで、男は笑ってこう言った。

「……ふっ。無防備な顔もいいねェ。」
「えっ。…あ。ありがとうございました。あの、お名前を…」
「あ?そうだな…銀さんって呼んでくれよ。」

去り際に銀さんと名乗る男から小さな紙切れを渡された。
よく見れば名刺のようだ。


万事屋銀ちゃん
坂田銀時


「よろずや…?さかた…ぎん、とき…?」
「そ。まァ頼まれればなんでもやるって言う仕事やってるんで。また何か困ったことあったらここ来いよ。」
「なんでもやってくれるんですか…?」
「まあ、それなりの報酬は貰うけどな。でも初回は特別サービスしてやるよ。名前チャン。」

木刀侍。
もとい、坂田銀時は、歯を見せてにっと笑い、あたしに手をぶらぶら振って団子屋を後にした。

それは、あたしにとって、自分の人生を変えたかもしれない、大きな大きな出会いだった。




2015/9/13
坂田さんはいつだってヒーローだな。
次はもっとちゃんと書きます←
がんばるぞー!
とりあえず、はじめましてのお話はこれでおわり。

←BACK
ALICE+