徒花-adabana-
「さくらぁーさくらぁー」
久しぶりの雨で、今年の役目を終えようとしている桜の木の傍ら。
年頃の女が一人。
名を名前。
桜とともに雨に濡れながら、何となく身に染み付いてしまったデタラメな歌を歌っている。
そこにたまたま縁側を通りがかった男が一人。
「名前ー!何やってんのお前。」
「銀ちゃん?やっと起きたの。」
「起きたの、じゃねェよ。待ってろ。動くな、じゃないな。こっち来い、ここで待ってろ!」
「・・・はぁい」
ゆっくり振り向くと、縁側で自分の名を呼ぶ人。銀時は少し怒った風にして叫ぶと何処かへ消えてゆく。名前はそれをぼんやりと眺めては、素直に縁側へと向かう。
縁側に辿り着くとちょうど銀時が戻ってきて、大っきなタオルを名前の頭から乱暴に被せた。
「バカなんですかお前は。つーか、バカだろ。」
その言葉は乱暴でも、名前の頭を拭く手つきはとても優しい。名前も心地よさげに目を細めて、されるがままだ。粗方拭き終わると、銀時はまだ立ったままだった名前を縁側へと腰掛けさせ、タオルを肩へと掛けてやった。
「風邪でも引いたらどうすんの。」
「銀ちゃんに看病してもらおうかな」
「看病すっけど。いや、そういうことじゃなくて。」
「わかってる。ごめんなさい。心配かけて。」
本当に反省して今にも泣き出しそうな顔をした名前を、これ以上叱れるわけがない。銀時は、名前の目の前に座ると無造作になっていた前髪を綺麗に分けてやる。その少しの間名前は目を瞑っていた。それからまた瞼を開けると、信じられないくらい優しい顔が視界に入った。さらに手が伸びてきて、頭をぽんぽんと宥めるようにされれば、これ以上の幸せはないと言わんばかりの笑顔になる。
「あははっ。おかしいの。」
「なァに笑ってんの。さっきまで泣きそうな顔してたヤツが。」
「銀ちゃんの手は魔法の手だね」
「おう、そうなんだよ。だから泣きそうな時はすぐ俺に言え」
「うん、そうする。その手であの桜もまた咲かせてくれたらいいのになぁ〜」
「俺は花咲か爺さんじゃねェんだよ。名前の笑顔を咲かせる手なの、コレは。」
銀時はそう言いながら、自分の手を開いて名前の目の前に突き出した。そして、続ける。
「それに、桜はまた来年咲くだろォが。心配いらねェよ。俺たちは居なくならねェ何処にも行かねェ。あ、辰馬は宇宙に行くだろうが、消えやしねェ。な?」
何も心配することねェだろ。
銀時はまたぽんぽんと名前の頭を撫でた。心地よさげに目をぎゅっと瞑った名前が、暫くして瞼を開いた先に見たものは、やはり信じられないくらい優しい顔だ。
庭の桜は、もうすでにこの雨で花をほぼすべて散らしていた。雨はなかなかどうして止んではくれない。木と葉だけのものとなったそれは、雨に打たれて今にも泣き出しそう。けれど、確かにそこには、次の春にもう一度咲くのだ、という強い生命力がある。
「そっか・・・また咲くもんね。」
「そーそー。だからお前が雨に打たれる必要なんかねェの。名前は黙って俺に頭撫でられてりゃあ、それだけでいいの。」
「それだけ、っていうのはいくら何でもつまんないよ。銀ちゃんじゃなくて、あたしが。だからね」
名前は少し躊躇ってから、銀時の頭を自分のされてるそれと同じようにぽんぽんと撫でた。いたずらっぽく笑って、銀時に目配せする。
「銀ちゃんも、頭撫でられてればいいの。」
今までされたことがないことをされた銀時は、名前の想像通り、少しだけ目を丸くする。そんな銀時の中からは、独占欲らしきものが湧き上がってきて、思わず名前の手を取りそのまま引き寄せた。
ぼふっ、と音を立てて銀時の胸に頭を素直に預ける名前がまた可愛らしくて、銀時は嬉しそうに笑った。
「名前。戦争終わったらさ・・・花見、しよーぜ」
「言ったよ、約束だからね。」
雨と泪は似て非なる
- 4/4 -
←→
ALICE+